遊び



気持ち、魔女狩りの続き




気付いたら、道に立っていた。
レッドは最近ずっと嬉しそうで周りをクルクル回ってる。

気付いたら、転んだのか口の周りに茶色い汚れがこびりついている。
それを拭って家へ帰った。












ああ、僕の愛しい愛しいグリーン!
自分の所業も知らずに漫然とした終わらない人生を続けている。
彼の有り余るエネルギーも、体質もそのままだが、魔女と呼ばれる由縁となった能力は、彼自身が心をふさいでしまったため発揮されることはない。もはや、ただの少年だった。ただの、と言うには多少問題があるほどに彼は霊を引き寄せるけれど。以前の彼は力のセーブまで出来ていたから全く霊を寄せなかったし、寄ってきたのも除霊はするし悪意のある霊は自身によこすなど、然るべき対処とやらをちゃんとしていた。
当然自身の腹が膨れるわけがない。
そんな中、空腹に耐え彼の近くにいたのは、グリーンという人間がいとおしかったから。
強い霊力に充てられ近づけば、ただの霊媒体質の人間は自分が死者か別の何かかの区別はつかない。しかし、

「なんかまた違う奴だな。お前は何。」

近くに動物や精霊が近づくのを赦し、害を及ぼすモノは自身でも追い払う事が出来ていた。だが、俺が霊ではない何かと判断を下すわけがないと判断したのに、彼は俺の正体を知るわけでもなく異にする存在と解っていた。
驚きだった。

そこで、俺は彼の魂を喰らうのはやめたのだ。

観察をしようとおもった。




室内が焼け焦げた家の真ん中にグリーンは座り込む。彼の定位置だ。彼の正面にはバカ丁寧に亡骸の残骸が一列に並べてある。こうしたのはグリーン。数人の魔女狩りにきた聖職者と己の家族すら焼き殺した翌日の昼、彼の元にこの近辺最強と謳われるエクソシスト、他にも何人も名が知れているらしい聖職者が一気にグリーンを取り囲んだ。隣の夫人が昨日の騒ぎのあとを見に来たのだ、とんだ野次馬魂である。そして悲鳴をあげ教会に早朝から駆け込みに行った。
彼女が見たのは座り込んでいるグリーンだった。
恐らく、死んだ聖職者を胸の前で手を組ませ綺麗に並べた状態で、自身は姉と祖父の遺体を大事そうに抱き込んでいたからだろう。
グリーンは、囲んだ聖職者達に「助けて」と言った。彼らに何度も助けを求めた。だから教えてやったのだ。

助けを求める相手が違う。

言った後のグリーンは絶叫した。「違う」「お前には言ってない」「やめろ」と何度も気が違ってるかのように叫んだ。グリーンは賢いから知っていたのだ。どちらに分があるかを。どうやら、最高の地位を戴いている男は俺の強大さを感じ取ったらしい。しかし悲しきは実力の差を解れなかったことか、高い位に慢心し、おのが実力を測り違えたことか。
男がグリーンに触ろうとしたため一瞬にして燃やしてしまった。それを見てもグリーンは、表情は変わらなかった。もとから絶望に染まっていた表情に変化はなかった。
当然だ、グリーンも解っている。もう力のコントロールが上手く出来てないから力の駆け引きではこちらが勝つのだ。そのためグリーンは、エネルギーをただただ搾取されるだけ。今グリーンは、霊能者としては木偶と化し、レッドの原動にしかなっていない。しかも、搾取されるのも体力を奪われ、更に奪われやすくなるというグリーンからしてみればとんだ悪循環。
しかし、最悪なのはこのあとだった。
いわゆる、シックスセンスと呼ばれる物をレッドはエネルギーとして使っているが、グリーンのエネルギーが底をついたとき、気を失う。命とは違う体力のようなものだから死ぬことはない。だが、グリーンは、気を失うのも避けるべきだった。
息を切らせふらつき出したグリーンを周りの者は見守る。既に一人、しかも切り札がいきなり燃えカスとなったのだ。誰もが恐れ手を出しかねていた。

「ねえ、ちゃん…」

姉であろう亡骸を抱く腕にぎゅっと力を込めた後グリーンは倒れた。
これを機に周りは今の内にグリーンを殺そうと一気に距離を埋め出す。近づけば燃やされる、そんな事をこなされた今、この異形に対して殺すことを誰も疑問に思わず、誰も異を唱えはしなかった。一致団結していた。

「愛しいよね、」

そんな言葉が発せられるまでは。
その場で全員凍りつく。
くつくつとグリーンが笑っていた。しかし、喋りの癖も雰囲気も何から何まで先とは違い誰もが気づく。
“悪魔が乗り移った”と。

ゆらり、不気味に立ち上がったグリーンの表情は穏やかだった。

「グリーンさ、家族が死んだのも自分のせいだって責めてる。そんなことないのにね?裁かれたいって思ってるんだ。」

目を細め、幸せそうに笑う。
しかし、ケラケラと愉快そうに笑った後、一瞬にして冷たい視線に切り替わった。

「ほんと、こんなに健気で綺麗な子を殺そうなんて意味わかんない。」

冷めきった視線とともに聖職者達に人差し指を向ける。誰にしようかなどぼやきながら水平に指を移動させていった。

「グリーンの中ってさー、居心地良いんだよね。だからさ、」

こんなことも出来るんだよね。

人差し指の先にいた男を吹き飛ばす。いわゆる念力だ。
男が背中を壁に強打した。周りの動揺を肌で感じる、居心地が良い。今こいつらは恐怖を感じている。とんでもないものに手を出してしまったと後悔している。
吹き飛ばした奴のよこにいた男をみやれば、萎縮してしまっているのが解る。今度はそいつを見ながらグリーンの首に爪を立て水平に肉を裂く真似をした。男は首を横に振り拒絶の意思を見せたがそんなもの知らない。
男は首から血を噴き出しながらその場に倒れた。
血の吹き出す様を見ていよいよ騒然となる。

「アハハっ!たのしーなぁ!」

高笑いに男共は恐れ後ずさるのがなんとも滑稽で。レッドは更に笑いを止められない。

「グリーンも俺みたいのに愛されちゃって!!しかも体を好き勝手に動かされるなんて!」

グリーンは、気を失ってるから今の出来事は一生知らない。そして、理解しても後の祭りだ。
そして、俺はこの町を牙城としグリーンと一緒に過ごす。

「今、生き残りたい奴、いる?」

試すような瞳で問えば、またどよめいた。命乞いしたがってるのが丸わかりだ、ただ素直に乞うて命拾いをするのが躊躇われているだけ。

「居るなら聴いておけ、グリーンは、恐らくこの家で死を選び食を断つ。僕はもう少し生きているグリーンといたい、そこでだ。お前達は生きて帰そう。ただし、グリーンには僕が霊力の高い物を食べさせる。それを見過ごせ。黙秘しろ。」

例え、食べ物が人間だろうと。

息を呑んだのが解る。確かに、聖職者として見殺しにしろと言われているのだから、認めづらいだろう。しかし、こいつらは聖職者だが霊力の無いものばかり。一人を除いて、質が劣悪すぎる。そしてそれを理解しているのは粗悪品自身。だからコイツらは黙秘を選べばこれからも餌食になることはない。

「俺は、無理だ…。」

一人、後ずさった男が呟いた後そのまま逃げ出した。
後を追うように逃げ出す男達。しかし、一人だけ残る。




「他はお前がどんな奴か解っていない。」

「得体の知れないものから逃げるのは人間よくやるんじゃない?」

「そうだ、得体を知らない奴だから。このままだと用済みになったら後から殺すんだろ?」

ニコニコと、自身がどう言った存在で、男自身との関係を理解している筈なのに笑みを絶やさない。

「契約だ。」

男が端的に言葉を発した。

「俺はお前に食われてやる。だが、以降は最低限の摂取に抑えろ他のために危害を加えるな。」

「ただでは食われないってわけ?」

「まあ、俺はどのみち食われそうだしね。」

面白い。確かに彼にはグリーン程ではないにしろ霊力がある。食べる標的にはしていた。ただでは殺される気がないが、殺されない気もしなかったのだろう。

「いいね、契約成立だ。」

俺みたいなのには契約が有効なのを理解していたらしい。
実際、俺達の種族は契約にうるさい。

「じゃあ、戴きます。」

グリーンお得意の無垢な笑顔を真似して言えば、男の笑顔は寂しそうになり、そのまま男は目を伏せた。








気付いたら、誰もいなくなっていた。
レッドは嬉しそうで周りをクルクル回ってる。

気付いたら、口の周りに茶色い汚れがこびりついている。
それを拭って姉を抱き寄せた。

俺が気を失っている間の事なんて知らない。知りたくない。
なにもしてない筈なのに、なんだか疲れた。今日はもう眠ってしまおうか。

ごめんなさい、ごめんなさい
俺が見殺しにしてしまった聖職者
ごめんなさい、ごめんなさい
じいさん姉ちゃん、俺が速くレッドの物になっておけば良かったのに。
ごめんなさい、ごめんなさい
俺、まだ生きてる。

「グリーン、また寝るの?」

レッドが訊いてきた。黙って頷く。いけないのかと、レッドを仰ぎ見ればダメだからという訳ではないらしい。ふーん、そっか。と呟いて一人納得していた。

「お休み、愛しい愛しい僕のグリーン。」

「お休み、俺のレッド。」













叶うなら、もう俺が目覚めないことを願って。



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