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出会ったのは冬も終わりを告げる頃だった。
彼は右腕と胴体に酷い裂傷、そして両の眼に異常を負った姿で道に倒れていた。町医者である私は突如運び込まれた急患に飛び上がり慌てて処置をし、彼の違和感に気が付いた。
酷い怪我だというのに出血量が少な過ぎる。
「気のせい…よね、うん」
自分に言い聞かせたもののきっと未知のものを見る目で私は彼に包帯を巻いていたのだろう。
無事に処置を終え安堵の溜め息をつく私を彼を拾った人物こと町長が笑う。
内心うんざりしながら愛想笑いを返した。
やがて彼は眼を覚ます。
窓から差し込む淡い朝日に照らされた彼を見て何度も己との容貌の違いに嘆息したものだ。だが、その身体に意思が宿るとただの美しい人形はガラリと印象を変える。
「誰だ」
事情を一通りすると彼はそうか、とだけ零す。
「酷い怪我だけど、最近あった異星人らの戦いに巻き込まれたの?」
「…そうとも、言えるか」
一連の流れを教えてくれと乞われたため、うろ覚えな部分を必死に思い出しながら語る。話終えふと彼の顔を見ると無表情に泣いていた。自覚がないようで、顔を見続ける私に気が付くと訝しげに見つめ返される。手を伸ばして頬を撫で雫を拭い取る時漸く彼はそれに気が付いたようだ。
「なんだこれは。まさか…悲しいとでもいうのかこの俺が」
信じられないように呟くと疲れていたのだろう、意識を手放しベッドに倒れた。
それから彼の名を尋ねたが彼は教えてくれなかった。流石に名がなければ呼ぶことも出来ないので割と真面目に彼に名を付けたが此処で語る必要もないだろう。
彼は確実に人間業では有り得ないスピードで身体を修復しながら過ごした。外に出れるようになっても彼は何処にも行かず妙に安心したことはよく覚えている。
春には二人で出掛けた。小さい子が彼の手を引き遊ぼうと誘う。人間の子供とはなんと面倒な事かとぼやいていた。
夏は海に。此処にあいつ等が沈んでいるのか等と恐ろしい事を言われたので思わず彼を突き飛ばし海に落として仕舞い怒られた。
秋には味覚を楽しんでみた。彼はあまり興味がないらしく私ばかり食べて太ってしまいそうに。
そして冬。凍えながら患者を診て、居なくなった後に彼が私の手を握り温めてくれた。
冬の終わりが訪れる。
彼と出会い一年が経ち。
「誰にも秘密の恋をしよう」
白がが天より舞い降りる、視界も音も閉ざされた白銀の世界の中。
そう言って私に軽く触れるだけの口づけをし、私は無言で受け入れた。
後書き
不思議な雰囲気を書きたかった。
抽象的過ぎるがショックウェーブのつもり。
20120405
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