「俺は、お前が俺に負けるに1000円。」
「俺もお前が負けるに1100円。」
「テメェずりーぞ。」
「おめーこそ。」
二人でドッと笑う。というのも、このやり取り、二人が読んだ漫画であったやり取り。二人からすれば共通した認識で今の流れは笑うに値する内容だった。
「冗談はさておき、」
どうする?因みに俺は変えないけど。
聞けばレッドも当然だと変えない意向を示す。
「じゃあ放課後屋上扉な。」
「おう、」
そう言い合ってチャイムがなる十秒前、クラスの扉の前で別れた。
屋上に自由に往き来ができるなんて幻想だ。そして、綺麗というのも幻想。中学の時に、放送の配線を繋ぐために上ったことがあるが足の裏が惨劇だった。そして、そんな時以外に生徒が屋上に立ち入ることは許されていない。だから、俺が座っている階段の終わりにある扉はガチャガチャと鳴るだけで動くことはないのだ。因みに、学園祭が出店いっぱい夢いっぱいなのも、そのものが夢。本当、二次元に行きたい。二次元で超能力があったらこんな数字、気にしなくて良かったのに。
テストが明け、今日はあらゆる授業でテストが返却される。そして、今までの分ひっくるめて返却は今日が最後だった。
9教科、俺の総合は712点。苦手教科がとことん苦手な挙げ句勉強が10分と続かない俺の割には上出来だ。ただ、問題は相手だ。
テスト前、いつも通りのアイツが憎たらしかった。つまり、あいつはいつものペースで範囲をこなしたのだ。最悪だ嫌な予感しかしない。まあ自己ベスト出せただけ良いか。その自己ベストで負けるというのも悔しいが。
「はえーな、レッド。」
「グリーンとこの先生かなり話長いよな。同じ事繰り返すし。」
「聞いてたら結構面白いぜ?」
恐らく、そういう事をあの先生に対して言えるのはグリーンだけだろう。その他大勢からは眠いという感想しか頂けない。俺の幼馴染みの凄いとこ、「なんでも面白味を発見出来るとこ」。
「で、何点?」
「827」
………わーお。100点以上差があるよ?おかしくない?
「どうやら、返事のないあたり俺の勝ちらしいな。」
黙りこくっている俺で結果は把握したらしい。
てか何、受験に向けて結構難しい作りにどの教科もしたって先生たちいってたぞ?俺のクラスの秀才たちも見事撃沈されてたのに目の前の幼馴染みの総失点73点?天才なの?死ぬの?つまり、えーっと、教科毎に8点ずつ位しか失点してないと。つまり、殆どが90点越えてると。
「天才はしね、爆発しろ。」
グリーンは「そんなのじゃねーよ」と笑いながら俺の横に腰掛けた。埃がフワリと舞い上がる。
「まあ、今回は俺の勝ちだから、1100円貰ってやんよ。」
そんな顔しかめんなと、さっきとは違うニヤニヤと効果音が付きそうな笑顔で手を差し出される。
渋々、財布を開いて、固まった。
固まった俺を不思議そうな面でグリーンが覗き込んだ後、財布も覗き込んだ。
「……あらあらまあまあ、」
グリーンも返す言葉がないのか、主婦かと突っ込みたくなるような感嘆詞を使ってくる。
俺の財布の中には500円も入っていなかった。
「ごめん、」
妙な沈黙を壊すのすら申し訳なく感じる。やっちまった。
「賭けで後日払いも微妙だしな。」
顎に手を当てながらグリーンが考え込む。
「あ、ならレッド、お前今日1日俺に付き合え!」
それでチャラにしてやると言いながら散々自分へ賛辞を送るグリーンの頭がおかしい。いや、え?1日ってもだってもう夕方。え?1000円の代償がそれ?時給換算したら確かに1000円上回るけど、グリーンそんな奴だったっけ。
「いい、けど………」
そう呟くように返せば、それじゃ決まりだな!と、早々に俺の腕を引っ張ってグリーンは駆け出した。
そしてどこに連れていかれるかと思えば、定期圏内の街。確かにビルが立ち並び物に困らない空間だが、前提を思い出してほしい。
俺には金がない。
ゲームであれば確実に「しかし、おかねがないのでやめておこう!」や、「おかねがたりません!」と表示されること必須だ。嫌な効果音と共に。
そして、グリーンもグリーンで当然のように店に入る。だからさあ、
「なんなの!?俺金無いって言ってんじゃん!バカなの死ぬの!?」
グリーンが、引き摺られながら叫ぶ俺に盛大な溜め息をはく。溜め息つきたいのはこっちなんだけど。
「誰がお前に払えっつったよ。」
冷ややかな流し目と共に言われる。いやいや、お兄さん他にどんな選択肢が。
苦悶してる俺を他所にグリーンはさっさとカウンターの前に立ってしまった。グリーンさん、せめてチーズバーガー、チーズバーガーならまだ買えるから。
「照り焼きとドリンクオレンジM2つずつ。」
ほら!そういうことする!
やりとりを見てたらしい含み笑いの店員から告げられた金額は当然俺の全財産をオーバー。俺が途方に暮れていると横から札が飛び出してきた。
「えっ、いや、何してんのグリーン…」
「みりゃ判るだろ。支払い。」
いやそうだけど。そうだけど!
俺の驕りだっての、とグリーンは平然と言うけど!
「俺情けなっ!賭けに負けたのに奢られてるとか情けない!ヤバい超情けない!」
一気に叫びだした俺を迷惑そうに一瞥したあとトレイを俺に押し付けさっさとグリーンは空席をさがしだす。瞬時に席を見つけたグリーンのあとを、俺はめまいを起こしそうになりながらついていった。
席につくなり、グリーンはシャーペンを取りだし文字を書き出した。
俺はテリヤキの包みを開きながらジュースをすする。グリーンに「行儀悪い。姿勢。」と見もしないで言われた。
「ん。」
小さなメモ書きを渡される。俺にか。
最近お前勉強ばっかで一緒いれなかったじゃん。俺はお前と一緒にいたいの。お前の時間を俺にくれ。
グリーンの、小さく几帳面にまとまった字を見てグリーンをみる。恥ずかしいのか不貞腐れたように頬杖をつきながらそっぽを向いてジュースを飲んでいる。
「グリーン寂しかっ」
「言うな刺すぞ。」
手元にあるシャーペンを瞬時に掴んだグリーンに、照準を額に合わせられる。芯出す方は鋭利なのでやめて。
「あれ?でも俺グリーン見たら勉強しててもレッドホイホイされてたけど。」
レッドホイホイて。と呆れた眼差しを向けられるが仕方ないだろう。俺の様を見たクラスメートのカスミ命名で、二人の間では癖なのだ。
で、レッドホイホイはその名の通り発見される度にレッドを惹き付け勉強妨害になっていった。勉強を教えていたカスミが耳を引っ張らねばならぬほどの回数である。
「図書室は俺の好きな自習場所なんだよ」
図書室?放課後一人でそういえば勉強してたな。
え、いたってこと?俺グリーンが同じ教室にいて気付かなかったの?
「嘘だろ…」
隠れて勉強して、お前にしては頑張ったなって誉めて貰うつもりだったのに!
「てか、声掛けてよ……」
「お前の邪魔したくなかったんだよ。」
いや、俺勉強よりもグリーンが大事なのに。邪魔なんて思わないのに。
一人へこんでいるとグリーンが口を動かす。
「だって俺お前に同じ大学に来てほしーもん。」
「は?なんて?」
「別に。」