何もない(グリーン独白)



ああ、この手の自己嫌悪には慣れてる。
一人で今の心境に納得し、一人で慣れてると説明して、一人、ハンッと自嘲するような溜め息を吐き出す。
最近、レッドが山から降りてきたらしい。前に「僕が弱くなったらきっと会えるよ。」なんて解釈しづらいし、「そりゃ、どういう意味だ。」と怒りたくなるような発言をしたのを覚えてるから、きっとレッドは誰かに負けて山を降りたんだ。
俺は力がないから、レッドを山から下ろすことは出来なかったし、出来ないことは知っていた。
脳内には三歳年下となるジョウトの少年が思い出される。俺、アイツが苦手なんだけどな。出来れば思い出したくない。
しかし、ようやっとソコで得心した。俺の自己嫌悪はコイツの顔が浮かんでいたからか。レッドと一緒に。
二人が笑いあっている光景が容易に想像できるんだ。嫌と言うほど二人ともまっすぐで、嫌になるほど強くて、嫌みなほど純粋で。

俺なんかが入る余地もない。

その言葉が自ずと出てくる。自然と脳内に浮かんだ言葉を今までは否定してきたが、汚れみたいに貼り付いた言葉は剥がれることも落ちることもなく、俺に重くのし掛かっている。
だから、本当は嫌だけど、理解してやった。レッドの隣は俺にふさわしくない。ふさわしいのはあのまっすぐで純粋で強いあの少年がお似合いだと。
レッドのライバルはあいつだと。
俺はじきにただのおとなりさんとかすだろう。幼馴染みというレッテルが多少残るくらいだ。

いつのまにか書類にサインする手が止まっていた。
動かさねーと、そう思っても手は動かない。鉛みたいな重さ。
目頭が熱い。
ああ、目が疲れたんだな。
顔をあげ、まばたきをする。すると、堰をきったかのようなスピードで熱い涙が滑り落ちる。
どんだけ疲れてたんだよ、自分。本当は違うくせに、そんな言葉を脳内は叩き出して主張するが、無視して、書類作業を再開しようと目を戻した。その時だ。
視界に入った少し開いた扉。その先にレッドを見た。
思わず二度見して彼の名前を呼びながら顔をあげる。
当然ながら、返事なんか来ない。そうだろ、だって居るわけねーじゃん。俺みたいな奴のところにレッドが来るわけないし、レッドに会いに行ける訳もない。

「居るわけねーじゃん…。」

反芻しながら呟き、何もない無機質な天井を仰ぎ見た。

手で視界を覆っても、涙は無視して、すり抜け落ちていった。




扉の向こうに見た赤い瞳は幻覚だと思い込んで。




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