まじない



パチンッ パチンッ

軽快に弾ける音が室内に響く。
床にティッシュを一枚ひいて爪を切っていく。
長くなると面倒なのだ。缶を開ける分にはむしろ長い方がいいのだが、ジム戦となるとそうもいかない。
俺が爪を切る光景を何が面白いのかさっきまで読んでいた雑誌を放って眺めてるレッド。

パチンッ

最後の爪を切り終えてやすりをかけていく。正直おれ自身はやすりをかける必要性をあまり理解していない。
ただ、ねえちゃんにうるさく言われている間に習慣化したのだ。おかげで爪の手入れに関する知識は他の男よりあるし、ピカピカだ。
とりあえず切った爪を捨てようとティッシュをまとめて立ち上がる。

「ねえ、」

ついにずっと観察するように眺めていたレッドの口が開かれる。
黙って眺めていたのだから何かしら理由があったのだろう。
だんまりが得意技のレッドからむりやり聞き出そうとしても無駄。最近はこうやって言い出すのを待つようにしている。
レッドの方を向き、続きを催促する。

「その爪頂戴。」















……………



「………は?」



だんまりが得意な俺の幼馴染みが、異常な思考回路の持ち主だったのをすっかり忘れていた。

「意味わかんねーよ、変態か。」

軽くあしらい、ベッドであぐらをかいてるレッドを無視してゴミ箱へ向かう。
………と、ダイブするかのごとくレッドが俺の足へとびかかりホールドしときやがった!あぶねーだろ!ばかっ!

「っなにしやがんだ!」

思ったまんまたまらず罵声を浴びせかけるけれど、やはり得意技のだんまり。つんのめった俺が実際ころぼうと関係ねえんだろうけどよ。そこまで蔑ろにされると傷つくぜ。

………仕方ない。

「この優しい俺様が一応爪を欲しがる理由を聞いてやろーじゃねーの。」

「………呪い、かけれるのかなって。」

は?のろい?
なんだコイツは。オカルト趣味なんてあったのか。にしても俺の爪?まさか呪い殺すことができるのかとか?馬鹿馬鹿しいと一蹴しようにもゴーストタイプののろいなんてマジで呪いなんだからシャレになんねーよ。
つまり、コイツが俺の事が大嫌いなのか単に知的好奇心を満たしたいだけなのかは関係なしに呪われる俺としては良いことなんてひとつもないわけだ。
………というより、俺への精神的ダメージはハンパない。
だって、俺コイツからしたら殺したいやつって事だろ。もしよくたって死んだって構わない存在。
大好きだけじゃ形容しきれない存在からの扱いに傷付かないわけがない。

「………お前なんかもうしんねーっ!」

しがみつくレッドの足を文字通り一蹴してゴミ箱に爪を投げ捨てたあと部屋をでていく。その際、思い切りドアを閉めてやった。うるせーだろ、ざまあみろ。あ、だから嫌われんのかな。ははっ、俺って超バカ。
ねえちゃんはどうせリビングだとおもい、一時の避難所に部屋にこもらせてもらった。




「だって、そうでもしないと俺に夢中になってくれないじゃん、」

グリーンが出ていってしまった彼の部屋で独り呟く。
レッドのいった呪いは呪いといってもまじないの方だ。恋まじない。効果はあるか知らないけど、それでもすがりたいのだ。
だって、




こんなに愛してるんだから。






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