My Happy Ending

彼を初めて見たのは、ウータイ、かめ道楽の騒がしい店内だった。噂は軽く聞いていた。私達を邪魔する元ソルジャーがいると。その話を耳にした時は特に何の興味も沸かなかった。私達の仕事を邪魔する奴は、消し去るのみ。それがタークスの仕事だからだ。最初は窮屈で動きにくく感じていたスーツはいつの間にか自分の体に馴染んで、今となってはこれを着ていないと本領が発揮できないような気もする。話は戻るが、お酒を飲みながら貴重な休暇を過ごしていた時に現れた元ソルジャークラウドの第一印象は、悲しそうな瞳をしている、だった。至る所で暴れ回っていると聞いていたから勝手にゴツめの男だろうと想像していたが、それは的外れだった。筋肉はしっかりと曝け出された腕から確認できたが、肌は白く、自分に迷っているようなゆらゆらした瞳。休みなど関係ない、ここで捕まえる、と立ち上がった私とイリーナをレノ先輩が、うるさいぞ、と一喝。先輩に止められてしまってなすすべなしの私達は大人しく席へと戻ったのだった。クラウドは私達が戦う気がないのを感じ取ると一言も発さずに、かめ道楽を出て行った。その数時間後、イリーナを捕えられた私達。クラウドの仲間も捕えられたということで利害関係の一致より互いの邪魔をしないことを条件で共闘することになったのだ。手を組む気などない、と、レノ先輩がクラウドに念を押して。無事互いの目的を果たして別れた後も、なぜか彼のことが頭から離れなかった。去り行くクラウドの背中を見つめる私に、レノ先輩が、お前も相棒と同じかよ、と呟いて大きな溜息を吐いた。先輩、それってどういうことですか?

**

会えなくても、頭から離れなかった。その帳本人である彼は、今、私の目の前に立っていた。会いたくて、先周りして接触したなんて、バレたら死ぬほど怒られるだろう。仕事最優先で生きてきた私、何故一人の男のためにここまでしてしまってるのか、答えは明白だった。線引きすらできなくなってしまうなんて。でも、私達に与えられた命令は彼等を発見しだい、殺すこと。恋をしようが、指揮官を失い会社はボロボロだろうが、私達は命尽きるその最後の時までタークスだ。でも、せめて最後ぐらいは焦がれることを許してほしい。彼は剣を構えて私の出方を、じっと伺っている。今、戦う意志はないということを示すように、両手を上げたまま彼へと近づく。トンネルに響き渡る私のブールのヒール音。彼までおおよそ15cmという所。気を抜くと、彼の魔晄がかった瞳の色に吸い込まれそう、でも、以前感じた悲しみは消え去り、強い意志のようなものを感じ取れた。今までの間に、何かが、誰かが、彼を変えたのだろうか。

「何のつもりだ」
「見ての通りよ」

彼の警戒心を解くために、両手を上げたまま肩を上に軽く揺らす。私の事、覚えてる?と問うと、タークスはタークスだ。それ以上でもそれ以下でもない、と返された。覚悟はしていたけれど、冷たい。少し悲しくなっちゃう。

「いつか、私達が手を取り合って生きていける世界になったら、その時は私の事を名前で呼んでくれる?」
「…さぁな」
「名前って言うの。忘れないでね。クラウド」

頬に一つ、キスを落とした。この後、私が死んでも、貴方が死んでも、これで多分忘れないでしょう?あれは一体何のつもりだったんだ、と、たまに思い出してくれるだけでいい。私を、貴方の中の一ページに刻み込んでくれれば。

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朝日が眩しい。ゆっくりと目を覚ますと、私の耳元で穏やかな呼吸音が聞こえる。いつかの、あの日々の夢を見た。使命を果たすため必死だった過去。自分の確固たる意志をぐらつかせた彼は今、私の横で穏やかに眠っている。15cmの距離をゼロにすることなんていつだってできる。そんな幸せを私は毎日感じていた。じっと彼の寝顔を見ていると、ゆっくりと目を開けて、起きたのか?と頭を撫でる。あの日々の夢を見ていたの、とその手に私の手を重ねた。

「本当に、こんな世界になるなんて思わなかった」
「…満足か?」
「これ以上ないってくらいには」

ふ、と笑ってクラウドが私の額にキスを落とした。夢の中のキスをお返しされちゃったかな、つられて私も笑った。

「ね、あの時、私が頬にキスしたこと覚えてる?」
「…当たり前だろ。それから名前のことがずっと引っかかってたんだからな」
「単純。そういうとこも好きよ」

返されたままじゃ黙ってられないと唇にキスを落とした瞬間、視界が反転した。彼の瞳から幸せを感じ取れた私は、満足して首に手を回した。
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