Main
First:≫Main:MemoLinkClap;re

*擬人化
*3でD軍勝利IF
許せる方はどうぞ下へ










世界が滅びようとしている時、私は最愛の人と共に過ごしていたあの場所に居る。今や誰も存在しない空間で、抵抗を選ばず一人最期の刻を待つ姿は酷く滑稽で哀れであっただろう。
分かっていたけれど還らずにはいられなかったのだ。唯一共に在ることを望んだあの人は既に存在しない。全て嘘、まやかしであった。


『トール』

「何よ、」

『愛してる』

「…嘘つき」


思い出せば思い出す程辛くなるというのに私の脳は欲求に従い幸せだった日々を再生する。
ふらふら足を進めると、彼と話し笑いひたすら愛を確かめ合った庭の椅子が目に入る。意図せず涙が溢れ出た。
遠くの地響きは世界の終わりを導く楽器の音色。恐ろしい。
だが私は逃げない。ひたすら人としての最期は懐かしい我が家で過ごしたい一心であった。360°何処を見ても優しい彼の面影が脳裏に甦る。
例えば玄関。この家を買い、暮らしの場として初めて足を踏み入れたときの話になる。子供のようにはしゃぎぐるぐると辺りを見回しそのまま探検してしまいそうな私を呆れながら引き留め、急に真剣な顔になって彼は言った。


『此処に居ろ。居る限り俺はお前を探して此処に来よう』

『勿論よ。貴方が私を愛してくれてる限り、私が帰る場所は此処!』

『…そうか』


心底安堵した彼の顔を見たのはこれが最初だった。あの時は驚いたが此処で暮らすうちにもっと沢山の表情を見つけるようになる。
そのままリビングへ上がる。風呂場を開く。彼の部屋を開ける。私の部屋に入る。
そこには思い出の品ばかりが並んでいた。
彼と私の写真の前で私は崩れ落ちる。俯き溢れる涙をどうにかしようと手で抑えるが逆効果であった。

悔しい、騙されていた事を疑いもしなかったあの頃の己が。
悲しい、彼の熱も吐息も甘い愛の囁きも夢であったことが。
寂しい、家を出るとき温かい声が聞こえなくなった事実が。
愛しい、朝起きて隣に横たわりそっと私を抱きしめてくれた彼が。


「トール」


嬉しい、こんな所まで私を追ってくれた現実が。
背後よりかけられた声に驚かない。あの日、あの夜、私が逃げ彼が死んだ夜からこんな結末は分かっていたのだ。
優しい彼は死んでしまった。残ったのは恐ろしい男だった。
そして彼と共に私の向かい合いたくない感情もやって来る。あの時総てを打ち明ける彼に仄暗く薄汚れた喜びを覚えた自身が居たことに動揺してしまった。静かに後を追い掛けて来る彼に気付いたときにも愉悦が抑えられないで、家に帰らない限り私を無理矢理捕らえようとはしないのだろうと予測を付けたときガッカリした私。いつしか私は二つの心に別れ、そして独占欲を顕わにする醜い一人の女となった。


「ねえ………帰って、きてよ」

「帰るさ。だが」


つらつらと表面を滑るような言葉を述べる私の考えなど理解しているのだろう。だが意地の悪いことに一度言葉を切り、背を向けたまま俯く私を後ろから壊れ物を扱うような手つきで抱きしめる。腹部に優しく回された手はかつてあんなにも暖かかったというのに今や氷並に冷たい。そう、金属に触れているのだから当然だ。
打ち明けた今、金属を隠す理由などない。


「俺が帰るのではない。トールが帰ってくるのだ」

「サウンドウェーブ、貴方は何を考えているの?」

「トールと俺の幸せについて」


それ以外何がある?
くつくつと喉を鳴らすサウンドウェーブの言葉に嘘はないなんて分かりきっていた。それでももしかしたらと隠れていた昔の私が一縷の希望に縋ったものの、呆気なく糸は断ち切られる。


「ゆっくり眠ればすぐに不安なんて消える…さあ俺達の家に帰るぞ。我が主の膝元へ」

「ある、じ……」

「そう、偉大にして強大なメガトロン様だ。起きる頃にはこの星も我等ディセプティコンのもの」


こうして私は人としての最期を迎える事となる。
起きた時には既に私は彼等と同じ存在となっていた。





後書き
女の為に完璧な擬態をし、見事心を手に入れた音波。
総て計画通りなのでしょう。

20120430

prev next


Bookmarknamechange

 
Since.2011/07/29
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -