Episode1
お出かけ前に。



「……さて。早速犯人探し……と言いたいところですが」

ベルゼブブは佐隈を一瞥し、何か言いにくそうにしながら視界を他所にずらす。すぐに探しに行けない不都合でもあるというのだろうかと、佐隈はやきもきする。

「え、早く探しに行きましょうよ!さっさと元に戻りたいですよ!」
「――このクソバカ女。自分の置かれている状況をよく見てご覧なさい」
「へ?」
「そんな格好じゃ何処にも出ていけやしないでしょうが」

何かおかしなところなんてあっただろうか。
いつもと同じような服装だし、何も問題無いはずと思いつつも、自身の格好をよくよく見てみる。

「……あっ……!?」

前言撤回。問題点だらけだった。
身体が幼児化していたことによる弊害がすっかり思考から飛んでいた。衣服も一緒に縮んでくれるなどという都合のいい展開には残念ながらならなかったのだ。
ズボンはサイズが合わずに脱ぎ捨てられてたまま、身に纏っているのはぶかぶかのTシャツ一枚のみ。
こんな格好では、外に出た途端に警察か不審者に捕まるのがオチだろう。

「どーしよう……これじゃ事務所から動けないよ……」
「気付いて頂けて何よりです、では私は魔界に戻ります」
「えっ、ちょ…っ!助けてくれるんじゃ無かったんですか!?」
「だから、その為に『一旦』戻るんですよ!」
「……どういうことですか?」

とにかく十分後にまた喚ぶように、と言い残し、ベルゼブブは魔法陣に潜っていった。



*****



十分後、再び現れたベルゼブブは、ふわふわとした布のようなものを抱えていた。
それを、どうぞ、と言って此方に放り投げてくる。

「……何ですかコレ?」
「見れば分かるでしょう。子供服ですよ」
「どこからこんな服を…?」
「家にあったものですよ。下で待っていますから、早く着替えておいでなさい」

ベルゼブブはそれ以上の追求を避けるかのようにして階下に降りていってしまった。
渡された衣類をまじまじと見てみる。ボタン周りにフリルを誂えた白いブラウスに、上半分がベスト状のデザインの黒いワンピース。ふんわりしたスカートの裾はこれまたフリルで飾られている。
お伽話にでも出て来そうな、随分と可愛らしいデザイン。正直、普段の服の趣向と違いすぎてこれを着るのは気恥ずかしい。
しかし、折角用意してもらったものに文句を付けられるような状況ではない。諦めて着替えてベルゼブブの待つ事務所へ向かった。

「なかなか似合うじゃないですか」
「……うるさいです、あんまり見ないでください」

与えられた服は、ベルゼブブの服と随分と似た作りだった。自分の方だけ見ていたときから薄々そんな気はしていたが、並んでみるとよりそれが際立つ。

「照れているんですか?……あんなコスプレしてたくせに、何をこの程度で」
「うっ、うるさいですよっ!!」

彼の家のものなのだから、似ていて当然なのだとは分かっている。

分かってはいても、このお揃いの服という状況は、イチゴコスプレなんかより何倍も恥ずかしいものだった。


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