2012/08/31 03:40

「ボンジュー、レッド!」

昔よりも遥かに発音も綺麗になったフランス語と、聞き馴染みのある声に振り返った。我が幼馴染みグリーンだと解ったからである。そうでなければ誰がこんな妖しい挨拶に………

「なんで、え、なんで、血まみれなの?」

頭からダクダクと、服も切れ至る箇所を赤く染めている恋人が立っていた。なぜ赤い。お前はグリーンだろう、なぜ赤い。
痛いのかと思いきや平然とポーズを決めていて、訳がわからず黙り込むしかなかった。

「いやー、さっき急いでたら車にはねられちまってよ、近場でもポケモンにのりゃ良かったってちょっと後悔したわ、そうそうお前も行ってみろよなかなか出来上がった現場だから。あ、でさ俺運転手に何も言わずにきちまったからお前ついでに事情説明しといてくんねぇ?あと居眠りよくねぇって、まあ運転手車から降りてたし多分さっきのことだからまだいるよ、あ、オレ急いでんだった、じゃーな、レッド。愛してるぜ、バイビー!」

グリーンのマシンガントークに呆然と聞き入っていると睦言を呟いて通りすぎ様に頬に口付けしていった。そしていつも通り颯爽とグリーンは消えてしまう。
恥ずかしがりやのグリーンからの口付けは嬉しくって、彼のワガママを聞いてやるためにオレはグリーンが来たであろう方向へ踵を返した。



「なんだよ、コレ」

そんな言葉すら出ない。
そこには血塗れのグリーンが横たわっていた。
何が、出来上がった現場だから、だ。
車は中型トラックで、あろうことか歩道に乗り上げていた。運転手であろう男はその場にへたりこんでいる。

何が、急いでる、だ。






会う約束をしてたのはオレじゃないか。


10/13 08:14

ある日発生した俺は個体が弱かった。
俺の一族は黒髪の系統なのだが、若いバンパイアのくせしてオレンジのような金の髪の毛に蜂蜜のような瞳。人間との子として生まれてしまった弱い弱いバンパイア。

それが俺だった。

しかし、センスは悪くなかったらしく大人は純血だったらと憐れみ、同世代には妬みバカにされた。もちろん、センスが良くとも虚弱で、他の同世代にいつも敵わなかった。

朝は苦手だが起きれないことはない。だが、人間の学校へ通っているが基本的には蒼白な顔色になっているらしい。確かに月一程度にはぶっ倒れて保健室行きだ。だから外で遊ぶなんて論外で、人間からだって浮いていた。

それなのに現存バンパイアの中で最強と謳われ、生き続けているレッド。
彼は血の強さを表すような見事な黒髪で、黒雲母のような瞳をしていた。
彼は何故か俺に執着する。
夕方、昼の力が弱まるときにいつも学校まで迎えに来るレッド。しかし、俺はコイツが嫌いだった。ハーフとはいえ同族の血をのみ自身の下僕にし、傷をいたぶるように劣等感のある事ばかり俺に言ってくる。
俺が人間から生まれたのか、人間から成ったのか、もう記憶は無いがレッドは気付いたときにはそこにいた。そして気付いたときには血を吸われていた。

「ああ、ぼくの可愛い可愛い弱いグリーン、今日もいじめられたの?」

上からぶっかけられた水もそのままに、黄昏に染まる廊下をびしょ濡れで歩いていると、夕闇から声が聞こえた。
レッドだ。

「煩い、」

「そうやって自分で人を遠ざけて周りからも疎まれて浮いちゃって、寂しがり屋なのに独りぼっちのグリーン、」

「……」

「ああ可愛い!ぼくのグリーン。さあ、城に帰ろう!」

いやだ、帰りたくない。お前の城になんか居たくない。
そう思っても俺がレッドに逆らうことは許されなかった。
ああ、それにしたって眠いや。

混濁する意識に全てを投げ出した。


10/30 16:28

グラスに注いだ真っ赤に濁ったワインを酌み交わす。
片手間にアイツの脇腹、鉄パイプをぶっ刺した。

「おっと悪いな、許せよ?なんてったって…」

今日は無礼講だ!

楽しそうに合わせてきたアイツの声に視線を辿れば、俺には刺した方の逆の部分が刺さっていて、かっこがつかない自分の滑稽に笑った。

抜いて、目の前の男のてをとり跪く。

「今宵は俺と、ダンスなんていかがでしょう。」

目の前の男はちぐはぐな言葉を吐いた。ちぐはぐに紡いで俺も返す。
この世界でなら、許される。
この世界でなら、赦される。

さあ、今宵は共にダンスを踊りましょう。
なんたって今日は無礼講!




今日というめでたい日を


11/30 01:13

「グリーン、す」「言うな」

「…は?なんで。」

「言葉の安売りだ。価値がなくなってく。」

「ごめん、意味が解らない。もうちょっと分かりやすく。」

「…言われても嬉しく感じなくなるのがやなんだよ…。あと、お前が言わなくなった時を考えたくない。」

ほう、つまり、
「愛されなくなったと感じるのが怖いと。」

だね?グリーン。確認すれば、苦虫を噛み潰したような表情でそっぽを向くグリーン。
今のは、正直普通の睦言なんか比べ物にならないぞ。

「ありがとう、嬉しいよ。」

「言いたくなかったのに…理解しやがって」

ぼそりと呟いた言葉は肯定と受け取るよ。



12/05 01:20




第一志望校には落ちた。
それでも一応は滑り止めは合格したし、名門校だ。
周りからすれば十二分に順風満帆な人生に見えることだろう。
しかし、人の不幸だ幸福かだなんて、他人が勝手に物差しで判断できるものじゃない。ならば、自分の物差しで図ったらどうだ。そしたら俺は、

確実に不幸だ。


大学に入ればルーズな生活が許されるなんて高校生の幻想で、入りたてからそんな気分で行った奴はことごとく前期で必修単位を落としている。
俺は、第一志望校に落ちた手前、そんな余裕をかませる立場ではないし、心持ちもそうではない。こんなところにいては、偉大な祖父には認めて貰えない。実際、祖父は落胆していた。だから、俺は焦ったのだ。焦った分、勉強もしたから成績は可もなく不可もなく、優秀だ。

だが、成績が良かったら幸福になれるのか。

答えは否、優秀な成績でも、幸福になれるとは限らない。しかし、俺の場合優秀でなかったら、幸福の道は閉ざされる。
俺の幸福は、祖父に認められてこそだからだ。
いくら勉強を頑張っても、「あの博士の孫」といわれ、出来る理由をつけられた。ならば、当の博士はそんな孫を自慢するのかと思えばそうでもない。いつまでも、博士自身からは、祖父自身からは、「流石私の孫」とは言って貰えなかった。そのせいか気付けば、俺は祖父に認められることが目的になっていた。今さら、コンコルド効果だなんて知ったことじゃない。

だから、だからだから、
俺の幸福は、祖父に認められてから始まる。

「オーキド、終わったら私の研究室に来るように。」

その為には、
これも、仕方ない。

隣の友人が「いいな、オーキドは気に入られてて、」なんて茶化してくるが、変われるならこの位置を変わってやりたい。
チャイムがなり、講義が終了する。次のコマに俺は講義を入れてない。命令、されたから。
教授の後をついていく。一定の距離は最低でもおきながら、

研究室に入った。

鍵を閉める音がする。日は暮れだしているが灯りはつけない、薄暗いまま。後ろから、教授の腕が延びてきた。顎を掬われ、首を濡れた気色悪い熱さのものが這いずっていく。舌だ。
もう片方の手は、俺の服に潜り込みまさぐりはじめる。触られた箇所から鳥肌がたっていく。身の毛が弥立つ、とはこのことなんだろう。
しかし、拒絶は出来ない。
前期の成績評価提出の日に初めて呼び出されたのだ。
その時、目の前で俺は画面で優秀で良い筈のところをF、つまりは不可と入力され、Sが欲しいなら抵抗するなと言われたのだ。その時拒絶して、カウンセラー室にでも駆け込めば良かったのに、残り時間も僅かだと告げられ、混乱する俺は行為に従順な姿勢をとってしまった。
おかげで、提出期限ギリギリに目の前でSに変えられて提出されたのは見たし、当然成績発表でもそのままだったのだが、彼が必修単位をいくらか握ってる挙げ句、大学で結構な権威を持っているのが問題だった。

「成績が欲しいなら言うことをきけ、」

典型的なアカデミックハラスメント、アカハラと言われるものだ。だが、前期で既に俺は体を売ってるような事で実際、全うな成績にされた。だから、俺から売ったなどと言われたり、権利で揉み消されたりなどで俺は濡れ衣は着せられたくなかった。その可能性を混乱していたとはいえ、作ってしまった自分が心底憎い。

そして、騒ぎを起こして祖父に軽蔑されたくなかった。

だから、俺はこの薄汚い大人の従順な玩具になるのだ。





12/08 01:47 アカハラグリーンの続き

「先生、俺の弱み知ってるんですよね?」

退院してから、また呼び出された時に先生に聞いた。先生は不審な顔をする。そりゃそうか、だって普段は自分のペースなのに、今は俺のペースだから。

「先生の予想通り、俺は祖父コンプレックスです。」

先生に一歩、また一歩、近付いていく。
先生は眉を潜める。
ワイシャツの上のボタンを一個だけ外した。そして腕を伸ばし、先生の首に回す。

「いいですよ、しても。今までの先のこと。」

自分なりに、誘うように、挑戦的に。



ただし、他の講義でも俺の成績良くなるようにうまくお願いしますね。



深夜、というには幾分か早い時間、閑散としたキャンパスを歩いていた。
その時、柵を触った拍子にふと決意した。
ああ、死のう。
前から考えていた。小さい頃からずっと努力しているのに、一向に報われない。こんな努力、疲れてしまった。
だから、俺は、手摺を離し、そのまま下へ落下したのに、

早朝、警備員すら気付かなかった俺を見つけたのは、俺と同じ学年の女子らしい。頭から血を流して、雨に任せて地面を赤く汚している俺を今でも夢に見るそうだ、可哀想に。
そうして何故か生きてしまった俺もカワイソウ。
もう、終わろうと決意して柵を越えたのに不様に生きてしまって、意識が戻ったから死に直そうとするのに、周りに何度も阻止され、遂には部屋を移し隔離され、ベッドにくくりつけられてしまった。
そして手段を奪われ死にぞこなった俺は持て余した時間で考えた。生殺与奪を握ってるのはどうやら自身ではないらしい、死ぬことは許されないようだ、なら、どうやってこの馬鹿馬鹿しい世界を生き延びるか、
そして、気付いた。

祖父を落胆させたくないのはどうしようもない。なら、落胆させなければいい。要は影でうまくやってしまえばいいんだ。隠せばいい。
もちろん、バレてはいけないから、ちゃんと優秀な成績をとる努力はするけど、あとは先生に頼っちゃえば、完璧な成績なんてとれるわけで。本当、あの先生に気に入られて良かった!

ああ、可笑しい!

こんな事に悩んでいたなんて!
体を売るだけでいい成績がついてくるなんてお得すぎて、真面目に勉強してる奴らが可哀想に見えてくる。考えただけで腹を抱えて笑い転げたくなる。込み上げてくる笑いを押さえるのに必死だ。

「お前、笑うようになったよな」

クラスが一緒だったけれど、話したことはなかった奴と最近つるむようになった。そうして言われた言葉だ。
だって、体なんて道具を好きにさせるだけで成績が約束されたようなもんなんだぜ?うまい話で笑えるだろ?まあ、俺の特権だし秘密にしとかないとだから言わないけど。

今までの友人は「オカシクなった。」って離れてったけど。





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