2015/10/24 00:20 短編


「グっリーン!トリックオアトリートォー!」

にこやか満点、晴れやかで爽快な笑顔で入ってきたのは、遠い彼方イッシュ地方にすらリビングレジェンドとしてその名を轟かす赤い少年、レッドだ。

対して、窓からリビングレジェンドの侵入を許してしまった彼のオーキド博士の孫であり、その類い稀なるカリスマ性で自身もトキワジムのリーダーとして名を知らしめるグリーンは渋面を顕にする。

「…窓から入るのいい加減やめていただけませんかね。」

「うん、グリーンに会いに行くときは窓からがお決まりだし無理かな。それより」

「ここはジムだから!家じゃないの」

「うん、それよりグリー」「言うな」

「何その格好」

「言うなって言ったじゃん!」

攻防虚しく、突っ込まれたくなかった事案に突っ込まれ、わっと泣くような素振りで顔をおおう。当然だ。今、クールでかっこいいと評されるグリーンの頭からは黒い猫耳が生え、黒シャツにベスト、黒いパンツとスタイリッシュに決めているが、お尻からは黒い尻尾。ヒールのついた靴の先は猫の足を象ったフォルムとなっている。完全なコスチュームプレイは、グリーンが望んだものではなく、周りに強制された格好であり、つまり不本意なものとなる。嫌々と着ている服装に、言及されたい訳がない。
グリーンは拒否はしたのだ。しかし、ジムのトレーナーはあろうことか、本人ではなく、グリーンの姉にプレゼンをし、話を通した。
誠に珍しい事ながら、オーキド家の家庭内の実権は、孫兄弟の長女であるナナミが握っている。基本的に祖父や弟の仕事に口を出しては来ないが、いざナナミが「こうだ」と言えば、家族に拒否権はない。これには、イッシュで働いている母も頭が上がらないのだ。母や祖父すら頭が上がらないのに、ましてや弟のグリーンがどうこう出来るわけがないだろう。

そんな家庭内のヒエラルキーをどこで知ったか、ジムの輩は姉にプレゼンをした。その結果が、ジムのハロウィン実施。地域貢献が運営に必要なことは解っているが、子供向けポケモン教室、清掃、ポケモンによる地域活性援助をしてこの類いは聞こえないフリをしていた。
…今回その努力は全て瓦解したわけだが。

そして残念ながら、誠に遺憾であるが、これが地域住民老若男女から大好評。来年は、あからさまにやれという圧力がかかるのだろう。それどころかこの調子だと、クリスマスもありそうだ。既に要望として何件かあがっている。派手なのは好きだが、コスプレにも向き不向きがあるだろう。とにかく、今回の何が不満って、なんで俺が猫なんだってことだ。

そんなものを寄りによって幼馴染みでライバル。つまりは、常に競合してきた相手に見られてしまった。最悪だ。

そしてぶすくれていると、何が楽しいのか、レッドはずっと俺の頭を撫でている。表情を見ても、笑顔だが完全に何も考えてない顔だからいっその事放っている。

「グリーンさん事務室に逃げないでくださ…ってあらら。本当に猫になってる。」

「あ?」

扉から現れた男に不機嫌ですという感情、敵対心を全面に出して言うとホールドアップのポーズで吸血鬼に扮した男は歩み寄ってくる。

「そろそろ、あなたのファンを抑えられそうになくなってきたんで、戻ってください。」

「お色直しで衣装換えるから、その服寄越せ。」

「ダメですよ〜、ほら。リーダーはタッパが…ね?」

「いい度胸してんな!?」

トレーナーの方が年上とは言え、身長差は頭ひとつ分以上違う。気にしていることを言われ、殴りかかろうと、横になりかけてた体を起こしたグリーンがビタリと止まる。
忌々しげにグリーンは、腰元を見た後、そのまま視線を横に座っていたレッドにスライドさせた。
「レッド、離せ。」

がっちりと腰に抱き着いているレッドの拘束が固く、ソファからすら碌に立ち上がれず座り直すだけとなる。

「やだよ〜、僕の猫しゃん」

「うわ気持ち悪」

ヤスタカとグリーンの揃った罵倒も意に介さず、レッドは腰を抱き寄せたまま。
静かな攻防をしていると、嫌悪の眼差しでレッドを糾弾していたグリーンがビクリと揺れる。
異変は直ぐにわかった。

この男、盛っている。

グリーンの腰にまとわりつく手が明らかにそういった意図で動いている。グリーンも、腕をほどくのではなく、止めようとしている。

「ちょっと何してんの。リーダーを離せ、変態。」

「やだよ〜。僕の猫だから。」

えっあっ、もしかして

「猫って…」

「そっ。僕のネコ。」

グリーンとヤスタカがぞぞぞっと鳥肌を立たせるも同時に、レッドと距離を取るのに躍起になる。

「ちょっ…!リーダーを離せ変態!!」
「やだーーーー!もうこの変態やだーーーー!」

グリーンが逃げようと無理に動き、少しバランスを崩したのを赤いゴリラは見逃さず、即座にお姫様抱っこで立ち上がり窓へ向かう。咄嗟の行動に、引き剥がそうとしていたヤスタカも空振り、体勢を立て直す羽目になる。

ぎっ…

「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

その日、発情期の猫のような悲鳴をあげたのを最後に、グリーンをお目にかかったものは、吸血鬼と赤い雪男を除いて、誰一人としていなかった。




10/29 16:15 短編

「さっむ、急に冷えたな〜。」

「自己管理もトレーナーの責務でしょ。」

ヤスタカのぼやきを同僚は冷たく聞き流す。ヤスタカもそれが当然なので、予想通りの対応に二の腕をさすり、寒さを遣り過ごす。
予想外だったのは、想定していなかった人物が聞き流さなかったこと。

しかめっ面で(知らない人が見たら怒ってるようにもとれる)、無言。たんたかと近付いて来た男は、このジム最年少だった。
怒ってるわけでもなく、近付いてこられるヤスタカは何事かと身構える。そして、少年の白い手が、ヤスタカの剥き出しの額に当てられた。

「…風邪って訳でもないな。」

「!?」

普段から接触を嫌うリーダーが、そんなことをすれば誰だってビビる。先程辛辣な対応をして歩き去ろうとしていたサヨも目を剥いていた。

片一方の手を自分に当てているリーダーは、さっさと手を放し暖房をつけるべきか思案している。確かに、ヤスタカは扉に一番近いため外気に触れやすい。その気遣いにヤスタカは普段ならば、心打たれていた。

しかし、これは異常だ。


「リーダー、もしかして熱有ります…?」

「は?」

リーダーの動きが一瞬止まる。そのあと、思いっきりしかめた。

「お前失礼だな。」

サヨも軽蔑の眼差しを向けてくるがそうじゃない。確かに、このリーダーの優しさは稀ではあるが、そうじゃない。

「俺、熱って程じゃないけど今日体温高めですよ。」

サヨの顔がぐるんとリーダーの方へと切り替わる。大体リーダー今日若干目が潤んでいる。あと反応が少し遅い。

「…そんなわけ、」

「確保ーーーっ!」

否定しつつ、距離を置こうとリーダーが半歩下がる。つまりは、自覚あるってことだ。
リーダーの言動はここにいるトレーナー全員が注視する。つまり、サヨと俺だけでなく、残りの三人も加わって総出で捕まえに入った。いつもなら、それでも捕まらないことが、多い。
しかし、今回は一発だった。

「…大した熱じゃないんだけど。」

「万全にしたいだけなんで。」

仮眠室で休みましょうね、とニッコリ笑って返すと、不服な顔のまま大人しくテンに担がれていった。




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