Episode 3
just life! all right!



薄汚れた味気無い鉄の部屋とは180度対照的な、清潔感と生活感のあるワンルーム。シンプルな内装ながらも端々に女性の部屋という気配は感じられる、佐隈の自宅。
芥辺の結界の力が及ばないそこでベルゼブブは本来の姿のまま喚び出され、少し手狭なキッチンで、佐隈と二人並んでカレーを作っていた。

先に『喚び出され』と述べたが、実際それはベルゼブブ自身の指示に因るもの。
佐隈が不慣れな身で日常生活にすら支障をきたすような状態であるならば、人型の方がサポートしてやりやすいし、犯人探しにも大人がいたほうがスムーズに進められるだろう、という判断からのものだ。


「そしたら一旦火を止めて、そこのルー入れてください」
「こうですか?」
「はい。で、それを掻き混ぜて溶かして……」

踏み台に乗った佐隈が横から指示を出し、ベルゼブブがその手足となって動く。阿吽の呼吸、とまでは言えないが、そこそこ上手く連携は取れているように思われる。

「……しかし、自分の為の生贄を自分で作るというのも何だか妙な話ですな」
「言われてみれば確かにそうですねぇ……あ、底のほうまでしっかり掻き混ぜてくださいね。焦げ付いちゃいますから」
「はいはい」

佐隈の注意を受け、不慣れな手つきで慎重に鍋を掻き混ぜるベルゼブブ。
鍋の中の茶色い液体は徐々にとろみが増してきている。完成まではあとちょっと、といったところだろう。

「……っていうか、これ、ちゃんとベルゼブブさんへの生贄として成立するんでしょうか…?」
「ふむ、尤もな疑問ですな」
「も、もし生贄として成り立たなかったりしたら私ペンギンとか蝿とかになっちゃうんじゃ…」
「まぁ、大丈夫なのではないですかね。一応私自身は今日の分の生贄だと認識しておりますし」
「本当ですか!?これで『やっぱり駄目だったよ☆』とかなったら洒落にならないですよ!?」
「心配要りませんよ。仮にこのカレーが生贄として認められなかったとしても、他で補って頂いておりますから」
「他?……ってなんですか?何かあげましたっけ私」
「気にしなくていいです。ほら、カレー出来ましたよ、早く食べましょ」

はぁい、と、佐隈は元気良い返事を返して、ぴょんと踏み台から飛び降りぱたぱたと食器を取りに走る。

仮に、カレー自体に生贄としての価値が無かったとしても。
こうして佐隈の部屋で、佐隈とふたりで、佐隈と一緒にカレーを作ること。
そんな環境そのものが、ベルゼブブにとっては十二分に対価となりえる価値のある貴重なひとときなのだった。

呪いなんて解かずに、ずっとこうして一緒に過ごしたい、と思ってしまうほどに。


*****


「ふぅむ……やはり、さくまさんのカレーのようにはいきませんねぇ」
「初めてでコレなら十分ですって。ちゃんと美味しいですよ?」
「いえ。あのとびきり美味しいカレーの為にも、やはり早く元に戻って頂く必要があるようですね」


prev ← → next





back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -