逃走中に見つけたもの(ランシル)


道のない道をどれだけ走ったか。
作戦に失敗し、湿布を貼って元気になったガンテツに追いかけ回されこんな時間になってしまった。
「やっと撒けましたか。」ズバットが肯定するような鳴き声をあげた。
「…あのガンテツというご老体元気すぎますね。」
ポケモンで応対しても良かったが、あの有無を言わせない気迫に押されてしまった。情けない。
「しかし、あのゴールドという少年…3年前を思い出す。」
3年前、我々はレッドという少年に解体まで追い込まれた。
たかだか一人の少年に。
そして今回もゴールドという少年に作戦の妨害を受けた。
簡単な任務と適当なポケモンを連れていた自分も腹立たしい。

「…………?」

木陰から声がした。ポケモンの声ではない。
自分の存在がばれた!?
まずい!
「誰です!?」
同胞という粟な期待を込めて振り替える。
まあ、同胞だったら話しかけてくるだろうが。
後ずさる気配がする。
逃げる気か!
「ズバット、いやなおと!」
気配がする方に向けてワザを繰り出す。
「ぐぁっ………」
声の後に倒れる音がした。
声からして子供らしい。
ゴールド少年とは声質が違うな。こっちの方が聞いていて落ち着く。
「そこですね。」
声のした方へ早あるきで近づき無造作に掴む。
引き摺って月明かりで明るい祠の前に投げ出した。
投げ出した少年を見て驚く。
月明かりに照らされた赤い髪がなんとも美しく、懐かしいものだったからだ。

「シルバー様…?」

端正な顔を頭痛に歪めているのは紛れもない我等がボスのご子息だった。

「コレはコレは…カントーをいくら探しても見つからない訳ですね。ジョウトに来ていましたか。」
久々にあの不機嫌そうな顔を見たくなり、敢えて引き摺ったことの謝罪はしないでおく。
すると案の定彼は眉間に皺を寄せながら睨んできた。
からかい甲斐のある少年のままだ。
思わず笑ってしまう。
アポロに話したいが、「眉間に皺が刻まれたらどうする」と怒られそうなので黙っておくとしましょう。
にしても、たった3年の内に更に可愛くなったように見える。
「そんな目で見なくても取って食うつもりはありませんよ。構わないならそうしますが。」
本気で思ったことをくちに出したが、本気具合は彼には伝わらなかったようだ。
ドン引きされましたね。
まあ、そんな姿も嫌じゃないですよ。
そういえば、アポロから預かり物がありましたね。
ポケットの中を漁る。
ポケットの中には基本的に物を入れないのですぐに見つかった。
交通安全と刻まれたお守り。
「見つけた時に渡すように言われてるんでした。」
押し付けると彼は文字を見て怪訝な表情を浮かべた。
実際に渡された時に私も笑いましたがね。
彼の豊かな表情の変化が楽しい。
「アポロさんが本気で心配してましたよ?転んで怪我をしたら大変だって」
アポロが言っていたことをそのまま伝えると
「転ぶ訳ないだろうが!」と怒られる。
そのセリフに吹き出した。想像していたとはいえ、
「その格好から出てくるセリフですか!」
彼はさっきからズボンのお尻部分を土で汚している。
そうさせたのは自分だが反応が楽しくて敢えて煽る。
彼は口を開いたが、自分の顔を見ると不服そうに立ち上がる。
ふざけているのがばれたか。
笑いすぎてしゃべれないので喋ろうと深呼吸する。
「意外ですね。もう行ってしまうんですか?」
向こうは縁を自分から切ったような物だからまあ当然か。
長く居たい訳ない。
「どうせ、逃げてる最中なんだろ。逃亡者といると厄介そうだからな」
おや?逃げてる最中じゃなければ私と一緒に居ても良いと受け取っていいんですかね。

「シルバー様」

声をかけ、立ち上がった彼に手を伸ばす。
文句を言おうと開かれた口を軽いキスで塞ぐ。
硬直する彼が可愛くて仕方ない。
彼の服の裾の裏に手を回すと、我に返ったらしく押し返された。
「変態が!」
そう叫んで猛ダッシュで逃げられてしまった。
でも良いんです。
GPSはあなたに仕込めたから。
きっとお守りは気づいて捨てられてしまいますが、
裾の裏にあるGPSのほうには気づきませんね。
コレでまた会いたくなったときにまた会える。

彼が走り去った方を眺める。
名残惜しさ我慢するためにキスをしたが、キスが更に名残惜しくなってしまった。
3年は本当に大きいようだ。愛しくて仕方ない。

取り乱した彼を想像する。足元に注意がいかずに本当に転んでそうだ。
絆創膏も持たせておくべきだったか。
そう考えていると笑えてきた。
私達は彼に甘い。
そう思いまた笑った。



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