毒(バレンタインネタ)




リーダーって律儀ですよね


 それは、我が小手調べことヤスタカがいつかグリーンに言ったことだ。
チョコの量に辟易する。
 宅配業者がまとめて持ってきたものは、自宅宛のものまであった。と、いうのも最早恒例だからだ。今年に至っては前日に業者から「この時間帯どちらにいます?そちらに纏めて持っていっていいですか?」と確認の電話まで入る始末だった。

 去年より増えた気がする。
最早台車を使ってすら複数回に分けて室内へと搬入される包みを見て思う。コレの大半がチョコと言うのだから絶句するのだ。中には、明らかにチョコではない居住区の特産物らしい可愛いげの欠片も無いようなのも混じっているが、そんなものの方が有り難いと感じる量。
 年々増えていくそれの対処に困る。正直、ジムトレーナーに分けてしまいたいのが本音だが、流石に手作りや高級品が多い中失礼な気がするし、だからといって市販の物はじゃあ譲渡するのかと聞かれれば否。差別化を図ることこそ失礼だ。
 だから今日と言う日の翌日には、先ずは全部の包装を開き手紙を読みつつ家族で食える物、早く食わないと危なくなるもの、長くもつ物に分別する何とも無機質な作業をすることになる。ココに流石にジムトレーナーを動員させるわけにはいかないが、今年はそうも言ってられない気がしてきた。
だからと言って、今日からしては更に来るであろう、手渡し組の奴らの分でまた増える山に辟易するであろうからしたくはない。

「以上ですね、いやぁ凄まじいモテ方してますね。」

「半分くらいは挨拶みたいなもんですけどね。」

 書き終えた大量の伝票を手渡すと確認したのをまた分裂させる作業に終われる業者に、ああこの人に恨まれてそうだなと思った。

「来年から受け取り無くすか…。」

「それは売り上げがとっても落ちるので勘弁してください。」

 みんながココの配達嫌がったお陰で引き受けた俺の給料もあがったんですよ。なんて笑いながら却下される。ふむ、恨まれてはいない様だ。疲れたように自分の肩を叩きながら去っていく宅配の兄さんを見送りながらぼんやりと考えを巡らす。
 イッシュにいったせいか、単に知名度があがっただけか。
とにかく、チョコの量が尋常でない。
何日で食べきれるかな、なんて考えながら自身もジムの中へと引き返した。









「で、お前ジムはどうした。小手調べしなくていいの?」

「来たらジム前のおっさんが話し掛けて時間稼いでくれます。」

 そういって男は譲らない。
翌日、結局手渡し勢は大量にいたためコトネやヒビキが持ってきた分には申し訳無いが一緒にその場で食べて貰った。いいだろ、紅茶出したし、ガトーショコラ1ホールだったんだし、ケーキだったんだし。
 他の奴等のは宅配のと一緒に仕分けている。中には毎年恒例のように持ってくる奴もいていい加減名前を覚えた方が良いのかもしれない。ただし、その場で名乗って貰わないと手紙に連絡先だけじゃ一致しないが。貰ったら内容確認前に他のと一緒になってしまうから、顔だけ解る奴や名前だけ解るやつばかりだ。

「うわっこの子去年も連絡先書いてた。」

 お礼も返さなくていいですからね!なんてヤスタカが騒ぎ立てる。
まあ、変に勘違いされては困るからこの行事に関しては連絡は一切しないようにしてはいるが、

「なんでお前が必死になるんだよ。」

「俺らの大事なリーダーだからです!」

 間髪入れずに返される。
呆れつつも何故かいるコイツのお陰で作業が進んでいるのも確かなので今は黙っておいてやろう。
何も返さない俺を良いことにヤスタカが再び口を開く。

「またあんま持たない奴だ。もうこれ俺も食べきるの手伝いましょうか。」

「くれた奴に悪いからそれはしねー。」

「出たよリーダーの変な律儀癖。」

変って何だよ。
ただの律儀ならジムに来た相手にこそ律儀に向かうでしょ普通抜け出さない。
うるせぇ。

「あ、挑戦者。」

 ヤスタカがモニターに目を向けつられて見る。

「お前のなれない戦法使って無様に負ける様拝んでやる!」

 慌てて立ち上がるヤスタカを追うように、俺も立ち上がった。




 結果は、バカにされたのが不服だったのかトキワジムの基本である戦法重視でなく、本来ヤスタカが得意とする攻撃特化のスタイルでいったヤスタカの圧勝だった。コレには俺が不服である。

「ざまあみろリーダー」

「ジムのスタイルで勝ってから言えよ。」

 そりゃあ、トリックルームを推奨する戦法は俺が考えトレーナーに推してるのだから、無視されて心地良い訳がない。
 オドシシを後者にし、ケンタロスの力押しで弱らせ、焦ってダメージを与えようと解りやすく攻撃体制に入ったところで先取りして倒す。この自滅かのような敗戦はとてもトレーナーのプライドを抉るだろう。こんな意地の悪い戦法、誰を真似たんだか。

「じゃあそのまんま頑張れよヤスタカ君。」

「拗ねないで下さいよリーダー!」

 破門してやるから精々自分のプレイスタイルを貫き通せばという意思は見事相手に伝わったらしい。慌てた男に満足する。
そして今、俺に立ちはだかる強敵を再認識した。

そう、チョコだ。

なんとも可愛らしく、そして凶悪な敵である。


 部屋に戻れば、開きかけのチョコがだらしなくちょこんと置いてある。しかし、改めて見遣れば数は残りもだいぶ少ない。部屋を出たときにはキリの無いように思えていた量もなんとも可愛い量だ。
ヤスタカの不愉快なバトルも丁度良い息抜きになった訳か。

「あれ、こんなに少なかったっけ。」

 ヤスタカも同じように感じたのだろう。独り言をもらす。

「少ないのに越した事ないって。後は一人で出来るから、お前は絶対俺が出ないでいいようにしろ。」

 言えば了解とヤスタカは短く返事し、手近にある散らばったゴミを回収していった。この、後は手を出すなという意思を汲み取りつつもちょっとの手助けをしていくのに感心しながらも、自分の領域が知られているようで少し悔しい。仕方ないから、後で紅茶淹れてやろう。確かアイツはマスカットが好きだった筈だ。













 先日、チョコの分別を終え漸く一息ついたらしいリーダーが紅茶を淹れてくれて、しかも俺が好きな味で、その前にリーダーの言いつけを踏みつけたような俺からすれば非常に警戒心を煽られる出来事だった。しかし、警戒虚しく平和なことに何も起きない。コレはもしや時限式、はたまた時差式かと勘ぐり出したところで違う気掛かりなことの方がでかくなっていった。

 最近リーダーの体調が優れないのだ。

 いつも体調管理にも余念がないというのに、途端の崩れ出しようである。嘔吐下痢の典型的な症状から、目眩や痺れまであるようだ。病院を薦めても、原因がある筈だから改善すれば良い、とまるで聞く耳を持たない。どうやら、お姉さんに心配を掛けたくないという気持ちが強いようだ。

「何かお心当たりは?」

「んー…、この間年度末の重要書類締め切りだったし、量多くて徹夜とかしたから、糸が切れたのかも。」

 緑茶を出しながら聞けば、考えるようにする。執務室でお湯につけたタオルを目に乗せ、椅子に体を預けていた。目まで不調なのだろうか。…少なくともココ最近見る姿だ。

「その時既に体調崩されていたように感じますが。お姉さまには内緒にしときますから行きましょうよ病院。」

「断る。」

 にべにもない返答にヤスタカは呆れの溜息をもらす。リーダーは当然のごとく聞こえないふりをした。どうにもそれだけじゃない気がするんだが、リーダーは本気で緊張の糸が切れただけだとでも思っているのだろうか。
 日持ちしないと分類されたチョコレートケーキをタオルをとってリーダーは口に含む。見た目的にはチョコレートソースも綺麗で職人技に見える。

「それ、おいしいですか。」

「そこそこ。」

 食べてもいいですか、と聞けば即刻意見は切り捨てられた。本当に、律儀だ。一見、欲張りにもとれる発言だが、リーダーが辟易しながら食べてるというのはトキワジムならびにコトネちゃんとヒビキ君は重々承知している内容だ。
 おいしさがそこそこというのはお姉さんの手作りと比べた結果なのだろう。お姉さんの料理はかなりおいしいのだと絶賛していたのを思い出す。

「そういえば、その書類は…?」

「ヒビキの入山許可証。ヒビキこないだ俺に勝ってったじゃん、爺さんが前から知り合いだったみたいでさ、お前に勝つならこの書類も申請してくれって。」

 じいさんが気に入った人間見つけたのなんて三年ぶりだしなー、と楽しげに笑う。ひそかに締め切りを確認すれば今日のようだ。普段、リーダーは不受理を想定して前日に書類は提出している。それが今も手元にあり、俺も提出を頼まれたり留守を頼まれたりしたおぼえはないから、まだ未提出書類なのだろう。つまりそれは非常にリーダーの状態が芳しくないという事だ。いや、そんなことから推測しなくても血の気の失せた顔色で一発で分かるのだが。

「ゲホッ、ケホッ…」

 リーダーが咳き込む。それがまるで不治の病で入院しているか弱い少年を思わせて、心配になって声をかけようとした時だ。リーダーが「え」と声をもらす。
なんだと視線を追うと、書類に赤い斑点がついていた。
リーダーの口元を抑えていた手が、赤く汚れている。

「リーダー!?」

 慌てて、駆け寄ればリーダーも酷く焦ったようで椅子からとりあえず立ち上がろうとする。しかし、立ちかけた時にリーダーが足から崩れ落ちる。
間一髪、なんとか床に体を打ち付ける前に支えるとリーダーの口から赤い筋が細くできていた。

















 白い壁に、油を水に浮かせたような斑が見える。
カラフルで、でも色がなくて、世界はグルグル回ってて、



 気持ち悪い。



「………、」

 目を開けるとヤスタカがいた。本を読んでいる。
頭がぐらぐらしてよく距離感がうまくつかめずにいる。

「ヤス…、」

 点滴を打つために出されている左手で布団をボスボスかるく叩きながら意思表示をした途端、勢いよく顔をあげ確認したヤスタカは俺のほほを両手で軽くたたいた後、見えますか等とよく解らない確認をしてきたため、とりあえず小さくうなずいておいた。すると俺の頭の上に手を伸ばし何かしらした後に泣きそうな顔で微笑んできた。全く、意味が解らない。全く以て。

「本当に良かったぁ〜、このまま起きなかったらどうしようって思ったんですよ、まあ医師は大丈夫って言ってたんですけど。」

 ここは、病院のようだ。俺の頭を抱きしめさんざん髪の毛をぐしゃぐしゃにしてくれたヤスタカはナースがくると漸く俺を解放し、そうのたまった。
しかし、なぜ病院のベッドにいるのか理解できなかった。

「なんで、…」

 舌先がわずかにしびれ、寝てた事も加わりうまく喋れず舌足らずな発音で、しかも単語というなんとも園児のような口調になってしまうも気にせずにヤスタカは説明をしだしてくれた。

「リーダー覚えてないですよね、そりゃそうか…。」

 一人納得されるのが気に食わない。
「いいから」と促せば、それはそれは現実だと思いたくないような、言葉がどんどん飛び出してくる。
 バレンタインデーのチョコに毒が盛られてた事。
神経毒やら、植物由来の毒、動物、ポケモン由来の毒だともうそれはそれは知らない横文字のオンパレードで、解ることは毒がヴァラエティー豊富にあったということ。
そして、それを俺は気づかずに摂取し続けたという事だ。
 …確かに、俺はよく憎まれ口をたたく。しかし、言ってる所は間違ったこともないため、訂正する気も間違った事をしてる気もない。だからといって他に毒を入れられるほどの憎悪を買った覚えはない。
しかしそれを摂取し続けたという事は俺を憎んでる奴が複数いるはずで。

「しかし、リーダーが搬送された後警察に調べてもらったんですけど、毒が発見されたのは積み上げられたチョコの上層部分、つまりすぐ手にとれるやつにあったものです。そして毒が検出された包装には小さな穴が開いていました。」

つまり、毒は俺たちがいない間に何者かによって外部からいれられたという事。

「犯人は複数かどうかは判断しかねますが、針のサイズは二種類だったのと、毒の種類が多くても幅に制限があるためチョコを作った者と毒を入れた者が別で、毒を入れたのは全て同じグループないし人物だと今のところ判断されています。」

 その調子だとこんな行為に及ばれる覚えはないみたいですね…、苦笑しながらヤスタカが言う。
全くだ、全く記憶にないのだからこちらも困ったように眉をまげて返事を返す。
 そのあとしばらくジムの様子や周りの様子、他愛もない話をしたあとにヤスタカは時計を見、そろそろアキエが来るころなので俺は失礼します。と席を立った。姉ちゃんには俺が意識を戻したのもヤスタカから伝えてくれるようでありがたい部下を持ったものだと実感する。今度は紅茶と一緒にケーキを出してやろう。
 窓を眺め、ヤスタカが置いて行った本を見る。タイトルには「戦略!!ポケモンバトル」と書いてあり、ヤスタカが俺の意見を聞いてくれているのだと少し理解はできた。俺に媚を売ってるだけかもしれんが。
中をぱらぱらとめくりながら眺めていると、ふと視界の端あたりからゴトリという音がした。そこは衣服などが入れられる棚だったはずだ。
 扉が、
開いたように…











ガタンッ






ピーーーーーーッピーーーーーーーーッ
ナースセンターのコール音が鳴り響く。

「あら、またオーキド先生のお孫さんの病室だわ、さっき行ったのにどうしたのかしら。」

 ナースが一言、呟いた。




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