(『はじまりは緩やかに』の続きのお話。)





――全くもう、ベルゼブブさんったら人使いが荒いんだから。

乱暴な要求振りに対する不満を呟きつつ、空っぽの皿を持って台所へと足を運ぶ。
こう口では文句を言っているものの、実際のところはかなりご機嫌だったりする。
目の前の綺麗に平らげられたカレー皿、それに加えて先程のベルゼブブのあの発言。こんなに自分のカレーを気に入ってもらえると実感してしまっては、怒る気分なんてちっとも湧きやしない。

(でも、さっきの発言にはちょっとびっくりしたなぁ……)

ぼんやりと先程のやり取りを思い出しながら、炊飯器からご飯を装う。

(突然真面目な雰囲気であんなこと言い出すんだもん。しかも変な所で言葉区切るし。)
(あんな言い方されるから……一瞬、告白でもされたのかと思っちゃったじゃないですか!危うく勘違いするところでしたよ恥ずかしい…!)

羞恥心でうっすらと頬を赤らめつつ、大鍋のカレーの様子を伺う。作り立てのカレーはまだ熱々の状態を保っている。これなら温め直す必要もなく、そのまま装っていけそうだ。

(私ったら、自意識過剰もいいところですよ……あのベルゼブブさんが、そんなの、有り得ない)

たっぷりとカレーを盛りつけて、リビングに戻ろうと皿を持ち上げかけた、その時。

微かなあの人の囁きが、聞こえた。聞こえてしまった。


(聞き間違いじゃ……ない、確かに今……)

(……え。嘘。嘘でしょ?)

突然の事故に、全身が火照る。先程の比ではないほどに。

(待ってよ、どうしよう)
(そんなこと聞いちゃったら、)

(どうしたって、意識しちゃうじゃないですか――!)

どんな顔してリビングに戻ればいいのか、右往左往している間に、温かかったカレーも冷めてしまった。
レンジでカレーを温め直す数分の間、ベルゼブブに気付かれないようにとひたすらに祈りながら、どうにかいつも通りの自分に戻そうと、私はひとり百面相を繰り広げていた。

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