この国は少しおかしい。
蝶と蛾なんてのは触角の差しかないというに蝶を美化し、蛾を醜悪なものにしたがる。あの触角の差はそんなに重要なのだろうか。

しかし、自分の境遇も少し似ていて、考えずには居られないものの、答えを出す気にはなれなかった。


俺は、アンドロイドに最も近いとされるサイボーグだった。
しかし、知っているのは極一部の人間のみ。姉は俺がアンドロイドという事を知らない、そして、幼馴染みのレッドも。というのも、とてもナーバスな問題らしく人間だと思っていた弟が実は人工生命体の機械でした。なんて言われてもショックしか受けないし、幼馴染みが実は偽りの生命なんて言われても同様だ。偽りの生命、そう言われるが、俺は母胎から発生してないだけでそう言った認識を受けても、ちゃんと生きてきた。ちゃんと人間として育ってきた。感情もある。だから、偽りだとか機械だとか言われるのは心外だったし、世間の認識のせいで俺がサイボーグだと言うのを隠さないと平穏な生活が出来ないのは耐え難い。
言ってしまいたい、
時々そんな衝動に駆られる。特に姉ちゃんやレッド、ちかしい存在に隠し事をするのは酷く後ろめたかった。
けれど、俺の誕生日を思い出すと口は自然と閉じた。
同じ研究グループ内では誕生を祝福された。しかし、研究者の中にもいたが、いざ世間に出るとどうだ。
「非人道的だ。」「兵の大量生産だ。」「所詮機械、」
有りとあらゆる言葉を浴びせられた。
凄く戸惑った。母胎から発生してないだけでこの扱いの差だ。祖父達も動揺していた。だから、博士は機械だという事は隠蔽しようと決めたのだ。
だから、サイボーグは壊したと世間には発表され、俺は今まで生きてきた。人間と同じように生き、死んでいくよう設定されているから。

「あれ、グリーン!」

遠く後ろから呼ぶ声が聞こえ振り替えると、レッドがこちらに向かって走ってきている所だった。

「どうしたんだよ、こんな所で。」

風邪引くぞ、レッドが心配そうに言う。片手には開かれた傘。当然、ココは外で雨が降っている。霧雨とかではないのだ。どしゃ降りと言うには程遠いが、傘を差さないのは異常だと言える程度には、
虫の声も聞こえない。全て雨音が掻き消す静かな喧騒の中。

「いいんだよ、」

レッドは心配してくれたが、恐らく俺はこの程度では風邪を引かない。機能低下からそのまま停止に繋がる要因に為りかねないから頑丈に作られた。たまに、熱暴走のようなものも起こすが、本当に稀だ。

「良くない。」

軽くあしらうと、まるで重大なことのように真剣な顔で否定される。

「お前、前に熱出した時魘されてたじゃんか。」

そうだ、4年前の出来事。俺は酷い熱暴走で倒れた。一緒にいたレッドが俺以上に動揺していて、動けない俺はその様子を見て思わず笑ってしまった。

「ま、備え有れば憂い無しって言うしな。」

「は?」

「風邪予防しようなってこと。」

しっかりと雨に濡れた頭を振り水滴を払う。雨の中では意味がないが。気にせずにいると、レッドが近寄ってきて傘に入れてくれた。

「野郎と傘かよ。」

「文句あんなら出ろ。」

「ありがたく入らせて貰います、レッド様〜。」

濡れた体がレッドに当たらないように用心していると、レッドが俺の肩に腕を回して寄せた。慌てて離そうとすると、一層力が強くなって、「お前冷たいよ。」と言われた。そりゃそうだ、雨に濡れた表面が冷たくないわけ無い。なのに、離そうとしないレッドの優しさに文句をいう気力が削がれていく。
代わりに、違う言葉が出た。

「レッドさー、もし俺がサイボーグだって言ったらどーする?」

呑気な声音、呑気な雰囲気、真実だなんて悟られるわけがない。
訳が解らんというリアクションをしたあとレッドは唸りながら考え出した。
この世界に、俺の正体を知った上でひとつの命として、扱ってくれる人間は誰一人としていない。そうなのだ。博士は、俺の正体を知ってはいるが、認めてくれているが結局俺は研究成果なのだ。以前博士がメモをとっているのを隙を見て覗いたら俺の行動記録だった。
俺は、写真で残して欲しかった。

この差が、大きく感じた。

「俺は、」レッドのシンキングタイムが終了したらしい。こんな馬鹿馬鹿しく聞こえる質問すらレッドは真剣に考える。
そこが、好きだった。

「グリーンがグリーンならそれでいいかな。」

ああ、そうだ。そうだった。
レッド、お前はそういう奴だったよな。何に対しても真剣で、蝶だろうと蛾だろうと別け隔てなく接する奴だったな。
レッドの答えを聞いて安心し、なんだか脱力した俺はレッドの肩口に頭を預けた。レッドの肩がピクリと揺れる。温かい。

「なんだよ、ソレ。」

レッド、お前になら打ち明けてもいいかもな。














真実が口から出ることはなかったけれど。


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