いっそ、私の全部をあげる


お誕生日、おめでとう。そう告げて私が彼へ差し出したのは小さな箱。彼がいつも着ているノースリーブのニットのような深い紺色をしたベロア生地のもの。不思議そうな顔をした彼が箱を開ける、その指が動く一部始終をじぃっと見つめた。

「…ピアスか」
「そ。クラウド、いつも同じのつけてるでしょ?」
「誕生日に何かをもらったのは、いつぶりだろうな…」

透明の輝きを持った小さい石のピアス。恋人でもない相手にアクセサリーの贈り物なんて傍から見ると、とてつもなく重いんだろう。でも、きっと彼はそんなこと知らない、から。

「つけてあげるよ」

そんな口実で彼の耳へ触れる。柔らかくて薄い耳たぶ。キャッチを外してピアスホールへと沈めるように押し込むと何だかゾクゾクした。私の一部が彼と、ひとつになったみたいで。

「うん、似合ってる」
「…大切にする」

クラウドは優しいから、きっと私の贈り物を、ずっと付けてくれる。いつもと違うピアスに気付いた周りの人達に、どうしたの、と聞かれたら、私に貰ったプレゼントだと何の躊躇いもなく答えてくれる。絶対、絶対。だって、私は彼を見てきた。何年も前から知ってるの。一目惚れだった。あのね、私、本当の貴方も、未来の貴方も知ってるよ。本当は、元ソルジャーなんかじゃないってことも。悪いところも、全部受け入れるよ。クラウドの傍にいられるなら、私、他に何もいらない。

「好きだよ、クラウド」

思い切って、言ってみたのに、何の反応もしてくれない。ひどいなぁ、何か言ってよ。そう言って腕を軽く叩こうとすると、私の前から消えてしまった彼。あ、また、失敗しちゃった。

「ク、ラ…ウド」

目に映ったのは、テレビ、の中にいる愛しい人。さっきまでは確実に私の前にいた、彼。溜息をついてから、手を強く握りしめると、感じる痛み。ゆっくり広げた掌の中には、さっきクラウドに付けてあげることが出来なかった、もう一つのピアスが小さく輝いている。

「きっと…もう少し」

待っててね、クラウド。



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