アザゼルは不満を抱いていた。

何に対してかって、それは、自身に対する契約主のぞんざいな態度にである。
同様に契約を結んでいるベルゼブブに対しては妙に物腰が丁寧だし、奴と一緒に悪事を働いても罰はこちらだけに飛んで来る。この扱いの差は何だというのか。
何より気に入らないのは、生贄の格差だった。ベルゼブブへの生贄は手間暇掛かった手作りカレーだというのに、自分へは業務用スーパーかどっかで安く仕入れてきたであろう豚足一本。いくらなんでも差が有りすぎやしないだろうか。
喚び出されるのは昼時や夕食時が多いため、食事としてベルゼブブと共にカレーを食べさせて貰えることは多い。今日も仕事前の昼ご飯としてたった今提供された所である。しかし、食べれればいい、という問題ではない。
いくら美味しくても、これは「ベルゼブブの為のカレー」なのだ。
そう思うと何故だか無性に悔しくなる。
自分の方が彼女との付き合いが長いのに、奴ばかり気に入られている。そんな現状に、アザゼルはよく分からない苛立ちを覚える。


ベルゼブブもまた、不満を抱いていた。

何に対してかって、それは、自身の友人と、それに対する自身の契約主の態度にである。
彼女から私へと用意される生贄。彼女お手製の、私の為に作られた美味なるカレー。
それ自体には何の不満も無いのだ。この美味さの為ならば、多少の面倒事くらいは請け負ってやっても構わないとさえ思える。それ程までに、自分は彼女のカレーを気に入っていた。
不満なのは、そのカレーを味わえるのが、自分だけでは無いということ。
今日も佐隈はアザゼルを喚び、生贄の豚足を与える。そして、昼食として私の生贄を分け与えるのだ。
何故奴はこのカレーを食しているのだろうか。質はどうあれ、奴は生贄をこれとは別に貰っているというのに、更に施しを受けるというのは不公平ではないか。
あれは、私の生贄だ。私の為に用意されたものだ。
だから、あれの全ては、自分だけが味わう権利を有しているべきものなのに。このカレーの美味しさも、その為に掛けられた手間も、このカレーで感じられる至福のひとときも、全てが私の為だけに有るべきだというのに。
それなのに、何故佐隈はアザゼルにそれを分け与えてしまうのか。普段アザゼルに厳しく冷たく当たっているようで、時折そんな甘さや優しさを垣間見せる。佐隈のそんな一面が、妙にベルゼブブを苛立たせるのだ。



お互いがお互いに感じている苛立ち。
その原因の大元が何なのか理解出来ずに、彼らは今日もまた行き場の無い苛立ちを抱える。

それが独占欲であり、俗に愛だの恋だのと呼ばれるものであり、その苛立ちが嫉妬と呼ばれる感情だと、彼らは気付かない。
その嫉妬の対象が誰であるかも、彼らはまだ気付かない。

アザゼルが「ベルゼブブのカレー」を気に喰わないその理由も。
ベルゼブブが執着しているのがカレーそのものに対してだけでは無いと言う事実も。


彼らが全てに気付いて、それを認められるのは、まだしばらく先の話である。


* * * * *

はるこさんより頂いたリクエストを基に書かせて頂きました。

しかし書き上がってから気付いたのですが、
アピール要素が…全く表に出てませんでした……!
もし物足りないようでしたら、もう一本書き直させて下さい、すみません!

リクエストありがとうございました。


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