憎いほどに許してしまう。


むかつく、むかつく。
アイツの瞳が、表情が、声が、色が、動作が頭に残って離れない。
俺はアイツの事が大嫌いだ。その想いが勘違いで好きでした、本当は嫌いじゃない。なんて、生半可なものではない。
声がすればこめかみがひきつり、姿を見てしまえば奥底から沸き上がるマグマのような想いが頭の中を這いずり回る。
ソレほどまでにキライなのだ。

しかし、憎らしいことに彼と同じ色が世界には溢れ返っている。
全て燃やそうとしても炎ですら俺にアイツを思い出させようと色で訴えてくるものだからどうしようもない。

それでも今俺のハラワタが煮えくり返りそうな理由は俺自身にもある。
あれほど嫌いなアイツを一時も忘れることが出来ないのだ。
違うことを考えていてもふとした拍子に思い出してしまう。忘れようにも苛立ちと同様なかなか消え去りはせず、そんな時は終わらせなくてはならない書類があっても手につかない。
更にそんな自分にすらも苛立ち、頭をかき回したこともあったが、手を見たときに長い爪に血が付着してアイツを思い出し、苛立ちがシンオウの雪のように降り積もるだけだった。
嫌いすぎてどうしようもない。

赤色のアイツの姿を忘れ、朝自宅からジムへ向かっているときにも呪いかのようにソレは付きまとった。

「やあ、」

グリーン。俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。折角忘れていたと言うのに。
生憎空耳と言おうにも周りにはのどかな音しかしておらず聞き間違えようがなかった。
反応を返そうか悩んでいると腕を捕まれ、顔を覗かれる。
どうしたの?そう言いたげな表情で再度「やあ、」と言われる。

やあ、やあ、やあ、やあ、………………。
頭の中に挨拶の言葉がこだまする。
声も聞きたくないと言うのに……彼はなんと言ったのか。ああ、挨拶の言葉が送られてきたんだ。

「あ、わりぃ考え事してた。」

「ああ、良かった。」

「あれ、今日のグリーンの目綺麗。」

気持ち悪い。今俺の目には嫌悪の色しか映してないと言うのに、彼はソレを美しいと言う。
「そうか?」
簡単に答えて立ち去ろうとする。ジムの関係者以外立ち入り禁止区域であれば、流石に入ってこれないだろう。
しかし、歩いてもレッドはつかんだ腕を解放せず、自分も合わせて歩こうなんて意思すら見せない。
「なんだよ。」
そういおうとして振り返り、目深に被られた帽子から覗く赤に一瞬言葉を忘れる。
口許にはうっすらと笑みが浮かび、動脈血のような赤い瞳が怪しく光った。
言葉を失ったのは、間違っても赤を綺麗と思ったわけでなくて、この光を宿したときのレッドが何か企んでいるから。
体が警戒のため強ばり、逆に反応が遅れる。
彼の顔が視界を埋め尽くし、唇に吐き気がするような柔らかい感触。
逃げようにも頭は後ろから抑えられ、油断していた口にはアイツの赤い舌が侵入を果たしてきた。
鼻で何とか呼吸しようにもわざと呼吸しづらいようにされて、おかげで舌と共に侵入してきたカプセルのようなものも酸素を求めた喉がひくつき飲み込んでしまった。
ふっとアイツの腕から力が抜け、やっと解放されたと思った脳は半透明な暗幕を降ろそうとしていた。目眩がする。
「オイ」

なんのつもりだ。そう言おうとしたが、そこから意識は途絶え、言ったかどうかも定かではない。

次に目が覚めたときには俺はベッドから1mしか離れられない状態になっていて、ベッドの端に座っているレッドは何やら楽しそうにニュースを見ていた。内容は「トキワジムリーダー1週間前から消息不明」。
起きたことに気付いたレッドは俺に話しかけてくる。

「ねえ、グリーン」

「僕ね、」




「グリーンに嫌われてる事知ってたよ。」




知っていたからといって本人から宣告されれば傷つく。
その事を体験している俺はいくら嫌っていても相手の事を突き放すことが出来ない。
監禁して、酷な言葉を吐いて、観察するような視線を向けるコイツにでさえ俺は傷付けてしまうことに畏怖できる。
諦めの念を苛立ちと倒錯させながら覚える。

だから、嫌いなんだ。



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