2013/01/02 00:03

「よー、シルバー。ボンジュール!!」

「ゴールドじゃないか。トキワのマネか。」

「そげんごつなかよ!」

「野生児か今度は。」

「いやー、新しく出来る繋がりば大事にしてみようか思って話ばしてきたべ!」

「少しシンオウ混ざってるぞ」

「こまかか事は気にせんと!」

「それよかゴールド、今から家に来るか?」

「あん?」

「コタツとみかんが今年は、ある。」

「おー、いいな!」

「アイスも買うか」

「やっぱコタツにゃみかんとアイスだよなー」


02/05 01:56



いつも、ルーティンワークを繰り返すだけ。売られるタイミングにもよるが、大体売られた次の日には牢で姿勢良く小綺麗に座って出品されれば、その日のうちに売れる。けれど、無感動な俺にご主人様は大体一週間で飽きまた売られる。この繰り返しだった。
いつも、目まぐるしく変わるご主人様とその人間関係を覚えるのに必死で。もう、自分がどのようにして売られたのかも解らなかった。忘れてしまった。
牢の横でいかにも、豪華な身なりをした男が奴隷市場主人と話してる。きっとあの男が次のご主人様になるんだろう。

「ッ、グリーン!?」

目の前を行き交う人混みの喧騒から突如、叫ぶような声がした。俺の名前だ。本名かは解らないけど。
目の前の柵を勢いよく掴む腕、
人混みから飛び出してきたのは、記憶の中、微かに残る人物だった。

けれど、名前が思い出せなかった。

なんだっけ、俺の名前に近くって、でも正反対の。そもそも自分の本当の名前、グリーンでいいのか。
そうこうしてる内に彼はまた人混みに押し流されそうになっていく。隙間から、彼が手を伸ばす。咄嗟にとろうと手を伸ばした。
立ち上がり、柵に寄ろうとし、繋がれた首輪に息が詰まった。
手はすり抜け、彼は人混みに消えた。


02/08 23:17


マサラが同時期に築いた
2つの栄光

それは弱冠11歳の歴代最年少の地方チャンピオンを2人選出したことだ。
故にトレーナーのメッカとしてこの地は畏敬を払われ、リーグ前にトキワに滞在しているトレーナーが御利益をと無い神社に参拝にも訪れた。
しかし、マサラを神聖な場とさせた「天才」は悲願を達成する事はなかった。

「天才」の二人して、
どちらも、


願いを叶えることはかなわなかった。



オーキド・グリーンは考える。
自分には何が足りないのか、何が不足しているのか。
彼は、七光りだと言われる境遇にしても、皮肉も嫌みもはね除け彼自身の称賛をてにいれ、栄光も手に入れた。
しかし、トレーナー最高の誉、「チャンピオン」の称号を得、万衆から讃えられても、彼は満足し得なかった。そんなものに彼は価値を見出だせないのだ。
彼に有ったのは、友人との闘いと祖父の存在だった。それが大体を占めていた。

祖父からただ一言、「頑張ったな」と言って貰えれば彼の栄光は報われ風化しなかった。
だが彼の栄光は一瞬で「史上最短のチャンピオン」へと姿形をかえ、友人を「史上最強のチャンピオン」へと昇華させた。
結局、祖父からの称賛を一身に受けるのは友人であり、俺ではない。少年は小さなその身を以て実感する。

そして彼は友人を故郷で賞賛した。
好敵手として扱う以前に、友人はやはり友人だったのだ。

故に、彼は賞賛した。
あの日、あの時感じた自身の情など無かったように。

心のどこにも波風等立たなかったように。

友人の情になど何も気付かなかったかのように。

彼は心をそっと閉じた。



友人は絶望する。
彼の平然とした様子に、あの日自身の彼に対する覚悟を悟ってくれたと確信したのに、彼は何事も無かったかのように振る舞うのだ。
暗に伝えられるような、彼の対応に憤り、質した。
そして、絶望したのだ。
彼は、常と同じ態度だったのだ。称号が彼を変えないのは解っていた。だが、あの日は確かに彼にとっても大きな転機となったはずなのに。

彼は、
何も、
変わらない。

あの日と同じように、
以前と同じように、
彼は何も変わらずに接した。

そして、あの時の話を持ち出す度に僅かに翳る彼の表情に確信する。
彼は心を塞いだ。

自身は何をしていた、
叱責しむしゃくしゃする心と均衡をとるように体を動かした。
気付いてしまった途端、全ての賞賛も声も心の動きも煩わしくなり人を避けた。
深い山へ洞窟へ、
そして、拓けた視界に、けれど猛吹雪のせいで一向に見渡せない世界を見て気付いた。
ああ、こんなものなのかと。
世界なんて開けているように見えて結局見渡せるものなど無いのだ。
この空間にいたらまざまざと思い知らされる。だから、
だからこそ留まった。
あの日から、彼の心が解らなくなった。
あの日から、彼は心に蓋をした。
「あの日」を忘れさせない空間に俺は答えを出すまで留まろう。

彼の心を開かせられるように。


---

「ケンタロス戦闘不能、よってグリーン氏の勝利!」

「次。」

まさに瞬殺、我らがリーダーはかなり機嫌が悪いようだ。いきなり古参ピジョットを繰り出したかと思えば鬼気迫る表情で問答無用で戦闘不能にされた。
まるで公開処刑だ。
ヤスタカは内心でそっと呟く。
せっかくジムトレになれたのにこんな負け惜しみで破門なんて洒落にならん。
しかし、同僚も同じように感じたらしい。次と言われて進み出るものはいない。再びリーダーに苛つきが募り出す。組んだ腕を指でトントンと叩き出した。

「お手合わせお願いします。」

見かねたらしいヨシノリが仕方無いとばかりに立ち上がった。指を叩くのは止んだが、睨み付けるような瞳は治らない。無感動な瞳は最早狂気に近い。彼は満足いかないのだ。
恐らく、祖父の前でほんの一寸、完璧な彼を演じ損ねたのだろう。よく知らぬ者ならそれだけかと驚愕するレベルだ。
しかし、リーダーからすればコレはかなり重大。
彼はそれで祖父が自分から遠退くと錯覚している。だからこそ、焦り、自身に苛つくのだ。

バトルで発散出来るものでもないだろうに。

「次。」

執行人が無慈悲に次の処刑を勧告する。今度はアキエが間を置かずに名乗り出た。

依然、ピジョットの毛並みは整ったまま。


---

「今日のリーダー、凶悪ね。」

声を潜める女性達は原因が知りたいようだ。

「博士の前でしくじったんじゃねえの。」

だから横槍ながら教えてやったのだが、アキエが慌てて勢いよく顔面を掴んでくる。
アキエの手の隙間から、事務室へ去る際に勢いよく睨んできたリーダーと視線がかち合う。どうやら正解だったようだ。
リーダーは極めて冷静だった。
そして容赦がなかった。
きっと持ち帰った事務作業に嫌気がさし溜め息をついたところを祖父に見られた等、そんな程度だろう。そんな程度が、彼を苛める。

「お願いだから空気読んでよヤスタカ!」

同期のアキエは寿命が縮まったと言いたげな表情だ。

「カマかけたんだよ。今のリーダーなら絶対に感情を隠し通せないから。」

少し呆れたようにアキエは溜め息をつく。サヨは興味津々なようで好奇な目を寄せている。それもそうだ。普段可愛いげのない少年がこれでもかと言うほどの傍若無人、ワガママを発揮しているのだから普段から構いたがっているサヨからすれば興味が沸かないわけがない。
俺の位置からは、色んな光景が見える人間が見える。
だから、わかるのだ。

「で?」

結果は?


02/20 00:59断片

「うわっ、……ととと、」

あぶねぇ、
そう言いながらグリーンは何もない空間を迂回する。
アリアドスの巣だ。
頑丈な糸で一度くっつけば中々逃げるのは難しい。しかし、そのぶん見つけるのは容易だ。あの図体を支えるほどの糸だ、見えない細さだと支えきれないためわりかし太いのである。
といっても注視しなければ今みたいに気付かない。

今度から気を付けねば、
考えていると背中を引っ張られる感覚。
振り替えるが何もない。しかし引っ張られる感覚は残っている。
これは、

まずい。


「キシシッ」

まるで俺を笑っているかのような鳴き声をあげ、近くの木から一匹のクモが現れた。


「っの、くっそぉおお……」

必死に離れようとするが、更に糸を絡められ、抵抗も虚しく感じてくる。
俺は糸にかかってしまったのだ。
アリアドスじゃない。イトマルの糸に。
しかも厄介なことに咄嗟にボールに手を伸ばしたら、あいつらは目敏いのか、ボールに糸をはきやがった。おかげで粘着質な糸にまみれてボールに触れない。
そして更に仲間を呼ばれ、今まさに蜘蛛の巣に引きずり込まれようとしている。
イトマルは本来なら人間の肉は食べない。
じゃあ何が問題って、さっきから視界を徘徊しているイトマルの量だ。それが恐怖要因なのだ。多い。異常に、多い。



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