真夜中の雑音 前
ジムからの決して長くはない道を一人帰路につく。
今日も遅くなってしまった。姉には連絡を入れたからご飯は食べているだろうが、きっと今日も寝ずに帰りを待ってくれているんだろう。
そう考えると、少し申し訳なかった。
段差を飛び越える元気は流石に無く、大人しく草むらを通る。こんな真夜中は流石のポケモンたちも寝ているから遭遇しにくい。
案の定1匹と出くわすこと無く道路を抜けてマサラにつく。
ガササッ
草むらを出てもまだ草むらを歩く音。
またか、…
気配は薄々していたが、だからといってどうにか出来るものでもない。念のため振り向いて道のりを確認する。
ホラ、誰もいない。
ここ最近だ。
一週間なんて甘いものではない。最低でも俺が気付いたのが一ヶ月前から。その前なんてどんなものかわかったもんじゃない。
姉には只でさえ遅く帰って心配かけてるのにこれ以上迷惑はかけられない。
此処等で一気に終わらせよう。
そう思い辺りに気配を探す。
シン…
遠くから聞こえるホーホーの声がやけに耳に着いた。
「グリーン?」
後ろから突然かかった声に肩が跳ねる。
マサラの方から聞こえた声に正直焦る。
いやいやなんでいんだよお前修行してたんじゃねーのかていうかまずいま何時だと思ってんだもう日付跨いでんだぞ。
「れれれ、レッド!?」
「……………どうしたの」
警戒心まるだしだね。なんて言われたが誰のせいだと思ってんだ。
にしてもタチが悪い。まあ、レッドなら幼馴染みをストーカーなど不可解な行動も合点がいくが、
なんてウダウダ考えてるとさっきの緊張がバカみたいに思えた。
盛大な溜め息をついてから「一ヶ月前からなんてタチわりーぞ」とレッドに文句をいう。
すると、レッドは訳が解らないといった顔をする。ネタバレしてきた割になぜ惚ける。
「お前一ヶ月前からなんでわざわざついてくんだよ!」
と文句とまとめてなんの事か言ってやればレッドは眉間にシワを寄せた。
「さっき降りてきたんだけど………?」
と訝しげに答えられる。だいたいレッドにも俺が何で警戒心まるだしだったか解ったらしい。レッドの回りには野生ポケモンですら1匹たりとも近づかないようなオーラが放たれていた。
しかし、さっきまでの気配は既に無く、レッドも気づいたのかオーラをバシバシ出すのを諦めていた。本当にお前のシックスセンスはどうなってんだ。
それからまた「どうかしたの」とストーカーされてる理由を聞いてくるが、正直ソレは俺にも解らない。というかストーカーするやつの神経なんて俺には到底理解できねーよ。
レッドが珍しく話を聞いてくれる姿勢だったため、他に相談できる相手もいなく途方に暮れていたので最近の事をはなす。
一ヶ月前から仕事が忙しくて夜遅いこと
帰るたびに誰かの気配がすること
姉ちゃんには心配かけたくなくて言えないこと
よくよく考えればこの時間帯になったからストーカーの存在に気づけたのかもしれない。だから、忙しくなる前、まだ帰宅する人が割と多かった時も既に俺の後をついてくる奴がいたのかもしれない。
「一応聞くが、レッドじゃねーんだな?」
「僕は隠れないよ」
うん、堂々とストーカーすれば良いってもんじゃねーだろ。
笑顔で文句を言ってやるも、正直怖い。
なんでストーカーされるかは知らないが、誰かも解らない奴にどこからか見られていると思うと怖くて仕方ない。
俯いていると白い腕が伸びてくる。
長い間雪山の最深部にいて、最近は頂上に根城を移したようだが殆ど吹雪のせいで日が当たらないからか彼自身まで雪になってしまったのか。
そう思うほどその腕は白かった。
レッドが俺の手を握る。
「僕が、守るから…」
震える必要はないよ。そう言ったレッドは温かく、俺の心を安心させた。