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ナイトレイは街のあちらこちらを走り回る。
己の居た痕跡を多々残す事で敵の混乱を図っているのだ。
それも一通り終わると、精神的に余り強くないナイトレイは不安を隠す様に入り組んだ路地へ入り、トランスフォームした。
地球産のこの姿より、サイバトロン星で過ごしたのにより近いロボットモードの方が落ち着くためである。

ふう、と溜め息を吐くとナイトレイはさっきまでの騒動を思い返す。
今だかつてあんなに執拗に追われた事は無かった。
もういっそ、諦めて殺されるのも悪くないと思考はどんどんマイナスへと向かう。


「…ねえ君どうしたの?」


声が聞こえてぎょっと前を見ると人間の少年が居た。
落ち着いてなんかいられない逃げなくては。
トランスフォームして逃げようと準備すると少年が慌てて近づいてきた。
無用心な子供だ。一言言ってから行こう。


「少年。君子危うきに近寄らず、だ」

「え?それってどういう…?」


戸惑った少年にそういえば別の国の言葉だったかと考えて意味を教えた。
分からなければ口にした意味がない。


「日本という国の諺だ。元は大陸より渡ったようだが。…つまり賢い人は危険かもしれないものには寄らないという意味だ」

「危険って…君のことかい?」

「そうだ」

「何で?君は優しいじゃないか。今だってわざわざ警告してくれたしさ」


大袈裟な動作をするサム。
ナイトレイは驚いていた。
それはサムがトランスフォーマーに普通に話し掛けている事もだが、その発言にもだ。
優しいなど言われたことが無かった。


「警告したから優しいという訳にはならない。いつか騙されるぞ」

「でも今じゃないよ」

「もしかしたら急に君を襲うかもしれない。私は君より強いんだ」

「だったら何で話してるんだい?」


その言葉で急に自分の状態に気付いた。
先程まで逃げだそうと後ろを向いていた体は少年と向き合い、目線を合わせるように身を屈めている。
だがこの少年と話していて悪い気はしない。


「…少年、君が無謀だからだ」

「サム。僕はサム・ウィトウィキー」

「…?名前で呼べと?」

「そう!」


満面の笑みを浮かべるサム・ウィトウィキー。
うんうんと頷く仕草は年相応で可愛らしい。


「む…サム、君が名乗ったから私も返さなくてはいけなくなってしまった。私はナイトレイ」


礼儀には礼儀で返す。
それはナイトレイのモットーの一つだった。




20110803

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