いつからか、目で追っていた。本当にいつからか、自分でも分からない。放っておけない年下の男の子?いや、それだけじゃないってことは幼い私でも理解していた。六年前ティファを追っていったクラウド。その後二人して山道から転落したと聞いた時は背筋が凍ったのを覚えてる。当時12歳だった私は8歳の彼からしたらだいぶ、年上だ。クラウドに、もう子どもだけでそんな所に行ったら駄目だよ、と叱った。私だってまだ子どもだったのに。いや、羨ましかったのかもしれない。危険も顧みず好きな子を思う一心で駆け出したクラウドが。クラウドに追いかけてもらえるティファが。私の言葉にクラウドは上の空で、きっとティファのことしか頭になかったんだろうね。彼女の意識が戻らない7日間、彼は毎日ぼうっとしていた。それを見つめる私も、また同じ。

「…はぁ」

溜息しか出ない。私は四つも年下の男の子に、なんだって自分の気持ちを掻き乱されてるんだろう。村のアイドル、ティファは皆が大好きな女の子。私もティファのことが大好きで、本当の妹みたいに思ってる、と同時に私の憧れだった。今より幼い頃は、お姫様のような女の子になるのが夢だった。でも、村の子ども達の中で一番年上だった私は、いつしか無理に大人ぶることを繰り返した後、無駄に大人びた可愛げのない18歳へと成長してしまったのだ。

「名前」

私の名前を呼ぶ声に振り返ると、傷だらけのクラウドがいた。また、喧嘩したの?と尋ねると何も答えずに私の方へと歩いてくる。無言は肯定。足音と同時にピョコピョコとはねる、まとめられた髪の毛。チョコボみたいで、かわいい。

「お母さんに怒られるからって私の所にまず来るのやめてよね」
「…ごめん」
「素直なのはクラウドの良い所なんだけどなぁ」

ほら、また、お姉さんぶってしまった。大丈夫?そんなしょっちゅう怪我なんてしてたら心配だよ、って言えるなら少しは可愛い気があるかもしれない。でも私はそういうの、じゃないから。それを言うのは私の役目じゃないから。自分の気持ちに蓋をするように消毒液を染み込ませたガーゼをクラウドの傷に、ぴたりと当てた。少し、痛そうに顔を歪めるクラウド。でも頼られるのはまんざらでもない私、単純。

「後、今日は名前に相談があって…」
「ん?どうしたの?」
「俺、ソルジャーになりたいんだ。だから春にこの村を出てミッドガルに行くよ」

あぁ、その時が来ちゃた、かぁ。左腕を右手で強く掴んでいるクラウド。その仕草から強い意志を感じた。もう、会えなくなっちゃうんだね。でも夢を持つクラウドを素敵だ、と思うよ。私には何もないから。

「それで、ティファに伝えたくて…名前はどうしたらいいと思う?」

心臓が音を立てて、ぎゅう、と鳴ったような気がした。私は、リハーサルだったんだ。大事な大事な本番のための、所詮は予行演習。一番に伝えてくれたのかな、なんて少し喜んでいた私を殴ってやりたい。大事なのは順番ではなくて、気持ちの大きさなんだよ、って、受ける傷を軽減してあげたい。

「…嘘偽りなく自分の気持ちを言えば、伝わると思うよ。クラウドなら大丈夫」

また、自分の本心を隠す。我ながら上手で笑ってしまう。私の言葉にクラウドは、そうかなぁ、と目をビー玉みたいにキラキラさせていた。そこには、目の前にいる私なんて、映ってないんだろうな。

「強くなったら…名前のことも守るから。世話してもらってばっかりだからさ…俺」

そんな爆弾発言を落として、彼は照れを隠すように私に背を向けてそそくさと扉を開けて出て行ってしまう。私の返事を待たずに。

「私も…守ってもらえるような女の子になるね」

届かないからこそ、聞こえないからこそ、言えることもある。私も成長できたらいいな、そう思いながら背伸びをした。

その心には残れない


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