2015/10/29 17:00 短編

同業者と奪い合いで、ゴタゴタ…なんてのはよくある。それなら、負けない自信は有ったし、事実今まで生き延びこの職のままいられている。

けれど、相手が化け物となるとそうもいかない。

「…っこ、の!クソッ!」

思い切り吹き飛ばされ、脆くなった城壁に叩きつけられる。相手は大層力が強く、城壁すら衝撃で勢いよく崩れた。砂塵が舞い上がる。

この砂塵が目眩ましになりゃいいんだけど、期待できそうにもないなっ…!

トレジャーハンターのヤスタカは、自身の装備が軽薄であったと反省した。しかし、この古びた城は「かつて」吸血鬼の根城であったという話で、廃墟に住み着く獣には十分対応出来る装備だ。
それが、なんで。

本物の吸血鬼と相対している。

吸血鬼と相対し、狩ったこともある。彼らは強いが、そのぶん宝としての価値もかなり高い。だからこそ解る。装備が不十分なこと。しかも、吸血鬼の中でも相対している男は、一線を画す。
こんな強さの吸血鬼、伝承でも見たことがない!

どうやら、この城に立ち入る事を良しとしていないらしく、入ろうとしたところ猛攻にあった。ならば帰るから攻撃を止めてくれと言っても、まるで聞こえていない。会話にはならなかった。

月光が、翳った。まずい──…。

「ぎっ…!」

やはり、血の臭いで判ったか。砂埃に紛れて動くヤスタカ目掛けて、またも猛烈な一発が放たれる。なんとか、首が吹き飛ぶのを籠手で回避するも、衝撃でまたも吹き飛ばされた。
防戦一方なんてものじゃない。これは、蹂躙だ。
ヤスタカは、それなりに経験豊富であるという自負がある。そんな自身がまるで、人間に潰される蟻のようにただただいたぶられていくことは、屈辱でしかない。
しかし、自尊心で身を滅ぼす愚か者でもない。そうはならない、生き抜く為ならなんだってしてやる。なけなしのプライドでこの場を生き抜く策を探す。

吹き飛ばされた事で、城の内部に来たようだ。辺りを見回そうとして、心の中で舌打ちをした。

体が、動かない。

背中が熱い。恐らく、背中の切り裂かれた部位が、瓦礫で広がった。出血多量が原因。脳がやけに軽いからそうだろう。力が抜けている。一時的なショックによる麻痺も考えられる。血の臭いが色濃い。あの吸血鬼もすぐに来る。

ゴトリ、

自分が寝ている所から物音がした。
へっ?と思っているのも束の間。視界が回転し、地面にだらしなく転げ落ちる。
先程まで、ヤスタカがいた筈の所には、明るい髪色の少年が立っていた。

「すっげー血。うわ何コレ。部屋ボロボロじゃん。」

最悪だ。

「ん?誰お前。あ、この血の男か。すっげー傷!」

軽快な笑い声をあげる少年。その目は、闇夜に燦然と輝き、琥珀の輝きを放っている。爬虫類のような瞳孔は、人間じゃない。そして、ヤスタカが先程まで伸びていた場所は、棺だった。

二匹目の、吸血鬼。

しかも、先から襲ってくる吸血鬼程の強さの可能性がある。軽快な印象を与える割に、隙がない。
「よくもまー、派手に家を破壊してくれたな。」

ニヤリと、笑う。その笑顔を向けられ、ヤスタカは「あ、終わったな。」と自身の終結を覚悟する。
二匹目に、体を蹴られ、うつ伏せにされる。派手な傷。と、いい二匹目が傷口に静かに吸い付いた。ああ、吸血されてるなぁと、最早他人事に思う。
しかし、やけに対照的な吸血鬼達だ。向こうは喋らない代わりに派手な動作だが、この吸血鬼はよく喋る割に静かな所作。品があると言っても良い。

「お前直さねぇのに、よくやってくれたな。お陰で乾眠から目覚めちまったぜ。」

レッド。

吸血が終わったらしい二匹目は、すくっと立ち上がり、ヤスタカを追い掛けてきた吸血鬼へ、挑戦的に笑んだ。




10/30 22:38 短篇 上の続き

 瓦礫の向こうに、怪力の吸血鬼が現れる。先程、目の前の吸血鬼は、「レッド」と呼んだ。

 ゆったりと、焦った様子もなく欠伸をする。そんな挙動さえ、いちいち様になる美しさを持っていた。この吸血鬼は。
 先程、俺ではなくあの吸血鬼に不平を述べていたが、同類である吸血鬼。まあ、身内に焦ることはないか。ならやはり、この状況は俺に不利益をもたらしていると考えることが妥当だ。

「おーい、聞いてんのか?」

 返事はない。盛大に溜め息を吐くと、少年がくるりとこちらに顔を向ける。

「あいつあんなに怒らせるってあんた何したんだよ。」

 答えるべきか。いや、答えなければ彼からすれば俺の存在価値は「食糧」しかなくなる。それは、死が目前に迫る選択に思われる。彼からする、「食糧」以外の価値を自身に付与させておくべきだ。

「この古城に踏み入ろうとしたら、突如ですよ。入るのは止めると言っても止まっていただけなくて。」

 「古城、ね。」と、含みのある言い方をする。それを疑問に思ったが、彼は先程「乾眠から目覚めた」と言ったから、恐らく長く眠っていた。古城となる前の、ここの主か。

 レッドは、ヤスタカに狙いを定めるが、踏み入っては来ない。恐らく吸血鬼の習性に因るもの。

「…どうにかしていただけませんかね。彼。少し、困っているんです。」

「たかだか人間如きが、俺様に指図かよ。」

 中々に、高慢だ。実に吸血鬼らしい。完全に見下した対応。まあ、間違っちゃない。能力では人間なんて比にならない程の圧倒的な強さを誇る。そしてその不老不死と言える活動力。しかし、今完全に「下」として認めるわけにはいかない。

「その人間の死体から生まれておいて。」

 強気に出ると、くっと笑う。眼光が鋭く光る。一瞬にして纏う気配が変わる。暴力的な瞳は、力量差を思い知らせてくる。捕食者の目。彼の口が動く。一音一音が空気を震撼させていく。

「人間の方が上ってか?死に損ないが。今すぐ殺すことだってできるんだぜ。」

 彼を、少し勘違いしていた。会話が出来る点ではレッドと違うが、凶暴性は匹敵するかもしれない…なんてものじゃない。完全に同等。ここから生きた吸血鬼の噂が途絶えてから久しい。その実、こんな手に負えない二体を抱えていようとは。

「ま、違いねぇけど。ところで、あいつの二の腕の傷。あれお前?」

 よくよく見れば確かに、サイコパスよろしく出口で待ち構える男の二の腕には、銃創と思われる傷がある。が、俺はあの男相手に銃なんてもので手傷を負わせられるわけがない。

「…違いますよ。ほら、銃弾は減ってないし、そもそも予備含めて銀はない。だから貴方に「どうにかしていただけませんか」と言ってるんです。」

 言外に手に負えないと伝え、だめ押しで両手でホールドアップ。
 成る程ね、と意思が伝わったらしく呆れられる。

「ま、ならいいや。美味しい血のお礼。」

 後ろ首を掻き、ため息。その後、何事かぼそぼそと呟き、最後。だいぶ古い言語「蘇れ。」と言うと、突如城が組み変わるかのごとく、美しくなった。埃っぽかった空間は、磨きあげられた板張りの床に。絨毯も色褪せてはいるものの、手入れが施されたような輝きを見せる。本当に、同じ城か。
 しかし、自分が叩き込まれた際に空いた穴は塞がらずに、その先のレッドという吸血鬼を筒抜けにしていた。

 城を生き返らせても、我に返らないか…。どぼやくと、吸血鬼は視線だけこちらに寄越す。

「寝起きにあんま期待すんなよ。」

 そう言うや否や、その場から姿を消す。正確には、素早い動きで移動した為、姿を消したように見えた。音がしてから見れば、顎を思い切り蹴りあげたのだろう、綺麗に足を突き上げる吸血鬼と、吹き飛ばされるレッド。唖然としてると、レッドが着地するだろう方で既に構えていた。
 速い。速さはあのレッドすら優に上回る。レッドはまだ目で追うくらいならなんとか出来た。しかし、この吸血鬼は、それすら許さない。

 何事も圧倒する力が最強と考えていたヤスタカの思考を、見事塗り替えた。
 こんなに速さに恐怖するとは。

 彼が、俺を狙っていたら、俺は殺されたことに気付く事無く人生を終えていただろう。威圧も自在に操り、牽制の道具と出来る男。さぞ、気配を殺すことも得意だろう。いや、気配を殺すまでも無く遠くから一気に距離を縮めて殺すことも可能か。

「そんなに短絡的な攻撃で、俺の相手が務まるかよ…レッド!」

 わざとだろう、分かりやすいまでに体重を乗せ振りかぶった拳は、レッドを城の外壁の外まで思い切り吹き飛ばした。


「出直してこい。ばーか。」




11/06 00:56 短篇


「さっむいなぁ〜っ!」
「だから早く南下しようって言ったんすよ〜!」
「うるせぇーっ!宝を前にして寒さに負けるのは俺様の名が廃る。」

 何と張り合ってんすか。と言いつつ、後ろからついてくる男と共に扉を潜ると、喧騒の中から一際元気な声が聞こえてきた。

「グリーンじゃない!今年は来ないから遂にくたばったかと思ったわよ!」

「よぉカスミ!今年はここも潰れちまってると思ってたぜ!」

 馴染みの看板娘にてをあげて挨拶をすると、カスミは怒った様子を見せるが、カウンターの男に話し掛けられるとすぐに成を潜めた。ああ、あいつ獣の目をしてる。前の男と別れたな。獲物を狙ってる目だ。

「カスミ…趣味悪くなったか?」

「はぁ?あっ姉さんこっちエール2つ!」

 カスミに狙われた哀れな男、つまりはカウンターの男だが。どうにも地味だ。カスミは派手な輝かしい男を好んでいたし、俺もそっちの方がいい趣味だと思う。あんな海に出たら転覆して1日でくたばりそうな…。

「げっ、グリーンさんアイツ。南の鴉すよ。なんでこんなとこいやがんだ…。」

 なんと、そんな大層な輩がいたのに俺は気付かなかったのかと、ゴールドの視線の先を追うと、まさかの今思考にあがっていた人物。あんな地味な奴が。マジか。すると、横の赤毛もその組員か。赤毛の方がよっぽど風格があんな。背中から刺すような気配が出ている。
 南の鴉と言えば、海軍海賊関係無く食い荒らす男ときく。雑食過ぎてついた通り名が南の鴉。
 今じゃ怖がってどこも手が出せねぇって話だ。
 きたジョッキを仰ぎ、視線を戻すと振り向いた鴉と目が合う。やはり、地味だ。しかし、鴉の羽根のような髪から覗く瞳は、キラキラと射抜いてくる。

「北の鷲…って?」

 本当に君が?と疑いの目。静かな目だった。
 疑い、ちょっと違うな。あー、挑発が、正しいか。思考を巡らせながら、ニヤリと笑い返す。

「巷じゃそう呼ぶ奴もいるな。鴉さん。」

 鴉が目を細める。嬉しそうな瞳。

「レッド。鴉なんて呼ぶのやめてよ。」

「そーかよ、鴉さん。」

 そうか、レッド。レッドというのか。着古した外套の色と同じ名前の男。

「ズルいな。僕は教えたんだ、君の名前を教えてよ。」

「誰が教えるっつったよ?」

 足を組んで悠然と答えると、レッドは立ち上がり、外套を脱いだ。

「じゃあ空の王者を引き摺り降ろしてゆっくり聞こうかな。」

 発想だけは野蛮だ。実に海賊らしい。

「喧嘩か?ッハ!面白ぇ!」

 机にジョッキを叩き付けるようにして置き、その勢いも乗せて立ち上がる。すると、音に気付いた男たちが「おーい!ケンカが始まるぞ!」と囃し立て始める。

「名が知れると誰も突っ掛かって来ねぇから退屈してたんだ…!」
 相手が南の覇者とはついてる。ここで勝っときゃ冬も南で幅を利かせてられる。



11/09 12:42 短篇

「っに、しやがんだゴールド放せ!」

 完全に頭に血が上っている船長をやっとの思いで引きずり出す。大乱戦となった店の中は、もうしっちゃかめっちゃかだ。俺がどうすんだとへこたれているとどうやら向こうの連れも同じ思いらしい。目があった。すると、視線で連れ出すぞと言われた。
 見ず知らずの野郎に従うなんざほんとはゴメンだが、そっちの方が丁度良いから今回は特別だ。

「なんだもないッスよ!あんたが強いのは解りますがね!南北の覇権争いを酒場の酔っ払った勢いでやられる部下の身にもなれってんだ!」

「酒場のノリで世界制覇とか安上がりでいーだろ!」

 あれっこの人もしかして酔ってる?
 あまり腕力のつかないこの人は、いつも足腰も使って全身で踏ん張りを見せる。そんな人物がやっとの思いでもあるが、部下に引き摺られる。挙げ句の果てにはこの安直な発言。多分酔ってる。嘘だろ、あんなちょびっとしか飲まないで。よく酔えるな。

 これじゃ背後から別の輩に襲われても対応出来なかったろう。やはり、連れ出して正解だった。



「逃がさないよ」

 ぎゃんぎゃん騒ぐ二人に、背後から声がかかった。



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