愛してるから言える言葉がある


どうしよう。
完全にやってしまった。


始まりは数時間前。
クラウドとの件でなんとなく最近疎遠になっていた彼女から、久々に電話がかかってきた。

元気にしてるかな。
でもあの子は「大丈夫?」なんて聞いても「大丈夫だよ。」としか返さないだろう。
そんな大好きな友人に私からは連絡しかねていたところへの、当人からの電話。
勢い余ってすぐに電話に出たけど、やっぱり彼女の声にはどことなく張りがなかった。


少し世間話をしていると、彼女が少し気まずそうに口を開く。

「あのね、今日店行っていいかな、会って話したい」
「当たり前じゃない。いつでも大歓迎」

そう、いつでも。
あなたにも彼にも、言わなきゃいけないことがたくさんあるから。

「あの、今日、さ…」
「大丈夫、今日は帰ってこないよ」


夜には来ると言うので、
いつもより綺麗にカウンターを拭いて、
張り切ってグラスを磨いて…

でもやっぱり考えてしまうのは彼女とクラウドの事だった。



お互い、大好きなのにな。



大切な2人のすれ違いに歯がゆさを感じながら、でも何も出来ない自分に小さくため息をついた。




すっかり外は暗くなった。
やっぱり友達と会えるのは、どんな理由があろうと嬉しい。

楽しみ。はやく来ないかな。

来たらきっと、たくさん話を聞いてあげるんだ。
そしてあわよくば、また彼女の気持ちがクラウドに向いてくれないかな、なんて。




「こんばんはー…」


様子を伺うような声とともに、ゆっくりと店のドアが開く。
思わず大きく名前を呼んでしまった私に、彼女はどことなく申し訳なさそうに笑って、いつもの席のひとつ隣に腰掛けた。



「元気だったの?心配してたんだから」

いつもより少し綺麗なグラスにお酒を注いで問いかける。

「うん、まぁ、ぼちぼち」


やっぱり。
落ち込んでるのをそれとなくはぐらかそうとする彼女に

「そう言う人って大体元気ないよね」

と、少し意地悪な言葉を投げかける。
いつも口達者な彼女が、少し言葉を詰まらせた。

わかってるよ、図星でしょ。
だってあなたたち似てるんだもん。
その、困ったらグラスを少し揺らす仕草だって同じ。


「…クラウド、元気?」
「うん、まぁ、ぼちぼち」

元気なはずない。
だって、彼はあなたのこと、まだ。
それに彼もこの半年でずっと成長した。




1度だけ、クラウドに普段より強めのお酒を出して全部吐かせたことがある。
出てきた言葉は、後悔と反省、そして、


「やっぱり、一緒にいたいんだ」


っていう本音。
お互い素直になれば、きっとまたあの時みたいに、また仲良くなれるのに。



「でも、色々と変わったんだよクラウドも。だからもう一回ちゃんと…」
「ごめん、私から聞いたのに、もういいの、ごめん。」


私の話を遮って、彼女がグラスの中のお酒をぐいっと飲み干した。

…こうなったら同じ手段で。

私がお酒の瓶の蓋に手をかけた時だった。
店のドアベルが、不意に音を立てる。


「いらっしゃいま…せ」
「事情が変わって一旦帰って来た。ティファ、一杯作ってくれないか。」

どうして。
今日は仕事の都合で帰ってこないって。

パニックになる私の気もしれず、チョコボみたいな髪の彼…クラウドは、いつもの席にどすっと座った。




そうして、冒頭に遡る。

どうしよう、あ、今持ってるのいつものヤツじゃない。
どこに置いたっけ、というかどうやって彼女をこの男から隠そう。
固まっていた私についに目を向けて、クラウドは異変に気がついた。

「ティファ?どうした、ん、だ…」


私の目線を辿ったクラウドの瞳が、ついに彼女をとらえる。



あ。ばれた。



途端に、彼女が荷物を掴んで飛び出していった。
駄目。逃げないで。

でも声を掛ける間もなく、彼女は既に店の外。
反射で「追いかけて!」とクラウドの方に声を掛けようとすると、それより早い反射でクラウドも店を飛び出していった。




……まあ、結果オーライ…かな?

店のお客さんが「なんだなんだ」と少しざわつく中、私はグラスに強めのお酒を注いで飲み干した。

私だって、言いたいことあるんだから。
今日は少しだけはやく、お店を閉めることにした。



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