私の記憶では、あの後、クラウドと手を繋ぎながら、エアリスの家に戻っている。
おやすみ、と呟いたクラウドの顔は、とても優しくて、好きすぎてどうにかなりそうだった。
部屋に戻った後、広場でのことを思い出して更に眠れなくなった私は完全に寝不足。
重たい瞼を必死に開けて自分の頬をつねる。
こんなベタなこと自分がやると思っていなかったけど、痛みを感じたので昨日の出来事は現実らしい。
話を聞いてくれたティファにまず報告すべきだよなぁ、と思っていたけれど部屋に戻った頃には、もう眠っていたので朝起きてから報告をしたら、もの凄く喜んでくれた。
名前を泣かせたら、すり潰さなきゃね、と言いながらグローブをはめる姿が少し怖かったのはティファには言わないでおこう。
背中を押してくれたエアリスにも早く話したい、会いたい、助けたい。
エルミナさんは、許してくれないだろうか、う〜ん、と声に出しながら部屋の扉を開けると、同じタイミングでクラウドが出てきて、バッチリ目が合う。
おはよう、名前、なんて昨日と同じ優しい顔で言うもんだから、愛しさが募りに募って爆発しそうだった。
「あんたには世話になりっぱなしだ。この恩は忘れねぇ」
俺にできることがあったら何でも言ってくれ、と付け足したバレット。
私はエルミナさんにエアリスのことについてお願いするタイミングを伺っていた。
困った時はお互い様さ、と言うエルミナさんの言葉で一瞬、場が静まり返る。
口を開くと、先に聞こえたのは私の声ではなくクラウドの声だった。
エルミナ、とだけ言うクラウドを察したエルミナさんは、あれから考えてみたよ、と呟く。
「エアリスに、会いたいんです。元気な姿が見たいんです。話がしたいんです。だから・・・」
「私からも、お願いします。助けたいんです。友達だから」
私の言葉にティファは一歩前に出てエルミナさんを見つめて、言った。
バレットは何も言葉には出さずとも同じ気持ちなんだろう、深く頷いていた。
「薄々分かってたのさ。いつか、こういう日が来るんじゃないかってね。それでも・・・エアリスを助けてやっておくれ」
エルミナさんは私達全員の目を、しっかり見て、言ってくれた。
話を聞いていたのだろうか、マリンが、とうちゃん、と階段を下りて来るのが見えたので、私達はいない方がいいだろうと、クラウドとティファと家の扉を開けた。
閉ざされた扉の向こうから、助けてもらったお礼、ちゃんと言わなきゃな、というバレットの声が聞こえる。
私も、ちゃんとお礼言わなきゃな、って思いながらクラウドの方を横目で見つめた。
「よし、神羅ビルに乗り込むか!」
マリンから送り出されたバレットはそう言いながらサングラスをかける。
もうちょっとだけ待っててね、エアリス。
まず上に行く方法について歩きながら話始めるが、鉄道は動いていない。
表だったルートは閉鎖されているだろうということで、取り敢えずは情報を知っていそうな人に聞くことに。
そういうこと、知ってそうな人って、
「コルネオだな」
クラウドの言葉に、がっくりと肩を落とした。
もう二度と会いたくなかったのに。
クラウドも私がコルネオにされた事を覚えているのか、名前、嫌なら俺の後ろに隠れていろ、と言われたけれど、どうせなら一発撃ち込みたいぐらいだ。
ひとまずウォールマーケットへ向かおうと、伍番街スラムを通り抜けようとすると、若い女の子の声が響き渡っていた。
「はーい!注目!情報屋キリエの大スクープだよ!反神羅グループのアバランチが壱番と伍番の後、調子に乗って七番魔晄炉まで爆破したんだけど〜!」
話の内容に、私達は無意識に足を止めてしまった。
聞かない方が、きっといい。
でも、足が動かなかった。
「素人の悲しさで爆弾の威力を把握していなかった・・・その結果が、この大惨事!」
それからウータイから莫大な資金援助を受けているだの、実際はウータイと手先で使いっ走りだの、神羅が情報操作をしているとはいえ散々な言われようだった。
「ウータイの手先じゃねぇ・・・!」
他はともかく、それだけはハッキリさせねぇと、と歩き出そうとするバレットをティファが制止する。
その後、人ごみに隠れるように伍番街スラムを後にして、ウォール・マーケットに到着した私達はコルネオの屋敷の大きな扉を開ける。
手下はいないようで、取り敢えずコルネオを見つけたい私達は、いつぞや四人で立って並べられた部屋へ入るが、コルネオの姿はない。
奥の部屋へと足を踏み入れた瞬間、光のような速さでクラウドが大剣を引き抜くと、クラウドに銃を向けるレズリーの姿があった。
「お前達か・・・何の用だ」
少し、ほっとした様子のレズリーに、プレートの上へ行く方法を探していると正直に伝える。
きっと、この人には話しても大丈夫。
コルネオなら何か知ってるかもって、と続けるティファにレズリーは、それなら、俺も知っている、こっちに来いと奥の部屋へ向かった。
レズリーのことを知らないバレットは信じていいのか、と思っているのか少し躊躇しているのか、進もうとしない。
「大丈夫。私の事、助けてくれたことあるから。レズリーは信じてもいいと思う」
私の言葉にバレットも安心したのかサングラスの下に見える目の雰囲気が少し和らいだ。
「いつ助けられたんだ」
よし行こう、となった矢先にクラウドに突っ込まれる。
え、みんなが落とし穴に落ちた時、と言うとクラウドは、そうか・・・と返してくる。
「え、どうしたの?」
「いや、俺以外が名前を助けたんだなと思っただけだ」
これって、
「・・・ヤキモチ?」
「・・・だったらなんだ」
「かわいい〜って思う」
からかうな、と怒られたけど顔の緩みが止まらない。
ティファはニヤニヤしているし、バレットはお前等もしかして・・・!なんて驚いている。
余韻に浸っていたけれど呑気な事ばかりやってられないので、レズリーについていくと、いつかのベッドが置いてある部屋に案内された。
一番足を踏み入れたくなかった部屋なんですけど。
じゃあ下りようか、と解放された落とし穴の前で、しゃがみ込むレズリー。
どうやら、この下は地下下水道になっているらしい。
梯子を下りて行くにつれ不快な下水道の匂いが鼻を刺激する。
あの時、私以外の三人はここに落とされたのだろうか。
申し訳なさがこみあげてくる。
この匂いに数時間も耐えられる気がしない。
レズリーの口ぶりだと、私達に手伝って欲しいことがあるようで、成功すれば上に行く方法を教えてくれるらしい。
詳しい事は教えてくれず、取り敢えずレズリーより先に進んでモンスターを倒せばいいらしい。
「ねぇ、どうしてあの時、私のこと助けてくれたの?」
どうしても、レズリーに聞きたかったことだった。
アニヤンに頼まれただけだ、と口では言っているけど、それだけでコルネオに逆らうような真似をするんだろうか。
あれだけ私達にはコルネオさんは恐ろしい、なんて言っておきながら。
「俺は、あそこまで捨て身にはなれなかった」
少し悲しそうな目で呟くレズリーに、どういうこと?と聞こうとしたけれど、クラウドから鋭い視線を感じたのでやめた。
どうやら、彼は独占欲強めらしい。
いや、子どもなだけなのか。
新しいクラウドの一面を見れた気がして、嬉しくなった。
ちょっと面倒くさそうだけど。
いつの間にか私達の前を歩いていたレズリーが扉の前で立ち止まる。
ここか?と言うバレットに、ああ、と返す。
レズリーの目的は、まだ全く分からない。
「プレートの上に行く方法は?」
「中だ」
中身が見えない取引にクラウドも疑いを持っているのか、再度こちらの要求に関して聞いても、欲しい返事はない。
どうやら、最後まで付き合えってことなんだろう。
「悪いね、だが、あんた達には・・・」
レズリーが話を続けようとすると聞こえるモンスターの声、私達が気付いた時にはレズリーに飛びかかり、レズリーが持っていた小さな袋を加えて走り去って行く。
「あいつを追う・・・大事な物なんだ!ここの鍵が入ってる」
何事にも動じなさそうなレズリーが動揺している。
どうやら私達に選択肢はないようで、モンスターを急いで追いかけた。
小さい体を生かして逃げ回るモンスターに、スナイパーライフルの照準を合わせにくい。
ほのおマテリアを装着したハンドガンを連発して、追い詰めていく。
なんとか逃げ場のないところで倒すことができた。
モンスターが落とした小さな袋をクラウドが拾い上げ、鍵が無事かを確認しようと中身を取り出すと、鍵ではなくハートにお花のトップがついた、かわいらしいネックレス。
返してくれ、と言うレズリーの目は、さっき見た悲しみの色を含んでいるように思えた。