あれよあれよと言う間に年末。12月。師走と言われるのも納得がいくほどバタバタと忙しいこの季節。外で吐く息は白く、体を刺すような冷たい風が吹く。仕事納めも無事に終わった。クラウドとは、まるで恋人のような毎日を過ごしている。朝起きたらキスをして、そういう雰囲気になればセックスだって何度もした。お互いの名前を何度も呼んで。幸せだと純粋に思える。不安になって出来た穴だって、何度も埋めてくれた。だんだん増えて行く思い出。いつか足枷になるかもしれないね。私の中の悪魔が囁く。それでもいいよ、私は。一生なんて、ずっと、なんて存在しないことぐらい分かってる。でもその思い出は、幸せだった時の気持ちは、一生消えない。それだけは確かに言えることだから。…すごいポエマーみたいなことを言っているけど、私が今何をしているかと言うと、蕎麦を茹でています。そう、今日は大晦日なので年越し蕎麦。クラウドのいた世界にはそういう習慣はないらしいけれど、私やテレビの雰囲気に流されているのか、年末特有のそわそわ感が伝染しているように見えて可愛かった。
「これが、年越し蕎麦か?」
「まぁ、普通の蕎麦だけどね。年越しの時に食べるから年越し蕎麦ってだけで」
物珍しそうに、ぐつぐつと沸騰した鍋に目をやりつつクラウドは後ろから私の腰へと腕を巻きつける。ね、恋人同士みたいでしょ?縁起を担いで食べるんだよ。今年の不運を捨てて来年を幸運で迎えられるように、っていう意味もあるらしい、と豆知識を披露すると、へぇ、と生返事をした後、私の肩へと顎を乗せた。そこまで興味なさそう。火を使ってるし、危ないから離れて、と腕を剥がそうとしても、びくともしない。諦めて、その体制のまま蕎麦を見守る私。ふとクラウドの方を向くと、目がパチリと合ったので、触れるだけのキスをした。
「危ない、火傷するよ」
「構わない」
クラウドが怪我すると私が嫌なんだけどなぁ。でも幸せで、ついにやけちゃう。そんなこんなで出来あがった蕎麦を二人で食べながら今年を思い返す。クラウドがこの世界にやって来たのは五月の中旬。もう半年以上経ったんだね。早いなぁ。一年前の私に、一年後は違う世界から来た金髪のイケメンと暮らしてるよ、なんて言ったら、頭がおかしいんじゃないの、って爆笑されそうだ。でもやっぱり慣れって怖いよ。今はこれが私の普通であり失くしたくない当たり前になってるんだから。
「後数分で今年も終わりかぁ〜」
「いつもみたいに明日になるだけだ」
「いや、そうなんだけどさぁ。年末って何か特別感あるっていうか」
箸を置いた私は、横であぐらを書いているクラウドにもたれかかる。テレビではタレントが騒がしく、後何分です!って大声を張り上げていた。そして後2分、1分、着々と進むカウントダウン。30秒、10秒。
「名前」
「ん?」
「いつも、ありがとう」
「なーに、急に」
「…そういう気持ちを伝える日だと思ったんだが、違うのか?」
「…違わくは、ない」
カウントダウンは0になった。どちらかともなくキスをして、私は目の前がクラウドのスウェットで一杯になるくらい、ぴったりとくっついた。息を吸い込むと、クラウドの匂いがする。同じ匂いを纏ってるのに何故かクラウドのは落ち着くの。この世界でこんなことできるのは私だけって思ったら優越感でいっぱいになる。私だけの、クラウド。馬鹿みたいだけど、ね。
「今年も、私だけ見ててくれる?」
それが精一杯だった。本当は、今年も一緒にいようね、と、言うのが普通なんだと思う。でも私達は普通じゃない。だから、言えなかった。真意は、元の世界に戻っても私だけ想っててくれる?だ。でも、そこまでイイ女ぶれない私の限界がさっきの言葉。すぐに恋人なんて作ったりしたら絶対許さない。その時は世界を飛び越えてでも、一発殴りにいってやる。
「名前、何か物騒なこと考えてないか?」
「…読心術?」
「元ソルジャーの勘だ」
なにそれ、意味分かんない、と言って笑ったら、クラウドも笑ってた。優しく笑うとこ、好きだなぁ。なんて思ってたらクラウドの顔が近づいてきて、目を閉じる。だんだん深くなっていくキスに苦しさを感じたぐらいの所で、私達はそのまま床へと二人で倒れ込んだ。そういえば、さっきの返事貰ってないんだけど。…まぁいっか。
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