*** 同じ空を見ていた ***
「もう夜も遅いですし、今日はそろそろお引き取りいただけますか?」
此方の気持ちなんて微塵も知らずに、無神経なあの女は容赦無く私を魔法陣の奥へと押し戻す。
少しでも長く一緒に居たい。
出来るのならばいつだって隣に居たい。
そんな願いが叶う日はいつか来るのだろうか。
現状から考えると、そんなのは果てしなく遠い未来にでも実現するかどうか危ういというレベルであろう。
どうにもなりそうにない行く末に落胆の溜息を漏らしつつ、魔界の夜空を仰ぎ見る。
今宵は月がやけに目立っている気がする。随分と青白く輝くその様は、薄気味悪いような、神々しいような、そんな印象を植え付けられる。
……。
ふと思い立って、ポケットにしまっていた携帯を取り出す。受信履歴から入力する、すっかり見慣れてしまったアドレス。
アンテナの一本も見当たらない癖に、一体どんな理屈で通信機能が成り立っているのだか。何とも都合の良いお話だとは思いつつも、使えるものなら盛大に利用させて頂こうではないか。
さくさくと思ったままに文章を打ち込み、半ば勢い混じりにさっさと送信ボタンを押してしまう。
返事が来るまでの待ち時間のことを考えると憂鬱な気分になったが、幸いにもそんな心配の必要もなく、然程間を置かず携帯を握り締めた手に振動が伝わった。
『突然どうしたんですか?こっちも綺麗な満月が出てますよ』
此方の質問への答えのみを打ち込んだ、彼女らしい端的なメール。それでも、その要点さえ聞けたなら、今日はもうそれだけで十分だ。
こちらとそちらで違いはあるのか少々気になっただけですよ、と。素っ気ない文面を返して遣り取りを終わらせる。
今はまだ隣に並んで空を見ることは叶わなくても。
こうして同じ空を見られるのなら、違う世界でも同じモノを感じられるのなら、可能性はゼロではない、そんな風に思えたのだ。
情けないほどに妥協的な一歩だとしても、今はまだ、それだけでも構わないと思った。
今はまだ、ひとりで仰ぎ見るこの景色。
願わくば、いつかは君の隣で同じ空を。
『べーさくへの恋の3つのお題』
提供元:3つの恋のお題ったー
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