Episode 2
あくまで紳士。




生贄のカレーを作るため、スーパーにて食材の買い出し中。
何てことの無い、ただの買い物。その何てこと無いようなことに、佐隈は悪戦苦闘していた。
普段より半分近くの身長である現在。そこには思いがけない不便さが隠れていた。

視点が低くて違和感がある。棚が高くて手が届かない。買い物カゴも大きいし重いしで持って歩くのも一苦労。ならばカートを使えば楽になるかと思いきや、そのカートもこの身長ではまっすぐ走らせるのはそれなりに難易度が高かった。

子供とはこれほどまでに不便な存在だったのか。これほどまでに、一人では生きて行くのが困難な弱い存在だったのか。
今まで何の苦労もする必要もなく当たり前にこなせていた日常が、ちっとも思い通りにいかないことに、佐隈は憤りを感じていた。

「さくまさん、コレ買っていいですか?」

真横からの声に首を捻ると、カレー用牛肉(半額シール付き)を抱えたベルゼブブとばっちり目が合う。

「え、あぁ、いいですよ。それ半額ですしね」

そう。目が、合ったのだ。いつもならもっと高い位置で羽ばたいているはずのベルゼブブと。
元のサイズの時にいつも隣を向くと目が合う高さで飛んでいたベルゼブブと、今も同じように顔を合わせられている。
つまりそれは、彼が佐隈の目線に合わせて高度を落としてくれているということ。
そして、きっと今までも佐隈の視界に合わせて飛んでいてくれていたのだろう、ということ。


そんなにビーフカレーが食べたい気分だったのだろうか、酷くご機嫌な調子で牛肉をカゴに入れたベルゼブブは「カレールーも探してきますね」と別の棚へと向かう。
重たい買い物カゴに苦戦していたのを知ってか知らずか、そのカゴを佐隈の手からすっと掠め取り、そのまま両手で掴んでカレーの棚に飛んでいってしまった。


それもこれも、露骨にアピールするではない、紳士的な、さりげない気遣い。
あんなに小さな身体でも中身は立派な紳士なのかと思うと、何だか微笑ましい。

ベルゼブブにとっては特別という訳でもない、魔界の紳士としてごく自然な行為なのかもしれない。
彼の見せる「いつも通りの光景」がどれ程佐隈を安心させているのか。
きっと当の本人は気付いていないのだろう。


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