「さっきよー、道端で女の子にさ、言われて?俺渡したのに、俺いうとさっさと逃げられたんだけど。」

リーダーがかなり不服そうに言っている。
当然、ハロウィンのお菓子の話だ。なんせ今日はハロウィン。何気にかわいいもの、甘いものと女子かと突っ込みたくなるようなご趣味のリーダーはハロウィンのお菓子が想像以上に収穫できないのをとても不服に感じているのだ。

しかし、リーダーがもらえないのは仕方ないのだ。
俺たち、トキワの精鋭、ジムトレーナーたちが散々目を光らせている挙句お姉さまにリーダーの体調管理を仰せつかったのだ。この時期はお菓子を渡そうとする輩に牙をむくごとく、町中でリーダーにお菓子を渡そうとするやつは許さないという会話を互いにしながら練り歩いた。ぶっちゃけ俺たちのリーダーなんだという独占欲も強い。が、おかげで効果があったようで。

「でもどうせお姉さまに貰うなと言われてるんでしょう?」

「そうだけど…いいじゃんばれなけりゃ。」

確かにそうだ。そういうことを口走った時点でお姉さまにお話はいくのだが。よし、仕方ない。

「リーダー、トリックオアトリート。」

「お前もかよ!!もうもってねーんだけど。」

おや、それは想像以上に要求はされたようだ。リーダーはかなり張り切っていたからなくなることはないと思っていたのに、これでは帰りはいたずらされ放題だろう。おそらく彼はもらえないことに不服を感じて気づいていないが。

「で、お前は?トリックオアトリート。」

もはやハロウィンの挨拶がおまけ状態だがまあいいだろう。
こちとら、本命がリーダーなのだ。気合は入るにきまってる。ジムに通うまでで既に何人かの女性に要求はされたが、手持ちのガムを小出しにしてやった。
そして、リーダーにはこれだ。

「えっうわ何そのホール!!」

途端にリーダーのテンションがうなぎのぼり。これは、俺の株価も上昇したのではないだろうか。これ見よがしに見せつけてやったのは俺特製のガトーショコラ。昨日一日丸つぶして作ってやったのだ。毒身も十分、というか毒見とは心外というレベルでうまいと思う。

「自信作です。どうぞ。」

紅茶も一緒に注ぎ、フォークを並べ、椅子を恭しくひいた。それはもう仰々しく、大げさに。しかし、リーダーはどうせ康孝と思っているのか違うのか…、とにかく気にしない。気づかない。そのまま俺に流されて席に着いた。
そしてさっさと口に含む。味は保障する、だがリーダーのお口に合うかが問題だった。しかし、心配をよそに入れた途端の破顔。ちくしょう、かわいすぎる。

「で、リーダーは?」

うれしそうに何度も口を運ぶリーダーに問いかけると、頭に疑問符をかなり浮かべられ、そのしぐさすら可愛いのだから困ったものだ。これが、あの猛獣だからな。試合中との差が激しすぎてギャップ萌えというものを不覚にも実感してしまった。

「リーダー、俺にお菓子くれませんでしたよね?いたずら、何か御所望でも?」

聞いた途端に、リーダーの動きが停止した。素晴らしい一時停止。静止画を見ている気分になる。そして、とっさに立ち上がり、逃げようとするのも計算済み。手首をつかみ、軽く捻ってからさっさと椅子に治らせる。

「ちょ、おま…何熱くなっちゃってんの〜?」

「俺は至って涼しいですよ?」

汗をだらだらと流すリーダーのほうがはたから見れば暑そうだ。冷や汗なのだろうけど。
いたずらの内容を聞いたものの、もう俺は決めていた。というか、おそらくジムトレ全員決めている。全員いたずら仕掛ける気満々なのだ。おそらく気合の入っていたリーダーだから午前にお菓子がなくなることはないと踏み、みんな帰り際を狙っているのだろう。しかし、そんな情報小手調べ得意の俺からすれば朝飯前、さっさときいてさっさと仕掛けてやった。なんせ、全員いたずらする気なのだから、後半になればなるほどリーダーが警戒して引っかかりづらくなる。

「そうですね、俺、本当はリーダーと食べたかったんですけど、そこまでおいしそうに食べられちゃ取り上げられないじゃないですか。だから、」

「えっウソだろ、っんぅ…!」

無理に上を向かせ、開いた口に舌をねじ込んだ。
リーダーの中は熱く、甘かった。当然だ。乱暴に舐ってやるとすがるように服をつかまれる。これは、クる。
もしかしたら、行っちゃいけない場所までいけるんじゃなかろうか。雰囲気で流してしまえばいいのだ。そう思い、リーダーの下肢へ手を伸ばした時だった。

カララ、

転がるような音とともに窓が開いた。
来たよ、赤い悪魔。ここで来るか。

「なーに、やってんのかな?間男。」

「あなたに間男とは言われたくないな。」

一瞬にして俺と悪魔の間で火花が散る。俺の前にいるリーダーは蕩けきった表情で事態にいまいちついていけないようだった。

「グリーン、」

「ふぁ?」

俺をにらんだまま悪魔がリーダーを読んだ。それにすっ呆けた声で反応するリーダー。あ、これは、

「トリックオアトリート!!えっグリーンお菓子持ってないの?仕方ないなあじゃあイタズラしちゃうしかないなあじゃあちょっと付き合ってもらうかな。」

リーダー目の前のケーキ差し出して!とすらいう間もなく畳みかけた悪魔にリーダーは反応しきれないうちに肩に担がれ窓の外に出られる。咄嗟に追おうとすれば、既に上品で強烈な橙の色をした巨体が舞い上がりだしていた。

「えっちょ…おいレッド!!!」

今更じたばた暴れるリーダーに、もう俺は為す術がなかった。

遠い空の向こう、リーダーの叫び声が小さく聞こえた。

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