ばたばたと慌ただしく階段を駆け上がる音。
次いで、乱暴に事務所のドアを開ける音と、「ただいま」の挨拶も忘れて寒い寒いと喚く彼女の声。

「おかえりなさい、さくまさん」
「あ、ベルゼブブさん!留守番ありがとうございました」

ぱたぱたと上着を脱いでハンガーに掛ける佐隈を横目で見ながら、これくらいお安いご用ですよと返事をしてやる。

「今日外すっごく寒かったんですよ、雪ですよ雪!」
「でしょうね。その様子を見ればよくわかりますよ」

黒いショート丈のコートにはあちこちに雪が付いているし、鼻も頬も寒さで真っ赤になっている。
傘も無かった彼女は予期せぬ雪にコートのフードで対策を取ったのだろう。おかげで、耳だけは冷えずに済んだようだ。
「雪降るなんて聞いてないよぉ」と、膨れっ面でぱたぱたと衣類の雪を払いつつ、彼女は気まぐれな天気に対してひとり愚痴る。くるくる変わるその表情に、ついつい悪戯心が刺激される。

「本当に、見ただけで寒さの程が窺えますね」
「そんなにですか?」
「えぇ。鼻水まで垂れていますからねぇ」
「嘘っ!?」

勿論、嘘だ。予想に違わず簡単に騙されてくれて非常に有り難い。
大慌てでしゃがみ込み、床に放ってあったバッグを漁りポケットティッシュを探す彼女。
その無防備な背中にそっと近付き抱き着いてやると、「ぎゃっ」という何とも色気の無い悲鳴と共に捜し物をしていた手が止まった。

「べ、ベルゼブブ、さん?」
「何ですか?」

こちらを向かずにぎこちなく問い掛けてくる。
生憎この位置関係では顔を見れないが、大方は想像出来るのでまぁ構わない。

「あの、何、してるんですか……?」
「何って、冷えてるから温め直すんですよ」
「な……っ!?何馬鹿なこと言って――」
「何か、問題でも?」

問題があるのでしたら離れましょうか、と抱きしめる手の力を軽く緩めてみると、ほんのり温かくなった小さな手で即座に掴み止められた。

「……別に、問題はないですけど」
「そうですか。では、温まったら離れますので仰ってくださいね」

彼女がコクリと小さく頷いたのを確認して、またぎゅうっと抱きしめてやる。
最初に触れたときから急激に身体が熱を帯びはじめたこととか、霜焼けから逃れたはずの耳が何故か赤くなっていることとか、からかいようはまだ幾らでもある。もう温めてやる必要なんて無いくらいに発熱していることなんて、解っているのだ。
けれどもそれは全部一旦捨て置いて、彼女が「もういいですよ」と言い出すのを待つことにしよう。

彼女が自分からそう切り出して来ることはないだろうということも、解っているけれど、ね。



(レンジは借りませんが、大事なモノを温めさせて頂きますよ)




* * * * * *
とっても解りづらいですが両想い状態。
素直じゃないさくちゃん。
そして季節感ガン無視で冬話という…!


back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -