(※べー→さく/死ネタ注意)

















ざぁざぁと打ち付ける雨。黒い雨雲に覆われた薄暗い昼下がり。そんな景色に不似合いに、きらきらと発光するこの私の身体。
意識はある、感覚もある。それでも端から少しずつ薄れていくこの身を見ると、あぁ、もうどう足掻いても手遅れなのかと、嫌でも思い知らされる。雨の冷たさも、土砂降りの五月蝿さも、もはやどうだっていい。残っている感覚ももう意味を成さない。どうせ間も無く死ぬのだから。

雨音に紛れて聞き覚えのある声が聞こえる、それと同時にがっと乱暴に身体が持ち上げられた。触れられた部分から伝わる温かな柔らかい感触。何事かと眼を動かしてみると、随分と不細工な顔をした我が雇い主がこの消えかけた身体を抱き抱えていた。
傘も差さずにずぶ濡れで悲鳴めいた声を上げる彼女。ぽたりぽたりと、雨粒がその顔を伝って落ちてくる。さっきまでとは何だか違う、しょっぱい雨粒。なんだこれは?
奇妙な感覚を受けて彼女を見上げると、こちらを見つめる瞳が潤んでいる。よくよく聴けば、ベルゼブブさんベルゼブブさんと必死に叫ぶ声も嗚咽混じりで震えていた。あぁ、泣いていたのか。道理でいつも以上に酷い顔な訳だ。

この身体はあとどれだけ持ってくれるのだろうか。彼女の表情がどんどん険しくなって行くのを見ると、もう時間は僅かしか残っていないのだろう。

……泣くんじゃありませんよ、この馬鹿女。

思うように動かせなくなった嘴で、どうにか言葉を紡いでみる。彼女に声は届いたのだろうか。僅かに期待してみるがそれも虚しく、彼女の表情に変化は見られなかった。激しい雨音に掻き消されてしまったのか。もう、今の私には言葉ひとつすら伝えられないのか。

それなら。
もう私の声なんて届かなくて構わないから。私の想いなんて伝わらなくて構わないから。
だから雨よ、彼女の声を阻まないでくれ。彼女の温もりを奪わないでくれ。

この身に残った五感に意味があるのならば。消えてなくなってしまう前に、出来るだけ、彼女を身体に、記憶に、刻み込みたい。たとえ無駄な足掻きだったとしても。
私が彼女に不釣り合いな薄汚れた悪魔だとしても、そんなささやかな最期の願いくらい、許されたっていいだろう?


雨が、煩い。
どうか、邪魔をしないでくれ。
あと、少しだけ、なのだから


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