意味なんてなくたっていいけれど


彼とのキスに飽きが来ることなんて、この先、一生ないんだろう。形の良い桜色の唇、女の私でも嫉妬しちゃいそうなくらい。淡い青のカーテンから漏れる朝日に目を細めた私は、横で規則正しい呼吸を繰り返しながら眠るクラウドの首筋を見つめ、昨日の情事を思い出す。少し体温が上がった。頬に一つ触れるか触れないかのキスを落として、ふと先日の友人との会話を思い出す。

「キスって、する場所によって意味が変わるらしいよ」

その時は、へぇ、と何とも興味なさげに右から左へと受け流していたが、今更になって興味が湧いてくる。確か頬へのキスは厚意や友情だったはずだ。私の気持ちを表現するには、すこし違う。枕元に置いていた携帯に手を伸ばす。知りたいことがすぐ調べられる。本当に便利な世の中だ。暫く携帯を眺め情報をインプットした私は、クラウドの手をとって手のひらへ唇を寄せた。これは懇願のキス。所有したい。自分のものにしたい。本人にはあまり知られたくない少し歪んだ愛情表現。

「…名前、どうしたんだ」

流石に起きるとは思っていた。私の行動に驚いたクラウドだけれど寝起きの目は、まだ焦点が定まっていない。かわいい。私は少しの動揺を隠すため煙草に手を伸ばし、流れるような動作で火をつけて息をひとつ吐いた。白い煙が朝日に重なって溶けていく瞬間は昔から好きだ。

「キスって、する場所によって意味があるらしいの」
「…じゃあ、手のひらにするキスはどういう意味なんだ?」
「内緒」

明らかに不機嫌になる彼の表情。それから私の手首を掴んだ後、私が煙草を口から離した瞬間に、少し寂しくなったそこへと唇が重ねられた。

「…唇へのキスは?」
「ストレートな、愛情。や、待って。火、持ってる。危ないから」

私の制止を無視してクラウドはキスを降らせながら、その意味を私に問い続ける。髪の毛、恋心の証。鼻、守りたい。まぶた、憧れ。耳…誘惑したい。

「俺は今、名前を誘惑してるから正しいな」
「何言って…あっ」

耳たぶを舌先でくすぐられ、つい甘い声が漏れる。力が抜けていく感覚を覚えて灰皿へと煙草を押し付け火を消すと、私の視界はクラウドと天井だけになる。

「…首は?」
「どく、せんよく」
「正解だな」

普段あまり気持ちを簡単に口にしない彼から簡単に出てくる告白に、胸がいっぱいになる。今、思えば手のひらへのキスと首へのキスの意味はどこか似ている。同じ気持ちでいてくれたんだと、片思いしていた恋心が実ったような幸せな胸の苦しさを感じる。

「手の甲の意味はね」
「ああ」
「自分のものにしたい、だよ」

もう叶ってるだろ、なんてクラウドが言うから、私から離れないでね、という言葉の代わりに、上唇にキスを落とした。



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