遠くからグリーンさんを眺める。近付けたらいいのだけど生憎それは無理らしい。

と、いうのもグリーンさんが一旦夕方時にでも外へ出たならばグリーンさんの周りには大体学校帰りの小学生が集まる。ついでに買い出し帰りの主婦やらも集まって、騒ぎに気づいたエリトレ達も集まる。
だから、出来ればグリーンさんに買い出しはついてきて欲しくなかったのだけど、今日は何とも意地でもついていくといった風だった。
さっきまでは小学生の集まりに「寄んな!」と叫んで威嚇してたのに、年上の女性に囲まれてからはタジタジになっている。どうやら、年上の女性に弱いらしい、困り果てた表情ながらも追い返せないようだ。

「わー、グリーンさんだ本物だー!握手してー!」

少年の声が混じって聞こえた。妙に聞いたことのある声についそちらに目を向ける。

うん?…ん!?

「偽物なんてむしろいねぇよ。握手したら帰れ…って?」

言いながら目を向けたグリーンさんも呆気に取られたようだ。
ガッシリと握手をした相手は手を放す気はないらしい。ニッコリと微笑んだ。微笑んでいるくせして鬼の形相である。

「お前ばっかチヤホヤされてずるいんだよ!」

叫んだ少年は、そのまま思いっきり腕を振りあげた。

「ってええ!?レッド!?」

グリーンさんが宙を舞う。
俺は傍観している。後で怒られそうだ。
しかし、グリーンさんが派手に転倒する音は聞こえない。流石、我らがジムリーダー様というかスーパーマサラ人と言うべきか、
空中で姿勢を無理矢理建て直し、華麗とは言えないもののしっかり足で着地したようだ。

「ッの、にしやがるレッド!!!!」

怒ったグリーンさんが足を踏み込み、レッド君に背を向けた。今度はレッド君が宙を舞う番である。しかも、グリーンさんは流石容赦がない、所謂背負い投げのせいで体勢をレッド君は建て直せずに見事背中から落下した。というより腰から落下してそうだ大丈夫かあれ。
小学生達は華麗なまでのカウンターに拍手喝采、ご婦人達はあらあらまあまあといった風で、エリトレ達は唖然としていた。

「随分と御挨拶じゃねえか。なあ、レッド?」

「こっちの台詞だって…。…あー、いって」

土を払いながらレッド君が立ち上がる。よし、ここからの予測を立てよう。予測。いや、予想…そして恐らく予言にとれるな。

売り言葉に買い言葉でバトルになる。

グリーンさんが何やら閃いたらしい。途端に顔が明るくなる。少し、あどけないようでとても可愛い表情で癒されるのだが、あの表情の裏は大抵悪巧みだ。油断すると痛い目に遭う。レッド君も知っているようで怪訝な表情をしながら後ずさる。

「あー、お前等!コイツ俺よりバトル強いぜ!」

「はあ!?ふざけんな!」

おお、自虐ネタか。レッド君は強いと言われたのに不服そうだ。

「三年前俺からチャンピオンの座を奪った伝説のトレーナー、レッド君だ。」

「おまっ、今いったら伝説のトレーナー?えっ今背負い投げされた人が?えっ、だっさ。って俺のカリスマ性に傷がつくやめろ!!!!」

にったぁ、グリーンさんが笑う。コレは、レッド君やられたな。にしても、自分でそれを言ってはカリスマ性も何もないように感じるよ。

「でも三年前の話だしなぁ?今はどうだろうなぁ?」

「っ〜〜!はっ、無いね!なんなら証明してやるよ!」


「はーい、そこまでー。」

やるか?と二人睨み合って空気が張り詰めていく。そこを敢えて呑気な声で引き裂いた。二人の士気は下がらないが、間に立つ。

「どけ、ヤスタカ。」

睨みを利かせてくるグリーンさんに耳打ちをする。と、渋々彼は構えたボールを引き下げた。

「レッド君、俺が相手するよ。」

「はあ?お前じゃ話にならない。」

はは、酷い言われよう。否定できないけど。

「俺に負けるの怖いんだ?確かにリーダーに及ばない俺に負けたら形無しだもんな?」

言った途端目の色が変わる。正直、この程度じゃ釣られないだろうという段階。日頃グリーンさんを相手にしているせいか、目の前の男が恐ろしく単純だったのか。
どちらにせよ、釣れたなら問題ない。
周りの観客が息を呑んだ。

「お前なんか一匹で十分だ。」

目の前の男が殺気を迸らせる。さすが、巨大組織を潰した少年、子供の覇気じゃない。

貸しひとつですからね、リーダー!

















負けるのは好きじゃない。
そりゃ誰だってそうだろうが。
しかし、今この展開で言えば、俺の作戦勝ちだ。

「あれ、グリーン!?」

レッド君が、声をあげたことで外野も気づいたようだ。
レッド君の宣言通りの結果になったのは酷く悔しいが、すでにここにグリーンさんはいない。確かに、グリーンさんの作戦は良かったが、グリーンさん自身が戦ってはレッド君が負ければ、グリーンさんは更なる称賛を受けることになり、負ければジムの名に傷がつく。なかなか捨て身な作戦だ。しかし、それほどまでに人払いをしてしたかった事だったのだろう、だから俺が代役を引き受けたのだ。気を引くから行ってきてくださいと。じゃなかったら誰がこんな捨て試合。

「謀ったな、お前!!!!」

「やだなぁ、謀ったのはリーダーだろ?俺は乗っただけだ。」

歯をギシギシと噛み締めているレッド君をみるのは愉快だ。そりゃあグリーンさんも突っ掛かりたくなる訳だな。

「何人たりともリーダーの邪魔は許しません。」

レッド君だけじゃない、観衆への宣戦布告。
リーダーはそう易々と近づいていい存在ではないのだ。だって、リーダーは、


「おーい、ヤスタカいくぞー!」

「はい、リーダー!」


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