(※べー→さく/死ネタ注意)


















一瞬の油断が命取り。
大概は比喩表現として大袈裟に使われるような言葉。それが比喩なんかで済まないような事態は滅多にお目にかかれないだろうし、出来ることなら一生お目にかかりたくはなかったものだ。その取られる命が自分のモノだなんて場面なら、尚のこと。

たった今、持ち主がほんの少し席を外した隙に盗まれてしまった一冊の古ぼけた本と共に、このベルゼブブの命は呆気なく消え失せようとしている。

理解はしていたつもりだったが、本当に消えるのか。本当に終わるのか。たかが本一冊奪われただけで。
どんなに酷い傷を受けても、身体を木っ端微塵にされても、それでも死ななかったというのに。…しかし、その異様なまでの再生力すらもあの本の力に因るもの。結局のところ、我々職能持ち悪魔の生殺与奪の権利の全てはあれと切り離すことなど不可能なのか。実に疎ましい存在だ。

「……え……ベルゼブブさん!?何で…っ!?」

やっと私の元に戻ってきた雇い主。普段ミスばかりやらかすあの女も、このあからさまな非常事態は見逃しようがなかったようだ。

思えば、あの本が無ければこの女と出会うことも無かったはずた。何処までも疎ましい。あんな本さえ無ければ、契約を結びさえしなければ。
そうだったならば、こんな女に、身も、心も、振り回されずに済んだのに。
自分の命が終わろうとしているその最中だというのに、頭に浮かぶのは彼女へ伝えたい想いばかりだとは。魔界で一、二を争うほどの悪魔が、とんだ腑抜けっぷりだ。

「嫌ですよそんなの、行かないでくださいよぉ…!」

ボロボロと涙を零して、周りの目も気にせずにみっともなく泣きじゃくる。

「私のせいで、こんな、ごめんなさい……っ!」

私と契約なんかしなければ、こんな顔をさせずに済んだのだろうか。こんなに、辛そうな思いをさせずに済んだのだろうか。きっとあんな本に関わらない方が、貴女は幸福だったに違いない。

「……ねぇ、さくまさん?」
「ベルゼブブさんっ!?無理しないで――」

だが、それでも、私は。これほどにまで痛め付けられ、振り回され、軽々しく命を奪われ、結果愛する人を悲しることになろうとも。

「ありがとう、ございました」
「……え……?」

それでも、私は、あの本のおかげで

「アナタに出逢えて、私は――」

貴女と過ごせて幸せだった、と。認めざるを得ないのです。



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