言わなくても伝わる あれは少し嘘だ

愛してるから分からなくなる。
出会った当初はそっけなかったクラウドは、それでもめげない私にだんだんと心を開いてくれて、私とこれから一緒に生きていきたい、なんて言ってくれた時は、もう飛び跳ねるほど嬉しかった。
だって、一目惚れだったから。
告白の言葉、プロポーズみたいでちょっと照れたなぁ、なんて今の自分に惚気てみたりする。
彼の不器用な優しさは、とても心地良かった。
運び屋の仕事が忙しくて、なかなか会えない時は後ろに私を乗せてくれたり、それなりに愛してくれていた、とは思う。
全てが過去形の表現に悲しくなる、そう、もう終わったこと。
思えば、クラウドは優しかったけど、自分のことはあんまり話してくれなかった。
いつも私は自分の話ばかりしていたように感じる。
彼の抱えている過去を知った時は、それが一人の女性だということに対して、複雑な感情を覚えたけれど、それだけで、ああだこうだと文句を言った訳じゃない。
私だって、それなりに大人なんだから。
一緒に生きていきたいと言うのなら、私にも背負わせて欲しくて、何で話してくれないの、と少し反抗した時に返された言葉は、名前に俺の気持ちは分からないし、させたくもない、だから、わざわざ話す気はない、というものだった。
彼の優しさが見える言葉だったけれど、その時はその優しさが嫌だった。
一人で、抱え込もうとしないでよ。
クラウドとの間に一気に高い壁が出来て、それからは連絡を取る頻度が激減し、最後には私が連絡を取らず終わった、所謂、自然消滅。
いくら許せなかったとはいえ、私がしたことは最低だってことは分かってる。
でも、歩み寄ろうとしたのに突き放したのはクラウドなんだ、そう言い聞かせて、もう半年が経った。

「久々にティファに会いたい、なぁ」

誰も返事してくれない独り言。
クラウドと出会ったことでティファと友達になれたけど、私達がどう別れたのかを知ったら、幻滅しているのかもしれない、でも、ティファとの関係は切れたくない、な。
意を決して携帯電話の発信ボタンを押す。

「名前!?」

2コール目の途中ぐらいで音が止み、勢い良く鼓膜に響くティファの声。
私からの電話を喜んでくれて、最近元気なの、なんて世間話を数分。

「あのね、今日店行っていいかな、会って話したい」
「当たり前じゃない。いつでも大歓迎」
「あの、今日、さ…」
「大丈夫、今日は帰ってこないよ」

何も言わずとも私の気持ちを汲んでくれる流石のできる女っぷりに、頭が上がらない。
クラウドと会う可能性はない、ということで今日も明日も休みな私は思いっきり飲んでやろうと企みながら飲み明かす体力を蓄えるために、目を閉じて眠りについた。

**

「元気だったの?心配してたんだから」
「うん、まぁ、ぼちぼち」
「そう言う人って大体元気ないよね」

ティファの的を得た一言に、ぐ、と言葉に詰まる。
グラスを揺らすと聞こえる氷の音、クラウドとティファと三人で他愛もない話をしながら飲んだこともあったな。

「…クラウド、元気?」
「うん、まぁ、ぼちぼち」

…あんまり、元気がないという理解でいいんだろうか。
まぁ私の事が理由ではないんだろうけど、まだ、引きずっているのかな、あのこと。

「でも、色々と変わったんだよクラウドも。だからもう一回ちゃんと…」
「ごめん、私から聞いたのに、もういいの、ごめん。」

無理矢理、言葉を遮った。
ティファに会えたのは嬉しいけれど、思い出のどこかには必ず彼の存在がある、嫌でも思い出す。
でも、たまには来よう、たまには。
きっともっと時間が経てば解決してくれるよ、そう思いながらモヤモヤ気持ちをお酒で流し込んだ。
すると、後ろで聞こえる扉の音。

「いらっしゃいま…せ」
「事情が変わって一旦帰って来た。ティファ、一杯作ってくれないか。」

心臓が、止まるかと思った、クラウドの、声だ。
周りのお客さんを気にするわけでもなく、カウンターの私の隣の隣に座る。
まだ多分、バレてない、ティファには悪いけど、タイミングを見計らって気付かれないうちに店を出なきゃ。
だって、いるかも知れない場所に足を運んだなんて、恥ずかしい、待ち伏せしてたみたいで、気持ち悪がられるかもしれない。
ティファは動揺を隠せない様子でクラウドのさっきの注文にとりかかろうとしない。
バレるよ、バレるってば、ティファ。

「ティファ?どうした、ん、だ…」

不思議そうにティファに視線をやったクラウドの視界には目の前にいる私が映ったはず。
やばい、気付かれた。
そう感じた瞬間に荷物を持って走り出す、あ、やば、無銭飲食。

「名前!」

叫ぶクラウドを無視して扉を勢いよく開けて飛び出す。
ハンデがある分逃げ切れると思っていたのに、片腕を掴まれ、のけぞる体。
振り払ったところで逃げられないと分かっている私は、言葉で逃げようと口を開く。

「…離して、クラウドに会いに来たわけじゃない。ティファに会いに来ただけだから。今日は帰って来ないって聞いたのに」
「俺は、ずっと会いたかった」
「会いに来ようとしなかったのに?」
「それは…」

馬鹿みたい。
これじゃ何で会いに来てくれなかったのって我儘言ってる女みたい、もうそんなこと言えるような関係じゃないのに。
でも、会いたかったって、本当に?
固まりきっていた心が、ゆっくりと溶けていくのを感じる、でも、駄目。

「失うことが怖かったんだ、大切な何かを」
「大切な何かって私のことじゃないよね」
「いいから、聞いてくれ」

いつもより少し強い口調で言われると、それ以上反抗できなくなる。
息を、ふぅ、と吐いたクラウドは、口を閉じる私に向かって、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。

「もう大丈夫なんだ、俺は。だからこれからは全部二人で共有、したいんだ。やっぱり名前のいない人生はつまらない。いなくならないように絶対俺が離さない。だから」

一緒に、生きていこう。
最後は、少し私から目を逸らして。
会えなかった時間で離れた心をクラウドの一言一言が縮めてくれる。
一人で考えて、決めたはずだったのに、もう、戻れないから戻らないって。

「…信じていい?」
「俺が嘘を言ったことがあったか?」
「それは、ない、かも」
「…返事は?」

はい、と言いかけた瞬間に力強く抱き締められる、言おうとはしたけど、まだ声にはしてないのに。
やっぱりクラウドの告白、プロポーズみたい、と笑ったら、そのつもりだ、と即答された。
これからは見える景色も感情も何もかも一緒に、がいい。
…今ここにいるのも、信じられることも、強くなれることも、君を愛してるから。
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