pet(榊緑)




事務室で紙と向き合っていたら眠ってしまっていたようだ。人の入ってくる気配で目を覚ます。
入ってくる気配はこちらへ靴音を立てながら近づいてきた。やっべぇヨダレついてねーよな。
サボりのツケが回ってきた為、一昨日から俺は事務室に軟禁状態だ。逃げ出そうにもヤスタカやアキエ、というよりジムトレーナー全員が交代で頻繁に見張りにくるもんだから逃げる隙もありゃしない。
近づいてくる気配に違和感を感じる。

なんだ?いつもと何かが違う。



…靴の音、スポーツシューズじゃない、革靴か?

顔をあげ、革靴なんてどうしたと問おうとして言葉を失う。だって、こいつがいるなんて思っても見なかった。

「サカ、キ…!?」

そう、いたのはトキワジムリーダー前任者であるサカキ。そして、レッドが解散まで追い込んだポケモンマフィア集団であるロケット団のボス。
なんで、サカキが今更になって現れた。
思わず身構え咄嗟に立ち上がる。その途端に胸倉をつかまれ、鳩尾に鉛を打ち込まれたような衝撃。

















…?
気持ち悪い、腹の中に鉛があるみてーだ。あと首もいてぇ、なんで。
つか何でまた寝てんだよ俺。そう思い目をあける。

「……お?」

どこだ、ここ。
目を開けてみれば、視界に移る世界はまったく記憶にない…というより覚えのない風景。覚えの無い首輪。自分の座っている高級そうなソファもまったく記憶に無い。

「やっと起きたか、待ちくたびれたぞ。」

声のしたほうを向けば、柵の向こうでいすに座りコチラを頬杖をつきながら眺めるサカキがいた。
寝る前もとい気を失う前の記憶が一気によみがえる。
「なんのつもりだ…!」

「お前を飼ってみようと思ったまでだ。」

なんだそのポケモンマフィアのボスにしてはやすっちい言葉は。それに俺は人間であって同じ人間がペットにするような分類じゃねーよ。意味がわかんねー。思ったことをそのまま言葉として空気に乗せれば、鼻で笑い一蹴される。長くはなるが、と前置きされる言葉に状況を飲み込めない俺は真剣に耳を傾ける。


「細やかにいえば、私は失踪していたとされる間ずっと考えたのだ。ポケモンマフィアとしてリーグもうかつに手を出せないまでに成長していた組織がたった一人の子供に負けたのだ。確かにポケモンバトルといったものも大事にしていたからというのもあるが、その道ですら困難とされていたのに、だ。」

やはりレッド関連。ああ、そうだ。あいつは昔から無茶なやつで、何をするにも突飛だった。俺が避けていたこいつらとの接触だってあいつは自分からしていって、壊滅にまで追い込んだ。

昔っから自分を信じてたやつだった。

「才能や行動力、そんなもので片付けてしまおうにも他にもそんな輩はいただろう。しかし行動に移し成功させたのはレッドだけだ。」

ならば、彼の育った境遇はどうだ。

なんの変哲もない家庭の息子で、友達はどちらかといえばあまり多くは無い、他と同じように育ち、同じようにして旅にでた。

「その際、では他と違うものはなんだったと思う?」

わかるかよ、そんなもん。大体俺がこんな目にあっていることとどんな関係があるんだ。
当然、グリーンにサカキの話している内容はわかるにしても話す理由がわかるわけもなく、黙ってサカキのことをにらみつけるしかない。
そんな反応に満足したのか、サカキは喉を愉快そうに鳴らし会話を再開させた。

「人間関係だ。まだ年端もいかぬ子供が影響を受けるといえば、親か友人。」

しかし、普段家にいる親といえば家事をするかドラマを見ているか、一般的に見れば要領のいいすばらしい親といったところなのだろうな。きっとレッド自身もよく一緒にドラマを見ていたのだろう。

そして、TVから得た情報は子供に影響を与える。たとえばヒーローものだ、主人公がいかにも正しいかのように映し出され子供があこがれるように仕組まれているのだ。それに憧れる子供は山ほどいる。そしてヒーローの真似をして高所から飛び降りたり、怪我をして学んでいくのだ。

「そういったのはお前もたくさん経験しているだろう?グリーン」

ああ、確かにしている。よくレッドをつれてってかっこつけようとした結果、うまく着地できずに転んだり、いろいろしたさ。だからってな

「さっきからそんな話なんの関係があるんだよ!!」

俺が知りたいのはなんで俺がこんな目に遭って、挙句ペット扱いされねーといけねーかだ!!

「そう急くな。どうせお前には時間が有り余っている。そこでだ、」

そういった事を率先してしていた友人が近くにいて、しかもその友人がレッドに同じようなことをさせまいとしていれば、彼は流され、危険を自然と回避していたんだろう。

そのときに子供は、危機管理能力がうまく発達しない。

「その世話焼きな役目を果たしていたのはお前じゃないのか?」

コレをすればこうなると言った思考が発達しなかったばかりに我々に盾突けたのだ。なんのしがらみに囚われることは無く。
そして、ちゃんと危険も経験したお前は我々を遠ざけた旅をした。

お前がレッドに多大な影響を与えていたのだよ。

お前の過保護な世話が彼に危険を把握させなくなったのだ。

「私がレッドの心境をしる由もないが私たちのポケモンへの扱いが気に食わなかったのだろう。盾突いたものがどうなるかなどは考えの及ばないところだったために盾突くことができたのだ。」


あの頂点とまで言われるレッドに多大な影響を与えたものに興味がわいたんだよ。
だから貴様をここへ連れてきた。

「もちろん、生活に不自由ないよう、檻の中にはキッチンやベッドやテレビ、他にも足りないものは可能な限り揃えるさ、お前の家族を連れてきたっていい。」

情報を発信するものなど、かなえられないのもコチラの都合であるがな。

付け加えられた言葉なんてどうだっていい。
要するに俺はレッドへ多大な影響を与えてしまっていたがためにここへ連れて来られたということか。なんて勝手な。

「っふざけんな!!」

唸るように叫び、ボールホルダーへ手を伸ばす。実際相性はそこまでいいわけではないがレベルは確実にこちらが上、勝った事だってある。あの余裕な、顔…を。

ない、手持ちの入ったボールが。

嘘だろいつもあんなに肌身離さず、もう、離れ離れになられないようにずっと着けてたのに…!!

「お前の手持ちやポケギアはここだ。」

サカキが錯乱しかける俺に声をかける。急いで目線をあげればサカキのデスクの上にスイッチが壊れたボールが六つ。どれも俺ので、俺が本気のときに出す、肌身離さずつれていたポケモンたち。

「なっ…返せ!!」

俺とサカキを隔てる柵が邪魔で仕方ない、つかんだところで当然微動だにするはずもなかった。

「残念だが、その願いは聞いてやれないな。お前にポケモンをもたれると厄介だ。」

ちくしょう…。あいつらが人質ってか。手元にあれば、俺が何かしでかそうとしたときにすぐ対応できるからな、相手がロケット団のボスなだけあって洒落にならない。

「理解してくれたようだな、代わりと言ってはなんだがテレビをつけるといい。お前の大切なものの状態がわかる。」

今ならどこをつけてもやってることは同じだ。
そういわれ、納得はいかないがしぶしぶ言う事を聞く。檻の中の机にあるリモコンをとり、電源を入れる。

サカキが言いたいのは俺のことがニュースになっているということなんだろう。
チャンネルをかえずともニュースはやっていて、そこには半壊したジム。おいおいおい…コレって…、トレーナー達は無事なのか!?
ニュースキャスターは他人事のように淡々と語る。

―午前10時ごろ発生したトキワジム襲撃事件ですが、室内にはオーキド・グリーン氏がいたとされる執務室には割れたカップとRと描かれた紙があり、R団による事件として捜査されている模様、なお戦闘したとされるトレーナー達は全員軽傷であり病院搬送後、2名は意識を取り戻したそうです。―

よかった、トレーナー達は無事なようだ。その後に毅然とした態度で話すことは無いとマスコミに対応する姉、祖父は取材拒否。ということは両方無事。
その後は爆音を聞いたらしく住民がとったビデオ映像。ジムからの中継。

「私なりに配慮はしたつもりだ。いつも騒がれては適わないからな。どうだ?普段どおりの生活をする気になったか?」

ありえない!
キッと睨み付けると「そうだろうな。」とサカキはつぶやき、立ち上がり近づいてきた。
何をする気だ、くそっこんなときポケモンがいれば、
勢い良く鎖をひかれる。鎖は首輪に繋がっており勢いで反応し切れなかった俺は柵に衝突する。

「ぅ…!!」

あげまいとしたが、痛さのあまり思わず呻き声がもれた。しかも、首が絞まる、苦しい。息が、

それならどうだ、

サカキが耳元で囁く、お前からの提案なんて…

「お前に入手したレッドの情報をやろう。」

レッド…?今どこで何してるかもわからないのに、こいつ等知ってるのか…?どうせ、手持ちたちはサカキの手元だし、でも、こいつらは悪だ、俺があきらめてどうする。レッド、会いたい。トキワのジムリーダーとしてなんとしても。

「もうお前は体面を気にする必要はない。」

あ、駄目だ息が。頭が働かない。

お前はどうしたいんだ。グリーン。

俺は…




静かに目を閉じ、意識を手放した。
そのとき頬を伝ったものがなんなのか何て理解せずに。





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