スカトロ




「グリーンゴメンね、今日は家を空けなくてはいけないの。留守番お願いできるかしら…?」

 姉が申し訳なさそうに話し掛けてきた。二日連続の休みをもぎ取り家に帰ってこられるようになったが、どうやら姉は都合が良くなかったらしい。仕方がないと、了承した。姉だって俺が旅に出てからは有名であった方面からの依頼を再び受けるようになった。家で待っていないと行けない子供がいなくなったのだ。当然の流れである。
 若干の寂しさを覚えつつも、玄関まで姉を見送る。

「ゴメンね、今日は夕方まで帰ってこれそうにないの。その代わり、お夕飯は楽しみにしておいて。」

 そう言って姉は家を後にした。その姿を見送り、姉が玄関の鍵を閉めた所で首の後ろに腕を回し伸びをする。振り返った久々の実家は広かった。
 さて、どうしたものか。
姉に聞きたいこともあったのだが、生憎家には自分以外誰もいなくなってしまった。雑誌なんて全ての冊子の端に手垢が着いていることだろう。
 掃除だってしようにも姉が普段から片付けているものだから当然のごとく綺麗だ。埃なんて俺の部屋の本棚とベッド下から位しか出ないのではないだろうか。仕方ない、自室の整理でもしよう。グリーンは思い立ち、階段を登っていった。
 さて、元から要らないものを部屋に留めることを好まないグリーンである。私室の整理などやはりする事もなくベッドで微睡んでいた。
 やっと、意識も深い海の底に落ちると安堵した時、階下から何やら不穏な音がした。ガラス質の物が床に叩きつけられ散らばる音だ。イーブイだろうか、確か窓は開けていなかった為十中八九そうだろう。
 姉ちゃんのお気に入りの花瓶を倒していたらどうしようか、確実に怒られるのは俺だ。それは非常に好ましくない。仕方ない。
グリーンは心地好い眠りに落ちようとしていた体を叩き起こし、覚めきらぬまま階段を降りていった。

 階段を降りている間に気付いたことだが、姉はイーブイをボールに入れていた筈だ。イーブイの躾を姉が怠る筈もないから、勝手に出てくるなんて事はない。ならば、なんの音だったのだろうか。階段を降りきり、リビングに入ろうとした時だ。
 扉が勝手に開いた。
 正確には扉を開けた人物が居るのだが、それは薄汚い見知らぬ男だった。男を視界に入れると同時、男の肩越しに割れた勝手口の窓が見えた。解りやすいことに、つまり男は空き巣であった。咄嗟にボールに手をかける。
 視界の端を何かが掠めた。

 何が起きたか解らなかった。鈍い衝撃が頭に走り、気付けば自分の体は床を転がっていた。手をかけたボールも床を転がって手の届かないところに落ちていた。急いで体を起こそうとしたが、頭がぐらつきうまくいかない。四つん這いになり奮闘していると更に腹を蹴られ、無様に床を滑る。うつ伏せになった状態で床に転がっていると、男がグリーンに跨がり思い切り髪を鷲掴み持ち上げた。掴まれた頭を振られ、壁に叩きつけられる。あ、だめだ。力入らない。

「大人しくしてろ、さもないと…。」

 首に宛がわれた冷たい感触の物が、首の皮を一枚断った。無意識の内に上ずった情けの無い声が息と共に喉を滑った。



「なんだよ、金品あんまり無いじゃねーか。研究者って大したことねーな。」

 居直り強盗は、グリーンを引き摺りリビングテーブルの足に腕を留めたあと、それはもう好き勝手に部屋を物色してまわっている。ようやく目眩が落ち着いたグリーンは、なんとか拘束を逃れようと密かに奮闘していた。男は大したこと無いと言ったが、気付いていないだけで書斎の机上にある書類は研究資料で、捌く場所を間違えなければ一千万は出す人間がいるだろう代物だ。そうでなくとも男がかき集めた金品は既に合計百万をゆうに超える品の数々。宝石のついた時計などには我が家の誰もが執着などしていないが、こんな下劣な男に「はい、そうですか。」と明け渡すのは我慢ならない。なんとか、気付かれる前に……。
 焦りが表に出ていたのか男が振り向いた。視線もしっかりと交わってしまい、誤魔化しが効かない。

「そういやお前、カントー最強なんだろ?ポケモンで。」

 無造作に近付いてきた男に顎を掴まれる。頭上で腕を拘束されている状態ではうまく力が入らない。その上、顔を動かしづらいため払い除けることも出来ない。顔をまじまじと観察され不快だった。しかし、あからさまな挑発は出来ない。先ほど切られた箇所がいくら浅くとも空気が染みジリジリと脅すように主張していた。本気で刺されかねないという恐怖が奥底で燻る。

「こんな無抵抗でしかいられない弱い餓鬼が最強ねぇ…。」

 いぶかしむ様に覗き込まれるのが不愉快だった。不快に眉を潜め、そっぽを向く。その様子を強盗は笑った。

「ビビって抵抗も出来てねぇ癖に気取ってんじゃねーよ。」

 俺を完全に支配下に置いたと思っているらしい。下品な笑い声をあげる。確かに誰だって、無抵抗になっている人間を恐れたりしない。
 しかし、いずれは姉が帰ってくる。そうすれば俺は解放される。コイツの顔は覚えた。油断出来るのも今だけだ。逃げても絶対捕まえてやる。確固たる意志の元で睨み付けてやると男は舌なめずりをした。男の所作は気持ち悪さで構成されておりさぶいぼが出る。

「お前みたいな奴、嬲り甲斐あるよな。」

「は?」

 男は言い終わるが早いか、俺に跨がり俺のベルトをカチャカチャとならしだす。

「追われたら敵わねぇ。そう思わないように教育してやる。」

 楽しそうに、しかし目線は俺のジッパーに向いたまま言われる。

「はっ?なっ、オイ!ちょ…、」

 男なのだから、男がそういう行動をすれば、何をしようとしているのか解らない訳がない。裸に剥かれるだけならまだ耐えようがあるが、男の気配からそれだけで終わるわけがないと理解せざるを得ない。だからこそ焦った。
 しかし、足に乗られた状態ではあまりにも抵抗は虚しく履いていたものを纏めてずり下げられる。秘部を露にされ、羞恥よりも碌な抵抗が出来ない屈辱が大きい。しかし、自身の自由を制限される屈辱も直後、性器を男にいきなり握られる事により吹き飛んだ。

「いっ…!?うわ、やめっぁ…」

 確実に辱しめようと動く掌が気持ち悪い。まさぐられた場所からざわついていく。
 この場だけは極力大人しくしておこうと思っていたグリーンだったが耐えられなかった。男の乗っている足をバタつかせ体を捩る。

「折角気持ちよくしてやろうとしてんだっ、大人しくしやがれっ!」

「っ誰が…!!」

 強盗が舌打ちする。そして、グリーンの上から立ち退いて、何かを探しにいった。咄嗟に床を這いずってしゃがむような体勢をとる。暴れたお陰でしゃがめる程度には緩んだようだ。机の下に潜り込むような形になり、頭を屈める体勢はきついが、先程よりも拘束を外しにかかりやすい。よしっ、なんとか外せそ…

「っ…!!!?」

 拘束をほどくのに夢中になるあまり、男が戻ってきたのに気付くのが遅れた。片足を掴まれ、体勢を引き摺り戻される。
そして、世界がゆっくり動いた。鈍い、金属が、刃物が…───

「ぁぁあああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」

体が跳ね、痛みに叫ぶ。
熱い、熱い。
視界が勢いよく揺れ、顔を殴られたことに気づく。しかし、そんな些細なことどうでも良かった。
声が出ない、呼吸の仕方が解らない。
ブツリとどこかが切れる感覚がし、体が揺すられる。その度に腹を抉る熱が痛覚を刺激してくる。何かが溢れてくる、熱い液体だ、体も熱い。

ぼやける視界で、男が下半身をさらけ出し自身と繋がってるのを見た。おぞましい。
今すぐ男を殺してしまいたい。
しかし、体は意思とは裏腹に脱力し、動かない。痛みに耐えることに必死だった。
自分が浅く呼吸を繰り返しているのを壁一枚挟んだような感覚で認識していた。

「気持ち良さそうだな」

男は何を勘違いしたのか、痛みに耐えようと力み、結果締め付けているだけのグリーンをよがっていると判断した。
おもむろに手を伸ばした先は、グリーンの生殖器であった。触った瞬間にグリーンは肩が大袈裟に跳ねるが、抵抗はしない。ずっと首を仰け反らし、荒い呼吸を繰り返している。口から血を溢し、足をばたつかせ痛みをまぎらわそうとしては力を入れきれずに失敗している。
男は既にグリーンの腸内に射精し満足したのか、律動をやめグリーンの生殖器で玩ぶ事に集中していた。
グリーンの内腿が痙攣するように跳ねた。それは断続的になり、次第に間隔を短くしていく。生殖器は命の危機を感じたのか本能かしっかりと反応していた。
小さく、グリーンは掠れた呼吸音を繰り返すのみで喘ぐ余裕なんかある筈もなく、その為男が楽しげにする意味が解らなかった。

「ぃ゛あ゛ぁ…っ!」

もう呼吸の仕方も解らず、首を振って必死に意思を伝えるが、男は手を止めない。
迫り来る射精欲に抗えず、グリーンは強盗の手により吐精した。男がバカ笑いしつつ、手を緩めて漸く思い切り息を吸う。グリーンの荒い呼吸音が部屋に響く。
さっきまで不愉快に響いていた男の笑い声はいつの間にかやんでいた。それに気付かないままグリーンは必死に呼吸していた。

「!?」

「ほら、キモチイイんだろ?」

男が再びグリーンの性器を扱き始めた。再びグリーンの息が詰まる。
まだほとぼりの収まりきらぬままであったグリーンの体は大袈裟に反応する。男は満足そうに下卑た笑みを浮かべ、手の動きを速めた。
体の中で熱が暴走し、血が溢れる。しかし、血が幾ら溢れても熱の暴走は収まらない。底から徐々に何かが駆け昇ってくる感覚に身震いする。グリーンは必死に助けを呼ぶ。誰か、誰か、助けて。レッド…!

しかし、その声は言葉となって出ていくことはなかったが。

グリーンは、自身から掠れた呼吸音しか漏れていないことに気付かないまま助けを呼び続ける。

底から昇ってきた感覚が脳天にまで届く。
頭の中が一瞬真っ白になった。ビクンと何度も体が跳ねる。
しかし、男の手は止まらない。

快感と言われるソレはグリーンに苦痛しか生まなかった。

真っ白な閃光の中、暴れのたうち回る欲は次第に別の欲すら掻き乱し狂わせ始める。
痙攣する体に必死に力を入れ、力んだことでまた新たに体内に傷を作り血を傷口が溢れさせるのにも構わず力を入れ耐えた。
ジンジンと熱を持つソコはしかし吐き出そうとする。グリーンは、また力を入れ耐える。
次第に力を入れているのか入れていないのかすら混濁してしまい解らなくなったとき、限界は訪れた。

チョロチョロと音を立て、性器を伝っていく透明な黄色い液体。
耐えていた甲斐虚しく、下肢と床を汚していく。

ああ、なんだか目蓋が重い。





男が遠くで笑っていた。




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