迷ったのがいけなかった(ランシル)


人間の気配を感じて目を覚ます。
ジョウトにすんでいたわけでも、この森が俺の家な訳でもない。
この辺りに詳しいわけでもないから警戒して筋肉が強ばる。
腰に有るボールホルダーに手を伸ばした。
気配がコッチに近づいてきているからだ。
変な奴だったら叩き潰すだけだが、俺みたいに迷ってる奴がうろついてるだけかもしれない。
背もたれにしていた木に隠れる。
まあ、隠れても普段から暗い所の夜だから一緒だろうが。
ガサンッ
茂みから出てくる音がする。息が多少荒い。
「やっと撒けましたか。…あのガンテツというご老体元気すぎますね。」
独り言ではないようだ。ズバットの鳴き声が聞こえてきた。
トレーナーか。
ボール職人といざこざがあったらしいな。
「しかし、あのゴールドという少年…3年前を思い出す。」
ゴールドを知っている!?
忌々しそうに言った言葉の隅から隅までが自分とも縁のある者だ。
相手の顔を確認しようと顔を出す。
「ランス………?」
思わず呟く。
そこにはカントーにいた時から見知っている人間がいた。
「誰です!?」
ランスが勢いよくコチラを向いた。
誰か訊いてきたと言うことは気づかれていないな。コチラとしても縁を切ったのは自分からなので有りがたい。
見つかる前に立ち去ろうと無音で後ろに下がる。
しかし、ロケット団で最も冷酷な男は簡単には逃がしてくれなかった。
「ズバット、いやなおと!」
辺りに不安定な音が響き渡る。
「ぐぁっ………」
痛い、頭がガンガンする。
平衡感覚を失いその場に倒れる。
ランスは満足そうな声色で「そこですね。」といって近寄ってきた。
二の腕を力任せに掴まれ引き摺られる。
そして少し開けた月明かりの入る場所に投げ出された。
「シルバー様…?」
未だに退かない頭痛と引きずられた痛みで蹲っているシルバーに驚く。
ランスにしては珍しくなんとも呆けた声だった。
「コレはコレは…カントーをいくら探しても見つからない訳ですね。ジョウトに来ていましたか。」
引き摺ったことの謝罪は無しか。
観察するような目でこちらを見ている。
気に入らない。
睨みを利かせると楽しそうに笑い声を漏らす。
「そんな目で見なくても取って食うつもりはありませんよ。構わないならそうしますが。」
丁寧な口調でサラリと何とんでもないことを言ってるんだコイツは。
睨むとしばらく愉快だと言わんばかりの表情をしていたが、何か思い出したようにポケットの中を探りだした。
「見つけた時に渡すように言われてるんでした。」
そういって小さな包みを押し付けられる。
お守りだ。交通安全の文字が入ってる。
歩いて旅してるのに?
怪訝な目で見るとランスはまたも楽しそうに説明を入れてくる。
「アポロさんが本気で心配してましたよ?転んで怪我をしたら大変だって」
俺が転ぶ?ふざけるな!
「転ぶ訳ないだろうが!」
思ったことをくちにすると遂に彼は吹き出した。
「その格好から出てくるセリフですか!」
確かに今、正に座り込んでいる状態だ。だが、そうさせたのはお前だろうが!
完全に遊ばれているのが奴の満面の笑みから理解でき、反論するのが癪だ。
もう構ってやるものか。
無言で立ち上がるとランスは意外そうな目でコチラを見てから深呼吸して笑うのを止めた。
「意外ですね。もう行ってしまうんですか?」
涙が零れそうなのか拭っている。
「どうせ、逃げてる最中なんだろ。逃亡者といると厄介そうだからな」
それだけ言って背を向けた。すると名前を呼ばれる。
文句を言おうと口を開きながら振り替えると
温かい感触がする。どこにって唇に。
いつの間にか腰に回されていた手が尻に向かっていく感覚にハッとする。
力の限り押し返すといとも簡単に離れた。

「変態が!」
叫んで目一杯の力で走った。
途中でお守りは捨ててやった。どうせ盗聴機かなにかが入っていると思ったのと、彼が頭から離れないから。
しかし、お守りを捨てても彼が頭から消えることはなく、むしろ脳内は独占されていく。
わからない、なんで、キスした?
だってあいつは、単なるロケット団の一人なのに。

走ってきた所を走るのを止めずに振り替える。
姿はもう見えず、当然かと向き直ろうとした瞬間

転んだ。

彼のバカにするような笑みを思い出した。



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