どうしたんだ、こんな夜、遅くに、と、静寂に響く、クラウドの声。


「これからは、俺の傍を離れないでくれと言ったのを忘れたのか」


私の方へ歩みを進めるクラウドに、散歩しようと思っただけだよ、と返す。

目の前で立ち止まり、私の顔を、じっと見つめるクラウドに、つい目線を反らす。

何でそんなに、じっと見るの、と目線をクラウドに戻せないでいると、クラウドは、また泣いてたのか、と悲しそうな声で言う。


「え、なんで」

「少し、目が赤い」


いつから、そんな小さな私の変化に気付いてくれるようになったんだろう。

びっくりして、目を見開いてクラウドを見ると、僅かに目がいつもより弱々しく見える。


「俺の知らないところで泣かないでくれ、慰めることもできない」


甘い言葉に、まだ少し重い頭がくらくらする。

無意識なんだろうか、クラウドの心が全く読めずに、何も言えないでいると、肩を抱かれ、私はクラウドの胸の中に収められる。

こうやっていると、どこにも行かないから安心だな、何て言うから血が逆流しそう、心臓が痛い。


「名前が辛いのも分かるんだ、でも、もう俺をこれ以上不安にさせないでくれ」


私の肩を抱いている手が少し震えているのが分かった。

どうしようもなく、好きになってしまっているんだと痛感する。

愛おしくて愛おしくて堪らない。

自分のことを心配して、震えている大好きな人。

はたから見れば、少し格好悪いかもしれない、でも、愛しく思わない訳がない。

クラウドを作る強さも、優しさも、弱さも、全部含めて好きになったんだから。

クラウドの私への思いが仲間に対する愛情だとしても、なんでもいい。

傍にいれるだけでいい、そう思っている私に、クラウドが傍にいてくれと言ってくれている。

それだけで私の願いは叶ったも同じことなんだから。


「私がクラウドの傍から、いなくなる訳ない」

「・・・あまり信用できない」

「クラウドだって、強くないもん。だから置いていなくなったりしないよ」


私の言葉にクラウドは肩を抱く力を少し緩めて少し距離をとった。


「俺が、弱い・・・?」

「心の話。人の事言えないけど、ゆらゆらしてる。やっぱりまだ子どもなんだなって、たまに思っちゃう」

「子ども扱いするなって言いたいところだが・・・名前の方が俺より俺の事を分かっている気がするな、何でだろう」


だって、私、クラウドのこと、きっとね小さい頃から、ずっと


「・・・ずっと見てたの。会えない間もきっと考えてた・・・好きだからだよ」


気付けば口がそう動いていた。

だって、何で、って聞いたのはクラウドでしょ?そう思って言い訳を心の中でしたりなんかして。


「・・・え」


流石に鈍感そうなクラウドでも私の言っている意味が分かったのか、動揺を隠せず目が泳いでいる。

何を言ったらいいのか分からない、もう顔に出てしまっている。

何か言いたそうだけど、何も言ってくれない。

見返りを求めてた訳じゃ、ないけれど。


「冗談だよ」


いつものように、クラウドをからかった振りをする。

ずるい人間でごめんね。

でも、こうすることでしか自分を守れないの、でも、好きってクラウドに、直接言いたかったんだ。

いつもの冗談なら、また冗談か、って言って、少し呆れるくらいで済むでしょ?

もう、帰ろうか、とクラウドの腕からすり抜けると、クラウドが私の腕を掴んだ。


「嘘、だろ」

「・・・何が」

「いつもみたいに冗談で誤魔化そうとしないでくれ、冗談なんかじゃないんだろ」


名前、声が震えてる、クラウドの言葉に驚く。

だって、いつも通り、クラウドのことをからかった時に私が言う言葉、言えてたと思ったのに。


「名前は俺を、どうして好きだと思うんだ」


クラウドの目を見ると、きっともう、誤魔化せないんだろうな、と悟った。

直球すぎる質問に、もうどうにでもなれ、当たって砕けろだ、と私は正直な思いを口にする。


「私だけ見てて欲しい、頼って欲しい、守りたい、ずっと一緒にいたい、触れたい」


箇条書きにでもしたように淡々と述べていく言葉に、ムードも、へったくれもないなぁなんて落胆する。

いつか頭の中に思い描いた、クラウドへの愛の告白は、もっと素敵なものだったはずなのに。


「俺には分からなかったんだ」


クラウドは、そう言うけど、何の話をしているのか、私には分からなかった。

一呼吸置いたクラウドは私を見る、まるで、私以外を視界に入れまいと思っているように、その視線に何もかも見透かれそうなほどに、じっと。


「自分のこの気持ちが、でも名前の言葉で、ようやく答えが出た」


何を、私に言うつもりなんだろう。


「俺も名前と同じ気持ちだ」


え、と口に出す前に、両腕で強く痛いくらいに抱き締められた。

今、クラウドは、私と同じ気持ちって言った。

私のクラウドへの気持ちは、


「好きだ、名前」

「嘘」

「嘘じゃない」

「だって、私なんかのこと」

「だから、自分を卑下するな」

「何で?」

「理由が必要なのか?」

「私を好きになる理由が分からない」

「じゃあ分かってくれるまで何度だって言う、好きだ」

「死んでもいいかも」

「怒るぞ」

「だって」

「だってじゃない」


初めて思ったかもしれない。

私、私に生まれてきて良かったって。

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