ヒーロー


僕の幼馴染みは生徒会長で、部長で、学級委員で、成績優秀で、皆勤継続中で、その上僕の先生で、捜索係だ。
後半に至っては僕自信が授業をサボったり寝なかったりすれば済むものだが、人間ソレが出来れば苦労しないよね。
事実現在もサボり敢行中だ。考査が迫っているのだが、実感は湧かず教師も生徒もロクにいない図書室でエスケープしている。
さっき二限目の授業が終わりとチャイムが知らせていたからそろそろ来る頃だろう。
ガラッ
ホラね、僕の幼馴染みが来た。
「っレッド!!テメー俺がどれだけ捜したと…」
一緒に登校したのに一限目が始まる時には消えていて驚いたのだろう。手をヒラヒラと振れば怒られてしまった。しかし、
「ココ二ヶ所目でしょ」
そう返せば、言葉を詰まらせるグリーン。今は文化祭も近く、生徒会は忙しい。生徒会長のグリーンは、生徒会役員にあまり頼ろうとしないせいで仕事が多く、授業の合間の休憩ですら仕事に回す始末だ。だから、多分一回の休憩に一ヶ所探して戻らないと仕事が間に合わなくなる。…今度休憩の意味を辞書で引かせてみようか。
「とにかく戻るぞ。」と顔を少し赤らめながら僕の手をひくグリーン、力強く握り返せば尚更赤くなるんだからそりゃもう可愛くて可愛くて…教室に帰ってからも幸せな僕でした。
しかし、三限目のグリーン観さ…地学の授業でグリーンの様子がおかしい事に気付く。
額に何度も手を当てたり、よく見れば震えていたり、先生は何かとゆるい人だから気付いてないのかもしれない。
終了のチャイムが鳴ってからもグリーンは、手を休めること無く生徒会のだろう筆記を続けている。そして一段落ついたのか、その紙と他にも沢山の紙を持って急ぎ足に教室を出ていった。少しふらついたように見えて気になった僕は後をついていこうとする。しかし、僕の目の前をなんとも邪魔で空気が読めないモブ野郎が通り過ぎグリーンを見失う。
急いで生徒会への道を走る。…いや、本当にグリーンの急ぎ足速いから走らないと10秒でどれだけ置いてかれることか。
案の定グリーンは、もう姿を見付けることは出来なかった。中等部の時はグリーンもしんそくなんて使えなかったんだけどな。
走っていると何か紙が落ちているのを見つける。ブレーキをかけてそのまま戻るとやっぱり見間違い等ではなくグリーンの筆跡で長い文章がズラズラと…。
落としたのに気づかないなんてという考えは不毛だったようだ。視点をあげると少し先には紙がそこら中に散らばっている。
四つん這いのまま急いでかき集めながら横を確認するとグリーンが床に倒れていた。
息が荒く、ガタガタと震えている。
目は閉じられていて僕が来たことにすら気付いてる気配はない。
急いで額に手を当ててみると、かなり熱い。
触れた事で彼が閉じられていた瞼をあげる。
「レッド…?あ、紙集めてくれたのか…」
「グリーン!?なんで高熱で仕事しようとしてるの…!」
尚も、仕事をしようとする彼を叱責する。すると、彼は「何が?」といった顔をして逆にコッチを驚かせてきた。
「立ち眩みしただけだっつうの…」
なんて、ボケた気配もなく言ってくるものだから多少腹がたって資料を抱えている彼を僕が抱える。無論、お姫様抱っこ。
ワンテンポ遅れた反応を見せて走り出したときに慌て出すグリーンに「因みに今日は震えるような寒い日でも無いよ」と教えてあげる。
「お前のソレはアテになんなぇ」不貞腐れた顔で反論はされたが、動揺はしているようだ。現に彼の震えは止まっていない。
保健室に駆け込もうとするが、開かない。
「ッなんで大事な時に限っていないのかな…!!」
ボソリと悪態をつき、腕に力を込める。それはもうありったけの力を。
バギャン カチャーン
金属音が壊れる音と何かが落ちる音が廊下に小さく響き、そのあとに起こるけたたましい音に掻き消された。
「そんなしたら扉壊れるだろ…」
後ろで扉を開けるために一旦降りて貰ったグリーンに怒られる。しかし、どれだけ弱ってるんだ。扉を勢いよく開ける前に扉の鍵が御陀仏してしまっているのも理解してないとは。
さっさとグリーンをかかえあげベッドに寝かす。
そのあとに温度計を脇に挟ませて一段落着いた所でチャイムが鳴った。
グリーンが授業に戻れなんて言ってくるがソレは敢えて無視させて貰う。
諦めたのかグリーンは、黙り大人しくしている間にさっきの書類の字を改めて見る。
書類は普段からは想像できないほどに訂正線のオンパレードだった。どれ程酷いかと言えば30行位あるのに一行で一回はミスしている。
なんでソレで気づかないんだと少し呆れた視線を送っていると温度計が計り終えた事を告げる。
温度を確認したグリーンの渋い表情に大体想像はつくが、消される前にグリーンの手から掠め取る。
「40度って…」

どうやったらこの温度で風邪に気づかずに仕事を続けれるの。自分だったらここぞとばかりに喜びながら仕事を放棄していたろうに。

少しバツが悪そうに膨れっ面をしているグリーンが上目遣いに飽きれ顔の僕を睨んでくる。「ワリィかよ」とでも言いたげだ。
「仕事、しねぇといけねぇんだけど」


は………?

いやいや挨拶がボンジュールやバイビーな時点で頭がキテるのは知ってたよ?そこを含めてのラブだよ?だがしかし。
ここまで自分を顧みないとは遂に脳みそが御陀仏してしまったか。
40度って高熱だよね。何僕がおかしいの?いや、至って僕は常識人だ。

まあ、冬場でも半袖の僕が常識人なんていう冗談は置いといて。

「グリーン」

「あんだよ。」

「もう少し、自分の事も大切にして欲しいな。」

鼻水をすすりながらウル目で睨んできた男に最大限のおねだり表情で訴える。
グリーンは昔からお願い事と押しに弱い。だから、最初はしないつもりで入学したと言うのに生徒会長なんて役職を頂く羽目になっている。
しかし、何故か自分を大切にしろといった類いのなかなか聞かないため前から悩んでいたが、最近は有ることに気づいた。

「お願い、グリーン…」

未だに悩むグリーンに今だとタイミングを見計らい、口にする。

「せめて今だけでも…休んで」

今だけを、あからさまにならないように気を付けながら強調する。
適当につけていたテレビ番組が「段階を分けて言えば、言うことを聞きやすい。」と言っていた。
それは、洗濯物で言えば最初に「取り込んで」とだけいい、取り込んだら「畳んで」と次の指令を出す。すると相手は「まあ、ついでだし…」となるわけだ。
今回は発展して本来の目的よりハードルを高く最初は言って悩むところでハードルを下げた振りして本来の目的を告げる。
僕なら絶対食いつく方法だ。
まあ、僕の場合は「今だけ起きてて」と言われれば他は寝て良いと判断してその時間しか絶対に起きないわけだが、押しに弱いグリーンなら多分ソレで押されてしまうんだろう。

グリーンが盛大な溜め息をつきながら「しょーがねーな」と呟く。ちょっとなんで僕が我が儘言ったみたいになってるの。駄々こねたのは気づいてないようだけどグリーン、君だよ。

しかし、そう思ったのはおくびにも出さず、満面の笑みで「ありがと」と言う。僕ってポーカーフェイスらしいけどみんなにも最悪でも微笑みと解るほどに。
「そんなに嬉しいのかよ…」と少し眠そうにしながら言ったグリーンの頬に「うん」と言いながら口付ける。
グリーンは、ただでさえ赤かった顔をさらに赤くして「バカレッド…」と呟くと布団にモゾモゾと顔までうずめてしまった。
暫くしてグリーンの寝息が膨らんだ布団の中から聞こえてきたのを確認してカーテンを閉めてから中央にあるソファに腰掛け、無造作に置かれたグリーンの書類と向き合う。
今くらいはグリーンのヒーローになろうと思う。
起きたときのグリーンの顔が楽しみだな。


その後、僕は戻ってきたジョーイ先生に壊れた鍵を見つけられ叩き起こされた。




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