Episode 4
そのふざけた幻想を




呪い解除の手掛かりを探し求め、今日も一日あちこち歩いて回って日が暮れる。

「暗くなってきましたね……さくまさん、今日はそろそろ切り上げましょうか」
「何言ってるんですか、まだ6時回ったばかりじゃないですか!」
「しかし、今日は朝から歩き通しだったでしょう?そろそろ…」
「まだまだ余裕ですよー」

「次行きましょう」と元気良く駆け出す佐隈。しかしその足元は、気合いたっぷりな口調とは噛み合わずふらふらと覚束ない。
元の身体と今の身体の身体能力の違いを未だ把握仕切れていないのだろう。
案の定、心配するベルゼブブが声を掛ける間もなくすぐに躓き転んでしまった。

「……全く、仕様が無い」

転んだ拍子に擦りむいた膝を気にしながらも、アスファルトに手をついて自力で立ち上がろうとしている佐隈。
その小さな身体を、ベルゼブブはひょいと軽々と持ち上げて胸元に抱き抱えてやる。

「ちょっ、何してるんですかベルゼブブさんっ!?」
「五月蝿い。今日はこのまま帰りますよ」
「いや降ろしてくださいよ、恥ずかしいですって!」
「まともに歩けないほど疲れてるくせに生意気言うんじゃありませんよクソガキが」
「……そんなこと……っ」
「中身が大人なら、自身が子供であることをいい加減理解なさい。その身体での体力の限界は元よりずっと低いのですよ」

やや厳しい口調で説教してやると、ようやく抵抗を止め大人しくなったので、そのまま佐隈の自宅へと足を向ける。
黙っていれば、随分と可愛いものだ。ごく普通の、可憐な少女にしか見えない。

――もし、私と彼女の間に子供が生まれたら、娘が生まれたら、こんな感じだろうかとベルゼブブは夢想する。
彼女と、彼女似の美しい艶のある黒髪の娘と、私との三人で。家族として三人で出掛けて、そして――


「……何ニヤニヤしてるんですか?気持ち悪いですよベルゼブブさん」
「……」
「もしかしてロリコンだったんですか?……スカトロの時点で既にアレなのに異常性癖二つもってもはさすがにちょっと」

一瞬にして、見事に、人の楽しい幻想をぶち壊してくれやがった。
思わず馬鹿でかいため息も吐きたくなるというものだ。

「はぁ……黙らっしゃいクソガキが。突き落としますよ」
「そんなことしたら児童虐待で訴えますよ」
「こんな時だけ子供ぶってんじゃねぇよクソ女がっ!」
「たった今ベルゼブブさんが『子供だって自覚を持て』って言ったんじゃないですか」
「……っどこまでも口の減らない……っ!」

どこまでも理知的に、冷静に口撃を仕掛けて来る佐隈には、ほんの数日前に事務所で泣きついてきた時のような健気な様子はもはや皆無。あの時のしおらしさは一体どこに消えてしまったのだろうか。
扱いの悪さに若干の不満は無いとは言えないが、しかしこれが佐隈の不安が和らいだ故の変化だというのなら、非常に喜ばしいことだと思える。

ベルゼブブのそんな思いは自然と表に漏れ出て、また表情が弛む。
そして、そんな思いなど知る由も無い佐隈に、また罵詈雑言を浴びせられる羽目になるのだった。



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