ハローグッバイ



グリーンが事故で死んだ。
本当にソレは唐突で、家まで血塗れのグリーンを手持ちが連れてきたことで発覚した。
しかし、
オーキド家はソレをすぐに隠蔽。
だからニュースにはなっていない。

俺?
そりゃ泣いたさ、
山頂で独りで泣き続けたよ。
涙はでてすぐには熱いくせに一瞬にして熱を奪う氷のつぶてになるんだ。

俺が連絡を受けた後、また連絡があったんだ。
誰から?オーキド博士から。
連絡の内容を聞いたとき、鳥肌がたって思考は混乱に陥った。
一瞬でいろんな考えが頭の中を這いずり回り、また第三者かのような視点で

この家族は狂ってしまったんだ、

そう思った。

持ち掛けられた話は実に簡単で、博士はグリーンを生き返らせるといった。
正確に言うならばグリーンを「創る」のであって、俺には衝撃的で、感動的で、絶望的になるには充分な一言だった。
創るとは、言い換えればグリーンのクローンをつくることだ。
博士は大権威と言われるだけあって、151匹説以外にも様々な論文を発表している。
そのなかで新しい部類なのが「成長促進成分」
進化の石には急激に成長を促す成分があり、発達不良などの治療に応用出来るといった論文で、事実研究は進められている。無論、第一人者はオーキド博士。
どうも人工の進化の石をつくるという名目らしいが、その実クローンに応用しようとするなんて。

「ワシとグリーンを一緒に作ってくれんかの?」

えらく、上機嫌に誘われた。言葉は単なる勧誘だったが断る訳がないと考えているのが見え見えだった。



別に言い方に腹がたった訳じゃない。ただ単に嫌だっただけだ。
嫌で嫌で、博士にも止めてくれといった。だが、博士はまるで俺に失望したような眼差しを向ける。

どうして、
愛しい人を亡くし、生き返らせようとしてる方が美徳なのか。
俺が狂っているのか。

さっぱり理解ができなかった。
そして、驚いた。博士はきっと死んだのが俺で、母さんが俺を創ろうとすれば止めたはずだ、挙げ句たしなめた事だろう。

俺は、正義感とか道徳心倫理観とかそんな取り繕ったものじゃなくて、
クローンのグリーンは本人ではないから嫌なんだ。
ポケモンの神様が甦らせてくれるってなら喜んで協力したさ、なんなら僕や他の命だって差し出してやる。
だから、僕と遊んだことも、旅をしたことも、チャンピオンになったことも一緒にゲームしたことジムリーダーになったこともない記憶にもないグリーンなんて、グリーンとはいえないんだ。

それでも、クローンはグリーンとして生きるんだろうけど。


だが、数ヶ月後
たったの数ヶ月後、俺がマサラに戻ったときにはグリーンが生きて居た。
反応から予想はしていたが、博士は俺の言葉をきいてはくれなかったようだ。

ジムはどうやってるのか伝わってるのかはわからないが、グリーンは家からほとんど出ない、よくて庭や玄関先。
よく部屋から外を眺めてボーッとしたり、何もせずにいることもしょっちゅうで、俺の部屋の外を見れば大体はグリーンが視界に入った。向こうが俺を目に留めたことはないけれど。

ある日、ふと目をやった先には博士もいた。彼の家の玄関先でのことだ。
何かを話していて、グリーンは大人しく相づちを打つ。
それがどうにもグリーンらしくなくて、クローンだとここまで変わるのかと考えるとおかしくて、笑った。
だけど、どうやら博士はそうはいかなかったらしい。頭を片手で支えるようにして首を振ってからグリーンに背中を向けてさっさと歩き出してしまった。

オイオイ…

どうしたもんかとグリーンに目を遣れば傷ついた素振りもなく、博士の背中に「遅くなんじゃねーぞ、じーさん!」と大声で話しかける。
今の行動は限りなくグリーンだった、だけど何かが明らかに違った。なにかが、欠如しているような…

博士がグリーンから見えなくなっただろう時、玄関前に立ちっぱなしだったグリーンは、ふらりと家の横に来てうずくまってしまった。
俺との距離は縮まってよく見えたグリーンの肩は小さく震えていた。


そこでハッとした、家族に傷ついた姿を見せまいとするのは生まれついてなのか生前のグリーンと全く一緒で、全然違った。
クローンは俺の部屋の窓を確認しなかった、俺という存在とは離別している、それがクローンのグリーンだ。

こんなの虐待じゃないか、グリーンにもクローンにも酷い仕打ちだ。
グリーンと同じアクションをしなかった場合悲しむのは自分たちで、苦しむのはクローンなのに、勝手にクローンに期待しているなんて。
脳も知識も十分でグリーンのようでも、自分に向けられてるようで向いてない愛情で育ったクローンは手探りでそれらしい行動はする。だが、挙動不審、相手の表情を常に窺う子供に育っていた。


それで失望するなんて勝手すぎる。


嫌気が先に差したのはレッドだった。

窓枠に手をかけ、グリーンの目の前に飛び降りる。

ふと顔をあげたグリーンの表情には警戒と驚きの感情しかなかった。
これが、クローンの素の顔なんだ。


「初めまして、僕は君と幼馴染みって設定のレッドだよ。」

グリーンが俺は好きだから、
クローンの彼が望むなら俺は前のグリーンらしく振る舞うことに協力するよ。

彼がグリーンとの決別を望むなら、僕が新しいライバルになろう。







好意で近づいた筈なのに向けられたのは、悲しみを堪えるような顔だった。




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