君であれば誰でもいい


スペグリ出てきます。




「ん………?」
「……………」

朝、起きたら、横に誰かいて、
それがまさかおれ自身だなんて誰もおもわねーだろ。俺も思ってなかった。
そう、「なかった」んだよ、今現実は俺の目の前には俺がいる。

ただ、目の前にいる俺はビックリしてベッドからずりおちた俺に反して、眉間にしわを寄せて寝起きだからか不機嫌そうな顔をしている。
そんなにシワ寄せてたら戻らなくなるぞ。

「物まね娘か…?人のベッドにもぐりこむとは…いい趣味だな」
「あんなガキと一緒にすんな!それに、俺のベッドだ!!」
「!?」






まあ目の前にいる俺は、どうも見たまんま無口系クールらしい。俺さまのような社交性は持ち合わせてなさそうだな。
どうも、この俺似の無口は姉がいるらしくて、祖父は研究者、自身もジムリーダーをしているらしい。なんて数奇な。
しかも、幼馴染はポケモンが強くてライバル、だとか。
嫌な予感なんて当たるもんなんだよ、ココまで来るともう確認せざる終えない。

「お前、名前なんていうんだ、フルネームで。」
「……オーキド、グリーンだ。」


ほら、ほらほらほらほら!!!!
だから言ったじゃねーか!嫌なことはあたるもんだって!!
だってコイツ、つまりはドッペルゲンガーなんだろ!?よく言うじゃねーか、ドッペルゲンガーに会ったら死ぬって。
俺の人生短かったな、ハハ…。
俺がナーバスになってるともうひとりの俺から引きつった顔で声をかけられる。

「まさか、お前もオーキド・グリーンか…?」


そうだよ、俺だってオーキド・グリーンだよ、ドッペルゲンガーのオーキド・グリーンさん。
自虐のような笑いを浮かべながら応えてやると、ドッペルゲンガーといわれたことを不服そうにした後に何故かドッペルゲンガーは考え込むように口元に手をやる。

「ここは、俺とお前の世界、どっちなんだ?」

しばらく共通点を話してなんとか相違点を見つけ出した。
それは姉ちゃんの存在だ。俺の姉ちゃんは家で家事をしてくれてるが、どうもコイツの姉ちゃんは研究者で髪の毛もロングらしい。
ただそれ以外は結構似ていた、まあ髪の毛って外見の問題もあるから見分けるのは大丈夫だろ、

「なら話は早い、確認しに行くぞ。」
「待て待て待て!!どっちがだ!?」

だって俺ら二人で行ったら姉ちゃんビックリするだろ!?
それはそうだなって顔で動きを止めるドッペル、コイツ頭の回転速そうだけど意外とてんぱってんのか。

「お前、行きたいか?」
「う…」

行きたいなんて、返せるはずがない。だって考えてもみろ。
もし、もし俺の姉ちゃんじゃなかったら俺知らない世界に来たってことだろ。アイツを知ってても俺を知ってる奴はいない世界だ。
しかも、元から俺が居たわけじゃねーからどこにも居場所はねーんだぞ。
それを自分自身で確認するなんてすっげえ酷なことじゃねーか。

「俺が行ってくる。」

言葉に詰まった俺を見て、気にしないかのようにさっさとドアに向かっていくアイツ。ちくしょう、なんかかっこいいじゃねーか。怖くねーのかよ。
ただ、俺もちょっと気になるから階段の前まではいく。
かがんで下の様子をみると丁度無口な俺がリビングをのぞいているところだった。

そして俺のほうに眼を遣りながら俺を指差す。少し、複雑そうな顔で。
だから、俺も俺自身を指差して、俺?と口パクで返すと頷かれた。
つまり、俺の世界ってことだ。

内心喜びつつも、そしたらアイツはどうするんだと考えてる自分もいた。
さっきはドッペルゲンガーに会ったら死ぬなんて言葉を信じてへこんでいたが、余裕が出来たら心配しだすなんて、現金な奴だと自分でも思うが、アイツはさっき俺が悩んだようにこの世界に居場所はないんだ。だったら…

「あれ、グリーンどうしたの」

ふと玄関から聞こえてきた声にハッとする。この状況でアイツが来るとは非常にまずい。
しかも、あっちのグリーンもグリーンだから、反射的に振り向いてしまった。ジムから逃げるときみたいに華麗に逃げりゃいいものを。いや、あいつまじめそうだから逃げないかも。

「……レッド。」

当てずっぽうだろ!!!そう叫んでやりたかったが、こらえる。
どうやら、俺のフリをしてやり過ごすことにしたらしい。
まあ、正解だからいんじゃねーの。

すると、レッドは少し首をかしげた後にまあいいやとでも言った様に話をつづける。
よくないよくない、ソレ俺じゃないから。

「ジムに来ないから、ゴールドたちも加わって総出で探されてるよ。」

え、ソレやばいじゃん、ちょっと俺逃げないとヤスタカとかすぐ来るだろ。

「そうか、すぐ行く準備をするから…」
そこまで言うとレッドは「無口な俺」の手首を掴んで耳元で囁く。

「は!?おい、レッド!」

そう言いながら引っ張られていく「無口な俺」。
たぶん、レッドに「一緒に僕と逃げようよ」とかささやかれたんだろ。
レッドの腕っ節に適うわけもなくズルズル引っ張られていく。
ちょっと待てなんてレッドに通じるわけねーだろ!!なんて内心あわてつつ距離をとりながらついていく。

リビングを急いで通り過ぎて、二人が出て行った扉を開こうとして手を止めた。
だって、外からヤスタカの声がする。

「あっリーダー!!ってレッド君!?まさか、…」
「リザードンそらをとぶ!」
「!! 待って下さい!リーダー、リーダー!!」

ヤスタカも、ソレ俺じゃねーよ!お前のリーダーさんはココだ!
扉を開けて否定しようにも、勇気が無い。
だって俺のほうが偽者扱いされたらどうする?
混乱だって避けられない。

そこまで考えてさっきの思考が戻ってきた。
アイツの居場所がないならどうする?って、そんなの、俺の場所があるじゃねーか。
ドッペルゲンガーにあったら死ぬなんて、ドッペルゲンガーだって居場所が欲しいんだろ。
っていうか、俺じゃなくても良いんじゃねーのか。現にヤスタカは勘違いした。レッドだって違和感を覚えつつもスルーした。
だったら、俺ってなんなんだよ。俺ってイるのか?ココに。

……この扉を開けてヤスタカはなんていうかな。










「待てと言ってるだろ!!」
こっちは別世界に来て大変なんだ!!
第一お前だって俺の知っているレッドじゃないし、俺だってお前の知っているグリーンじゃない!

「なんかキョウのグリーンしゃべり方違う」

「違うに決まっている!俺はお前の知っているグリーンじゃない!」
「は?何いってんの、寝ぼけてる?」
「寝ぼけてない。俺だって混乱しているんだ、たぶんお前からするパラレルワールドという奴から俺は来たはずだ。」

この世界のグリーンはお前と俺が階段下で話しているときに上から見ていた。
俺の世界にもお前に似た奴がいるからレッドだと解っただけだ。

「…………」

レッドは黙って、信じられないという顔をする訳でもなく、静かに自分が乗っているポケモンの名前を呼んだ。
俺の世界ではたぶん俺が持っているリザードンだろうな。
リザードンは指示を聞くでもなく一声なくと、旋回してきた道を戻りだした。

少し話して解ったが、少し、この世界の俺は情緒が安定していないらしい。俺たち自身の性格にだって差異はあったのだから、環境にも差はあるのだろう、アイツがどんなバックボーンを背負っているのかなんて知ったことではないが、少しだけ、心配だった。

レッドはマサラタウンに戻るとすぐに荒々しく扉を開け、階段を駆け上がっていった。
まったく、お前の家じゃないんだぞ等と思いつつ、俺は歩いてついていく。
ココの世界の俺の部屋である扉をあけると、呆然と立ち尽くすレッドの姿が目に入る。そこに、グリーンの姿はない。

「おい、」

まさか、なんて思いつつ声をかけると短い時間で必死に探したのだろう、息を荒くしているレッドが勢い良く振り向く。

「どうしよう、」
「どこにも、いないのか…?」

コクリ、目に透明な膜を貼って喉を震わせながらレッドが頷く。
非常にマズイ。
黙って階段を躓きながら降り、また外に出た。
あたりを見回してもまったく俺と似た外見の奴なんて見当たらない。

「リーダー!!」

再び、先ほどにも聞いた声と言葉がかけられる。

「ったく、レッド君と逃げる為にわざわざ影武者まで用意しないでくださいよ!メタモンですか?さっきの、」

ッコイツ…!!自分のリーダーも見分けられないのか!
本当は仕方の無いことかもしれないが、イライラせずにはいられない。
「くそっ」と内心呟き、本物であるそいつがどこに行ったかたずねる。
凄い剣幕だったらしい、驚きながら「森に歩いていった」と指で一点を指し示しながら言われた。


その方向に走って茂みを掻き分ける。走りづらいな。そういえば、靴も履いてない。まあ同じとはいえ、他人の靴を履く気にはなれないが、
ポケモンが飛び出してきても無視して走っていく。
この方角には覚えがあった。さっき共通点を話していたとき、俺はミュウと戦い、レッドと初めて会った場所だと言った所が、アイツは「レッドとの秘密基地」と答えた。ならば、道はさほど違わないはずだ。
共通点でもなんでも、俺たちにゆかりのある場所で助かった。
共通点…?

そうだ、共通点の話をしていたとき…

やがて、道が開ける。ココに辿り着くまでに足は擦り傷がいくつも出来、俺は息が上がっていた。
もう、走る必要は無い。立ち止まった。目的地には着いた。


だが、目的の人物はもういないのだ。





―ドッペルゲンガーを見た奴は死ぬ―

「グリーン」は独り呟き、熱くなる目頭を歪む視界ごと手で覆い隠した。


「つまり、そういうことか…。」




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