2015/09/24 01:23 短編

ロケグリからのマツグリで、唐突に始まって、唐突に終わります。

グリーンが、行方不明になっていた。山から降りて、巷で騒がれていた為知ることが出来た。ジムを閉めてから家への帰宅は確認されず、翌日もジムが開かれることがなかったため判明した。
話を聞こうとうろちょろしていたら黒い影が動いていた。

まるで、3年前だ。
過去と同じようなことを繰り返し、幼馴染みを取り返した。取り返す迄に今回はとても時間がかかった。そして、その分だけグリーンは監禁されていた。
グリーンは、才能もあれば警戒心もあり、捕まえることは難しいが、才能に比例した地位もあり、大権威の孫としても人質の価値は高い。
だから、狙われたのだ。博士は要求に応えてはいけなかった。人質として役不足となった彼はモルモットにされ、欲求を発散する道具にされた。

人間として扱われない地獄の日々。蹂躙され、絶望を味わい、気が狂うような日々を繰り返しても、それでも、グリーンは狂えなかった。
発狂した方が楽であろう時間を、グリーンは耐え抜いてしまった。耐え抜き、精神を磨り減らし、全て心を押し込めて蓋をしてしまった。

救出した後、グリーンは一言も喋らなくなっていた。口が達者な彼からの大きな変貌。そして、もうひとつ。

彼は幻覚を見るようになった。

こちらの呼び掛けには反応せず、病室の一点をひたすらに見つめている。時折、何かを払い除けようと、あるいは怯え苦しむように暴れた。
リーグ付属病院に、個室はそう多くない。それでも、グリーンの為に空けられ、収容された。
恐らく、薬漬けにされていたらしいから後遺症やら禁断症状だろうと医師は言っていた。


変化は唐突に訪れる。
ワタルが嫌そうな顔をした金髪の青年を連れてきた。彼は、エンジュのジムリーダーらしい。最近リーグに来ることを拒否していたようで、ワタルが引き摺ってきたらしい。
そして、特に彼が嫌がる道で会議室へ行こうとしていたようだ。ちょうど、グリーンの病室から出たところで二人に出くわした。

「何かいるのか?」

「…何もないよ。行こう。」

ワタルの問い掛けに嫌悪丸出しの表情を消し、無表情でマツバは返事した。そして、気付いたワタルは問答無用で病室の扉を開く。

「で、何があるんだ?ここに?」

ワタルはマツバに対してかなり鬱憤が溜まっていたようだ。満面の笑み。
そしてあろうことか、マツバを病室に押し込み扉を閉め切る。病人にもマツバにも迷惑極まりない。

「ちょっと冗談じゃないんだけど。ねぇ、ワタルさん開けてくれよ。」

「ははは!俺にとっては軽い冗談なんだがなぁ!最近の会合を徹底してサボタージュするジムリーダーがいる方が冗談じゃない。」

「こいつがいるから嫌だったんだよ!」

ワタルのトゲのある言葉に、苛立ちの含んだ声が返ってくる。

「そんなにグリーンが嫌いか?」

「グリーン?彼は知らないよ!ねぇ、ワタルさん許してくれないか。」

ワタルが「許す?なんのことだか。」とか大人気ない事を言う声に重ねて、小さな声が聞こえた。
マツバが、扉を叩くのをやめる。

見えるのか。

それは、グリーンの声だった。
グリーンが喋ったのは衝撃だったが、レッドからすれば何を言っているのか解らない。

「…ワタルさん、本当に開けてはくれまいか。」

マツバの声が、真剣になる。彼は、グリーンの声を無視した。

しかし、そのあとグリーンの絶叫が聞こえた。すると、舌打ちをした後、マツバの気配が扉から離れた。数珠の音が響き、少しするとグリーンは絶叫をやめた。が、少し置いて何か勢いよく倒れる音がする。ワタルと顔を見合せ、病室に入るとベッドの横に、マツバが倒れていた。グリーンも青ざめた表情で戸惑っている。




09/24 14:46 続き

看護師を呼びに行こうとしたら、マツバがみじろぐ。どうしたんだと訊ねても「どうもしない、目眩がしただけだよ」という。が、短時間でレッドも学べるほどにマツバは、本当の事を言わない。つまり、どうかしたという事だ。

「何を見た、マツバ。」

ワタルの声は、命令だった。強制する力を孕んでいる。チャンピオンたる威圧感をマツバも察知したらしく、目を眇めた。

「過ぎ去った事だよ。言ってもどうにもならないし、どうしようもない。」

ハッとして、グリーンが再び壁を見つめる。

「それを払い除ける事は出来ない。」

絶望したような表情をグリーンが向けた。
大体、マツバの言ってることもちんぷんかんぷんだが、ワタルの問いも、グリーンの反応も、レッドには全て解らなかった。

「解らない?」

突如、マツバの言葉がレッドに向けられる。床に座り込んだまま、見上げるマツバの口許には微笑みが湛えられているが、目は氷のような冷たさと鋭さを持っていた。この目は、非難の目だ。直感的に悟るが、なぜそんな目を向けられるか、解らない。

「グリーンは、最初から、本当に、口を、閉ざしていた?」

助けを求めていた筈だ。

言われて、ハッとした。グリーンは、最初に一言。本当に一言だけ、口を開いていた。ただ、それはロケット団の研究資料にもあった薬の副作用のはずで──

「グリーンの視てるものが幻覚なんて誰がいった?誰も、言ってない筈だ。」

待て、俺は何も言ってない。なんで、彼は。いや、そもそもなんでグリーンの事を。

「グリーン、酷なことを言うが。それは祓えない。僕の手には負えない。」

「……」

グリーンが、泣いた。そして、レッドはグリーンが、人に対して反応を示し、コミュニケーションを成立させていることに驚いた。
ワタルは、マツバという男の言葉を理解しているようで驚きも動揺も見せていない。

「…気になるなら、見せることも出来るけど?」

先ほどの自分に見せた表情以上に対外的で、敵意のある表情をワタルに向ける。

「…遠慮しとこう。これだから千里眼は。」

「人の災難を喜ぶよりはいいだろう?」

元から見せるつもりもないよ。グリーンの尊厳に関わる。
冷めた顔で言い捨てる。が、レッドは違った。マツバの言う言葉から推測するに、グリーンのトラウマになっている物に関連するものだ。
俺は、グリーンの助けを求める腕を取り損なった。次に、助けを求められたとき、今度こそちゃんと手を取りたい。

「俺に、見せてください。」




10/06 04:43 この間の続き

「嫌だよ」

あっさりと断られ、思わずきょとんとした。マツバは、自分がどれほど真剣か、しっかりと吟味するためにたっぷりと時間を置いてから、端的に返した。
何で!?って、声を出すまでもなかった。

「君は、幼馴染みの人権をまさしく今、無視している。」

言われてハッとした。今のは独りよがりの考えだった。

「グリーン、ごめん…。」

謝るが、グリーンは膝に頭を乗せピクリとも反応しない。本当に、今までのグリーンからかけ離れた生気の無さを改めて実感する。
もう、どうしようもないのか。

「さて、ワタル。僕たちも用事を済ませよう。その為に僕も引き摺られてきたんだから。」

そう言うと、ワタルを病室から押しだし、マツバも退室していく。
病室に残された二人の空気はただただ重かった。


さて、それから暫くして、レッドも退室した後。二人はグリーンの病室に戻ってきていた。
レッドと鉢合わせた時のように、ワタルにマツバは引き摺られている。その顔には、諦めの相が浮かんでいた。

「一応、聞くけど、考え直してはくれないか?」

「俺がどう答えるか解ってるだろう?もう聴くか?」

「…はぁ。いいよ、もう。」

チャンピオン殿には、人権って概念が無いようだね。なんて、ぼやくと「千里眼にはプライバシーって概念が無いな。おあいこだ。」なんて返される。
ワタルは解っていない。グリーンを、グリーンに憑いてるものがどれほど危険か。

確かに、グリーンは霊の集合体の怨念に苦しめられている。だが、苦しめられているだけだ。俺のように力の有るものはより濃く影響を受ける。変に手出しをすれば、下手すれば死ぬ。
それに、だいたい何で他人の不幸を俺が背負い込まなくちゃならないんだ。

彼を不幸だと思う。可哀想だと思う。同情するし、心だっていためられる。しかし、自分が彼の不幸を少しでも肩代わり出来たらいいなんて思わない。肩も貸したくない。

こっちなんて修行でずっと暗い世界でとざして来たんだ。これ以上背負いたいわけない。しかも、手に負えないと一目で悟るほど、暗く重い、強大な怨み辛み。妬み。嫉み。


「さて、グリーン退院準備だ!」

明るい声で、ワタルは布告した。


10/06 05:50 続きの続き

ドロドロ 苦しい、
痛い…
腐臭息できない。死。屠殺、モルモット 血
散乱 杭
助けはない、声
薬 死 苦しい
麻痺 もがく 痛み  吐き
 暗い

声がする、声が お前だけ
いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな

  信じて

腕が、のびてくる狂え 早く、狂え幻覚
幻覚 いいな 幻覚 いいな いいな いいな 狂え お前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前も 痛い



───…。

天井の木目を見て息をついた。
マツバは、一度グリーンと目を合わせたとき、グリーンの内心を見てしまった。
一瞬で流れ込んできたそれは、閉ざした心の中に渦巻く忌々しい記憶や感情。思わず、気分が悪くなり前後不覚となるほど。凄惨と言う言葉だけではとても言い表せないだけの、数々の恐怖や、痛み、苦しみ、全てが流れ込んできた。
グリーンの家族や、レッドも一瞬過ったように思うが、直ぐに監禁時の暴行、体を開かれ臓器を暴き、犯され薬漬けにされ、同様の人間と殺し合わされ、死んでいくのを見つめている記憶に蹂躙される。そして、死んでいったもの達の逆怨みの標的となってからの呪い。
生死をさまよった記憶。


マツバがこの夢を見るのは、当人が強くトラウマを呼び起こしているからだ。自然と影響される。
マツバは体を起こし、隣の部屋の障子を開いた。

そこには、無数の腕が生える黒い靄にのしかかられ、耳元で呪詛を吐かれるグリーンが、綺麗な体勢で首を絞められながら寝ていた。

流石に、目の前で苦しんでいるものを見過ごすことも出来ない。
その場凌ぎで祓うと、一度霊は霧散し部屋の隅で元に戻った。これ以上の干渉は自分が危険になる。寧ろ、これでさえ危うい。

グリーンをみやると、霊がいたところを、見開いた眼で見つめたまま、大量に発汗していた。呼吸を無意識に止めている。

「息しなよ。」

そう言うと、詰めていた息を漸く吐き出した。息が荒い。金縛りは解けたようだ。


一度、イタコと共に修行させ自力で解決出来るようにしようとした。しかし、暗い空間で精神を鍛える修行をしようとしたところ、途端に周辺の良くない霊まで引き寄せ、本人も静かなままパニックに陥り周りの声が聞こえなくなっていた。
本人は、平静を努めようと、自己暗示をかけるが、それ以上に暗い空間が強くトラウマを想起させ、言い聞かせることに必死になるようだった。

それほどまでに、闇は深い。

幼なじみのレッドが、あの映像を見たいといったが、恐らく彼はショックに耐えられない。
一度、生死をさまよいそれから霊が見えるようになり、霊によって感情が悪循環を始めた。そして、周りの良くない霊も、グリーンの感情に引き摺られ寄ってくるようになった。しかし、誰にも信じて貰えない。聞く耳を持って貰えない。そうして、心を閉ざしていった。閉ざした中では、今も深い傷を負ったまま苦しむグリーンを守っている。

狂えなかった、グリーンが。癒えない傷を負ったまま。

「あり、と…ざいます…。」

「慣れてるから。いいよ。」

最近、彼が俺に好意を向けているのを知っている。
しかし、それが淑やかな感情だろうが、依存だろうが、意味はないのだ。


結局、自分を守り、救えるのは自分だけなのだ。


だから己は、苦しむグリーンの手を冷酷に祓い、自己を防衛する。そして、グリーンは、恐らく無意識でもその事に感付いているのだ。

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