右手には黒のロンT、そして左手には白のロンT。
…どっちがいいだろ。
ちなみに、私が着るのではなくて、クラウドが着るもの。
普通に外を出歩けるようにと、ちゃんと朝起きてクラウドのための買い物に来てる私、めちゃくちゃ偉い。
絶対に家から出るな、と言って出掛けたけど、不安でしかない、あの調子だと鍵の開け方も分からなそうだけど、馬鹿にしすぎか。
結局、私は汚れても分かりにくいという理由で黒を買うことに決めた。
他にもシンプルな服を何着か。
細かいサイズは分からないので、ジーンズ素材のジャージみたいなズボンと、あと靴下とか下着とかも一緒に。
明日には元の世界とやらに帰ってもおかしくないとは思うけど、必要になったら買う、では面倒臭いし、まぁ備えあれば憂いなし。
もう五月も中旬だし、半袖とかのがいいのかな、いや、まぁ昨日はスウェット着せたけど暑くなさそうだったから長袖でいっか。
魔法のカードを切ってお会計を済ませ、駅へと歩みを進める。
土曜日の繁華街は、やっぱり人が多い、疲れる、私は颯爽と電車に乗って、最寄駅へと帰ってきた。
20分歩き、ようやく帰宅、ドアを開けて、ただいま〜と安定の独り言。
「早かったな」
じゃなかった、そうだ、クラウドいた。
私が重そうに抱えてる荷物を、ひょい、と持ってくれる、そういうことできるんだ、と言うと、世話になってるからな、と返される、ええ、そりゃあ、もう。
「とりあえず着てみて、はいこれ」
「…高かったか」
「一つ一つは高くないよ、まぁそれなりに買ったからあれだけど」
「…」
「お金ないのなんて知ってるから」
何も言ってくれなくなったクラウド。
流石に申し訳ないと思ってるんだろうけど、事あるごとにそんな反応されても、こっしが困る。
もう謝るのやめてね、と言うと無言で頷いた。
**
「…着替えたぞ」
「お、おぉ〜」
思わず拍手、やっぱりイケメンにはシンプルな服が一番似合う。
落ち着かない、と言いながらやたらとソワソワしてるけど、肩にボルトが付いてる服よりは、よっぽど良いと思うよ、私センスいいなぁ、わはは。
「お腹空いたし、ご飯食べてから図書館行こうよ、私作る」
「…すまない」
「謝るなって言ったでしょ!そういう時はありがとう!分かった?」
一文無しを家に居候させるなんてありえない話、でも、毎日に刺激を求めていたのかな私、案外すんなり受け入れちゃってる。
適当に和風パスタを作ってあげると、最初は不思議な顔をしたけど何も言わずバクバク食べてくれたので多分気に入ってくれたんだと思う、我ながら美味しいこれ。
「じゃ、そろそろ行く?」
私の呼び掛けにクラウドは、あぁ、と言いながら、私の部屋に倒れてた時に背負っていた大きい剣を掴んだ、いや、待って待って待って。
「そんなん持ってかないでよ!銃刀法違反で捕まるよ!?帰るどころの話じゃなくなるから!」
「いや、外にはモンスターがいるだろ?危ないぞ」
「そんなものいません!私さっき普通に買い物行ったよね!?何!?ボールでモンスター捕まえたりでもするの!?」
「意味が分からない」
「私もね!」
ここは安全で平和な所だから、と必死に説得をしたら時間はかかったが分かってくれた、もう行く前に疲れた。
歩いて行けるところに割と大きい図書館があるので、二人で並んで歩いて向かう。
五月の末ともなるとお昼間は日によって暑かったり、暖かかったり、夜は寒かったりで、夏に変わっていくのを感じる、今日は比較的涼しめかも。
繁華街までとはいかないけれど、休日故、出歩いている人が多いような気がする、すれ違う人から感じる視線、もちろん、クラウドに向けられているもの。
色素が薄めの金髪、コスプレ用のカラコンでも入れてるのかと思うほど発色の良い瞳、紫外線を知らないのかと思うほどの白い肌、やっぱり目立ちすぎる。
なんでこんな普通の女が、こんなイケメンと、って思われてるんだろうな、被害妄想かもしれないけど。
不審に思われたらどうしようと焦り始める私をよそに飄々としているクラウド、こんな視線は慣れているのか、それともめちゃくちゃ鈍いのか。
時折ハラハラしつつも図書館へ到着、本の匂いとか懐かしい、図書館なんていつぶりに来ただろう、本とか全く読まなくなったな。
「小声で話さないと駄目だからね」
「どうしてだ?」
「そういう場所なの」
やっぱり、クラウドの住んでいたところを調べるとなると、世界史的な分類になるんだろうか。
そういったジャンルの書籍が並ぶ本棚の前で足を止める、がむしゃらに調べても埒があかないので、後ろにインデックスがある本を探す、あ、あったあった。
「クラウドのいた土地の地名、どこ?」
「ミッドガル、だ」
やっぱり聞いたことないなぁ、ミの行を目で追っていくと、ミッドウェーの次はミッドランドだった、ない、かぁ。
同じ要領で探していくけれど、ミッドガルの文字はいつまでたっても見つからない。
クラウドも沢山本を手にとっているみたいだったけれど、求めていた情報はないのか、開いては閉じてを繰り返しているだけだった。
クラウドの溜息の回数が多くなってきたような気がしたから、一度休憩しようと言って、普通に会話できるスペースの椅子に腰掛ける。
「何か、分かった?」
「…何も」
声色から伺える明らかに落胆した様子のクラウド。
…いきなり自分が全く知らない場所に飛ばされたら、クラウドの立場になって考えてみる。
その世界の文化や常識も分からなくて、手掛かりを掴みたくても全く出てこない、心細いどころじゃないだろうな、いっそ死んでしまいたいと思うかもしれない。
私の立場的には良く分からない謎の男を家に置いてるわけだけど、クラウドからしても良く分からない女の家に住んでいるわけで。
こういう時って、どういう言葉をかけるのが正解なのかな。
「クラウドの住んでいる世界はどんなだった?」
「そんなこと聞いて何になる」
「もしかしたら私にも分かることがあるかもしれないじゃん」
クラウドは小さな溜息をついてから、自分が元々神羅カンパニーという会社でソルジャーという兵士?だったこと、魔晄というもので豊かな暮らしができているが、その代償は大きいなどなど、色んなことを話してくれた。
うん、良く分からないけど、聞いてておもしろかった。
物語を聞かされているみたいで、わくわくする。
「で、今はソルジャーじゃないの?」
「あぁ、元ソルジャーだ」
「なんでやめちゃったの、何かかっこいいのに」
シンプルな疑問だったけれど、あまり深く話したくないのか、いろいろだ、と言葉を濁される。
「この世界は平和なんだな」
「まぁ比較的そうなのかもね、物騒な事件も起こったりするけど」
「武器を持つのが禁止されている時点で平和だと分かる」
「クラウドの世界にはさ、まだ戦争とかあるの?参加したこととか、ある?」
私の質問に少し眉を潜めるクラウド、あれ、また地雷だったかな。
ただクラウドのこと純粋に知りたかったから聞いただけなんだけれど。
なんとなく、長い付き合いになりそうな気もするし、まぁそれもちょっと困るか。
「こんな世界で生きているアンタが聞いても怖いし、俺に対して良いイメージは抱かなくなるぞ」
「え?良いイメージ抱いてほしいの?」
「…もういい」
拗ねた。
精神年齢絶対未成年でしょ、本当に冗談通じない。
「別に、クラウドの世界で生きていくために、争いが必要なんだっていうなら否定はしないよ。まだ二日目の付き合いだけど、何だろ、悪い印象はないんだよね」
「アンタ、人に騙されやすいんじゃないか?」
「うん、人のこと割とすぐ信じちゃうかも」
割と的を得た言葉が、私の心に刺さる。
ええそうですよ、信じすぎたせいで色々と痛い目みて来ました、思い出したくもない、引きずっているわけでもないけど、多分。
「…まぁ、そんなアンタに俺は今助けられてる。全部を信用してるわけじゃないけどな」
「…慰めてくれてる?ほら、やっぱりクラウド、良い人だ」
「からかうな」
本当なんだけどなぁ、でも褒められてまんざらでもなさそうなクラウドを見て、私がそんな表情をさせたんだなぁと思うと少し嬉しくなった。
その後は、クラウドが話してくれたことを思い出しながら、また色々と本を漁ってみたけれど、結局手掛かりはゼロで肩を落とした。
二日目、収穫なしです。
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