あー、今すぐヒールのない靴に履き替えたい。数cmのそれでさえ今は歩くのには邪魔で、しんどい、むしろ脱ぎ捨てたい。道は舗装されておらずガタガタで、それもまた歩きにくい。駅から徒歩20分のワンルーム、安さに惹かれて住み始めてはみたものの、やっぱり駅から近いって大事だ、と実感する。今日も朝から上司に仕事を丸投げされイライラしながら仕事をこなしたけど、今日が休み前じゃなかったら多分キレてた。ご飯を作るのがしんどくて、スーパーで出来合いの惣菜とお酒を買って、今日は一人で晩酌するつもり。持っているスーパーの袋から時折ふわりと香る揚げ物特有の匂いが空腹を刺激する。早く食べたい。

「ただいま〜」

扉を開けて、誰もいない部屋に帰宅のご報告。一人暮らしあるあるだよね、これ。真っ暗な空間の中で電気のスイッチを手探りで探す、あったあった、ポチっと。

「…は?」

狭い部屋の中に倒れ込んでいる金髪の綺麗な顔をした青年。背中に大きい剣背負ってる…コスプレ?外国の方?しかも土足だし、勘弁して。っていうか、どこから部屋に入ってきたの?ちゃんと戸締りしたよね?どうしたらいいか分からず立ち尽くしていると、青年の閉じられていた目が開かれる。あまり良く見えないけれど、緑というか青というか、形容しがたい色。その目が私を捕えた瞬間、素早い身のこなしで立ち上がり、背中の剣に手をかけ、睨むような鋭い視線で私を見ている。いや、靴脱いでください。

「アンタ…誰だ。ここは一体どこだ?」

青年の言葉に、頭の中に無数のクエスチョンマークが浮かぶ。突っ込みどころが多すぎて何から言ったらいいのか分からず、黙りこむ私。

「質問に答えろ」
「いや、ここの家に住んでる人間です。そしてここは日本。あなたこそ誰?不法侵入?警察呼んでいいですか?」
「にほん…?」

今度は青年の頭に無数のクエスチョンマークが浮かんでいるっぽい。え、日本を知らない?記憶喪失か何か?

「…俺はクラウド・ストライフだ。アンタの名前は」
「え、苗字 名前です」

あ、やば、名乗らない方がよかったかもしれない。取り敢えずクラウド、と言ったその青年は剣を握っていた手を下ろしてくれた。敵とかじゃないって分かってくれたっぽい。あと、偽物だよね?それ。ひとまず靴を脱いでもらってから、クラウドに色々聞くことにした。どうやら、とある組織の作戦で壱番魔晄炉に行く途中で突然、紫の光に包まれて気付いたらここにいた、元ソルジャークラスファースト、21歳、私より年下。警察を知らない、日本を知らない、身分証明書も持ってない、以上。うん、出てくる言葉一つ一つ、全部意味が分からないし普通に信じられない。これが本当だと違う世界から来たとかそういう話になってくる。それとも私が知らないだけで、そんな国があるのかも。私の気持ちが表情に出ていたのだろう、嘘は言ってない、と念押しされた。まぁ、嘘をついている感じではないけど…それにしても、めちゃくちゃかっこいいこの人。肌は白くて、中性的な顔立ち、外国のブランドのモデルさんみたい。

「アンタの家なのに迷惑かけたな、俺は戻る方法を探しに行く」
「…どこに?」

どうやって来たのかも分からないのに、帰る手立てがあるんだろうか。私の素朴な疑問に黙り込むクラウド。

「ここに来て、私以外に誰かに会った?」
「…いや」

これは外に出て職務質問されたら私が疑われるパターンだ。それは困る。面倒事は避けたい。会社にバレたらなんて言われるか、恐ろしい。

「はぁ…取り敢えず今日はここで寝ていいから、明日考えよ」
「…いいのか」

だってこれが最善の策だと思うし。そうだよね?教えて神様。いきなり疲れがどっと押し寄せてきた。無理。ビール飲も。スーパーの袋に入っていた缶を取り出して指に力を入れるとプシュッと心地良い音が鳴る。この音、大好きなんだよね。一気に半分ぐらいグビグビと飲み干す。あー、このために生きてる。

「アンタ何歳だ」
「女性に年齢聞くなんて失礼極まりないよ、23ですけど」
「…20歳未満だと思っていた」

驚いてるのか、クラウドの目は見開かれている。大きい目ですね。未成年に見られてたんだ。ちょっと嬉しい。何も出ないけど。お腹も空いたし、惣菜も食べ始める私…を、じっと見つめるクラウド。

「…お腹空いた?」
「…」
「…食べる?」

割り箸を渡すと、割らずにそのまま惣菜にブッ刺したので流石に行儀が悪いと怒ってやった。

**

クラウドにお風呂場の使い方を教えて、取り敢えずその訳の分からない服装から着替えて。とスウェットを渡してシャワーを浴びさせる。流石に下着はない。ごめん、裏返して履いて。

「アンタは金持ちなのか?」
「いや普通だけど、なんで?」
「いい所に住んでいる」
「日本では、これが普通だよ」

そうか。と言ってお風呂場へと消えて行ったクラウド。あんまり裕福な生活してないのかな。あぁ、いつもの静けさが戻ってきた部屋、落ち着く。よくよく考えると、初対面の年下の男にシャワーを浴びさせるって大丈夫?まぁ、未成年じゃないし犯罪にはならないか、良かった。じゃなくて!

「取り敢えず明日考えよって言ったけど、何を考えるの…」

はぁ、と溜息。奇想天外すぎて対処方法が分からない、本当に帰る方法なんて見つかるの?っていうかクラウドの言ってること信じていいの?本当だったとしても見つからなかったらどうする?身分証明書もないし、働き口も見つからない。となると私が全部出すことになるから、所謂ヒモ?いやヒモなんていらない。だって私には好きな人が…。と、一人で考え込んでいるとクラウドがスウェットを着てお風呂から出てきた。思ったより時間経ってた。大きめのを買ってたから、サイズは問題なさそう。そして、顔が良いからスウェット着てても何か映える。私が着た時と何か違う…何で。

「…感謝する」

クラウドはタオルで頭を拭きながら私に言った。口調固いな。私もお風呂に入りたいので、部屋にある物には何も触るな。とだけクラウドに言付けして、いつもより急いでシャワーを浴びる。あぁ落ち着かない。スキンケアを終え、髪の毛も乾かして、取り敢えず明日どうするか。の作戦会議を決行。もちろん、すっぴんで。

「で、どうする?」
「どこか、調べ物ができる場所はないか」

そう言われて、うーんと考える。クラウドがお風呂に入っている時に言われた言葉をネットで検索したけど、何もヒットしなかった。調べ物、できる場所…。

「図書館とか?」

私の提案に、悪くない。と返事したクラウド。悪くないとか実際に言う人いないと思ってた。ここにいた。さっき着てた服で外を出歩かれる訳にもいかないので、午前中に私がクラウドの服を買いに行くことになった。とんでもなく無駄な出費、はぁ、悲しい。そんなに給料もらってないのに。

「午前中から活動しなきゃいけないから、もう私寝る。クラウドは悪いけど床で寝てね。よろしく」
「あぁ」
「変なことしないでよね」
「は?」

あ、冗談は通じないのね、把握。

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