喚び出され。仕事をこなし。そして生贄としてカレーを要求する。

こんな一連のやり取りがすっかり日常に思える程に、私が彼女と行動を共にする時間は積み重なってきた。
セクハラ行為ばかり立派でさっぱり役に立たないアザゼル君は近頃見事にさくまさんにスルーされており、この優秀なベルゼブブだけが喚ばれることがしばしばである。
アクタベ氏も彼女に任せた仕事には同行せず、別件で事務所を開けることも多い。

それゆえに。必然的に二人きりで行動する機会が増えていったわけで。

結果。あの半人前のクソバカ女に、魔界のエリートであるこの私が、少なからず好意を抱いてしまっているということは……不本意ながらも認めざるを得ないわけで。


そんな状況下に置いては。今現在の二人きりでの生贄タイム、もとい昼食の時間も、悔しながら嬉しいなどと感じてしまうことも致し方ない事態なのである。

だが、しかしながら。貴女にそうアクタベ氏の話題ばかり持ち出されては、そんな気分も苛立ちに変わると言うものだ。
それは幸いにも恋愛感情等ではなく、ただ単純に謎の多い氏に対する好奇心から来るもののように見受けられる。
……だがそれでも、気に喰わないモンは気に喰わねぇわけで。ったく本当どうしようもなく空気読めねぇなちったぁ察しろよこのクソKY女がよ。

「……さくまさん」
「はい?どうかしましたかベルゼブブさん」

若干苛立ち混じりの声色で、尚も尽きぬアクタベ氏への疑問話を無理矢理に遮ってみる。が、残念ながら効果は皆無のようだ。
いや『どうかしましたか』じゃねぇだろうが何処までKYなんだよテメェは。
――あぁそうか、馬鹿にはハッキリ言わねぇと解んねぇんだな?

「好きですよ」
「……は?」
「あなたの」

あなたの、ことが。
そう言い切ってやったらこのアホ面はどんな顔に変わるのだろうか。
更にレベルの高いアホ面を晒して動揺するだろうか。
もしかして赤面してくれたりするんだろうか。

……はたまた、拒絶されるのだろうか。
もう喚んでもらえなくなって。
こんな時間を過ごすことは、二度と叶わなくなるのだろうか

「…あなたの……作る、カレーが、ね」

一瞬の間に脳裏を過ぎった最悪の可能性に気圧され、残り3文字を口に出せず対象をすり替えた。自らの不甲斐無さに落胆すると同時に、ごまかし切れたかどうかと不安が押し寄せる。冷静を装うため、黙々とカレーを口に運ぶ。

「……」
「………」

沈黙が続く。不安と後悔に押し潰されそうになる。
耐え切れずこっそりと彼女の表情を伺うと、先程と変わらぬアホ面で固まっていた。どうやら思考回路がフリーズしている模様だ。

「……カレー?」
「えぇ。カレーです。逸品ですよ」
「……あははっ!もーどうしたんですか突然そんな事言って!」

やっとまともに回路が繋がったようだ。どんだけ頭の回転鈍いんだよバカ女が、と思いつつ、いつもと違わぬ調子でけらけらと馬鹿笑いをする様子にほっと胸を撫で下ろす。

「おや、カレーにはうるさいこの私が折角褒めてやっているというのに。笑い飛ばすとは失礼極まりないですね」
「だって、ベルゼブブさんが唐突に、柄にも無く、真面目なノリで珍しいこと言い出すから!びっくりしたじゃないですか!」
「心外ですね。私はいつだって真面目でしょう」
「なぁに寝言言ってるんですか。でも」



「嬉しいです。ありがとうございます、ベルゼブブさん」

そう言って彼女は微かに頬を染めて私に満面の笑みを向けた。

「はーぁ……全く困ったもんだよこのクソニブ女が」
「ん?何か言いました?」
「何でもありませんよ。そんなことより、お代わりお願いします」
「えー、自分で取って来ればいいじゃないですか」
「いーからさっさと持って来いってんだよこの単細胞女がっ!」
「もう、わかりましたよ、仕方ないですねー」

悪態をつかれ彼女は渋々と台所に向かっていった。
が、さっきの褒め言葉が効いているのか。不満げな言葉を吐きつつも、顔のニヤつきを全く隠せていない。
単純でオメデタイ頭の女だな、と呆れる反面、そんなところもまた可愛いと思ってしまう自分はそろそろ手遅れな重症具合なのだろう。

「好きですよ、さくまさん」

台所のあの人に届かないように。こっそりと、小声で吐き出した。


いつか、きっと。目の前で、ちゃんと伝えますから。
だからもう少し、準備期間を下さいよ。


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