休むべき人に風邪は行く

「…ごほっ」

乾いた咳の音が部屋に響く。
それは紛れもなく俺から発せられたもので、ベッドに横たわっているものの、体がだるくて、重い、熱い。
自分の体調管理はできているつもりだったが、どこからもらってきたのか俺は風邪をひいてしまった。
これぐらい大丈夫だ、と何でも屋の依頼をこなしに出かけようとした所、名前に全力で引きとめられた後、掌を俺の額に当て、すごい熱だから今日は休んで、と、ほぼ無理矢理外出禁止をくらった。

「クラウド、大丈夫?」
「大丈夫だから…名前はもう帰ってくれ」
「私が目離したら仕事行こうとするでしょ、駄目」

俺の心が読めるのか?
考えをズバリと指摘されると流石に何も言えなくなる。
早く金を貯めて二人で暮らしたいが故に無理にでも働こうとしているのだが、まぁ、名前はそこまで見透かしてはないだろう。
すると、額に冷たい感触、名前がタオルを取り替えてくれたようだ。
ついさっきも取り替えてくれたような記憶があるが、俺の体温はそこまで上昇しているのか。

「…悪い」
「謝らなくていいよ、だって、これって私しかできない特権じゃない?」

そう言うと名前は楽しそうに鼻歌を歌い始めた。
俺の口元は名前の、かわいい言葉に、ついつい緩んでしまう。

「弱ってるクラウド見れるの、レアだしね」

まぁ、こんな気持ちの俺をよそに、当の本人は楽しんでいるようだが。

「はい、汗拭きましょうね〜」
「おっ、おい」

名前が俺の着ているTシャツの裾を持って脱がそうとするので、抵抗の言葉を口にする。
確かに水分を大量にとらされた上、布団を被せられているので衣服は汗でべたついて気持ち悪かったが、そこまでしてもらわなくていい、いや、してほしくない。
ただでさえ、いつも子ども扱いされている俺だが、いくらなんでも情けなすぎる、抗うも、腕に力が入らず、いとも簡単に上に着ている衣服を剥ぎ取られた。
力の差はあれど、名前だって銃を平気で撃ち込むだけの力は持っている、平和ボケした日常で忘れていたその事実。

「はい、じっとしててね」
「もう、好きにしてくれ…」
「素直で、よろしい」

諦めた俺を、乾いたタオルでポンポンと優しく拭いていく名前。
タオル越しでも名前に触れられているという事実が、余計に俺の体温を上昇しているような気がする。

「名前」

名前を呼んだだけなのに、情事の時のような声色、熱にうかされているからだろうか、自分でも驚く。
俺の声を聞いた名前は手を止めて、少し目を細めて俺をじっと睨みつけた。

「治す気、ある?」
「い、いや…」

やばい、怒らせたか、焦っていると、頬に感じる柔らかい感触に、は、と口をポカンと開けて固まってしまう。

「治さないと、できないから、ね」

キスされた、頬に。
一言だけ呟いて、名前は立ち上がり、これ着てね、と俺に新しいTシャツを放り投げた、名前が用意してくれたもので、仄かに名前の匂いがする、気がする、我慢してるのにやめてくれ。
その後の俺はというと、名前の言いつけを守り、無事翌日には体調は元に戻った。
これからもずっと、名前には翻弄されっぱなしなのだろう、いつまでたっても格好がつかない、でも、それも悪くない。
俺達しか知らないことだ。
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