心音(ゴーマツ)




トクッ トクッ

一定のリズムを体全身が刻む。

トクッ トクッ トクッ トクッ
ああ、大丈夫。この人はまだ生きている。
抱きついた自分よりもいくつか年上なジムリーダーは少し困ったような顔をした。

トクッ トクッ トクッ

「僕だって若いんだからまだ死なないよ」
なんて行ってくるけどなんて説得力の無いことか。
そうしてしまったことにいつも泣きそうになる。
そうしてしまったのは俺だから。

不意に顔をあげ、あてにならない「死なないよ」宣言をしてくれた彼の顔をみる。
ホラ、そうやって口から血を流してる間はそういう資格なんて…

え?

あの人の口から血が流れてる。
表情は相変わらずの笑顔だが、目の下のクマが際立つような笑顔。
どうしよう、こういう時ってどうすればいいんだっけ?
抱擁する力が無意識の内に緩まっていってそれを教えるかのように彼が倒れる。

抱きついたのは確かに俺だ。

だが、その惨劇を遠くから眺めている。
ああ、なんだ。

夢か。

にしても、なんて酷い夢をみてんだ。経緯は解らないが、原因は間違いなくそんな事を考えてるこの頭だ。
一瞬でそう決定付け、渾身の力で頭を殴り付けようと固く握った拳を振り上げる。

が、下ろすことは叶わなかった。
誰かが腕を掴んでいる。誰だよ!と振り向こうとしたらクリアな記憶に新しいなごむような声が聞こえてきた。

「ゴールド君!?」

もう一度呼ばれ、意識が一気に浮上した。
どうやら、現実でも頭を殴ろうと寝ながら手を振り上げていたらしい。阻止されたが。

「マツバ、さん……。」
手を握っていたのは皮肉なことに夢の中で倒れたマツバさん。
何が皮肉って、それじゃまるで

生かされるのを拒否してるようで。

だって、夢の中でマツバさん、心音が伝わってきてても
冷たくって、
死人みたいで、

どうしようもなく怖くなった。

彼は俺がホウオウに選ばれてしまったために目標を失ってしまった。
幼い頃からのツラい修行を無意味にしてしまったのは俺で、
選ばれたときにマツバさんがどうなるかも考えず、俺は特別なんて浮かれてしまっていたのも俺で、

マツバさんは、目の下のクマが濃くなった。
疲れきった表情をしていた。

思考を巡らせているとマツバさんが心配そうに顔を覗き込んできた。
目線だけあげれば人の心の中を抉り見るような視線とかち合う。
その視線はほんの数秒で次の瞬間には、柔らかく微笑みを向けられていた。

「君は責任を感じることないよ。」

心配事を理解したらしく、励ましの言葉を贈ってくる。
別にしてほしくて悩んでた訳じゃないのに。
なんて、心の中でひとりごちれば、「そうだね。」と返される。

「でもね、本心なんだよ。ゴールド君は口調こそ悪いけど、芯はしっかりしてるし、いい子だ。
そりゃ、ホウオウに選ばれたって言うのには嫉妬しちゃってるね、でもそこにゴールド君を追い詰める箇所なんて無いんだよ。」
諭すように喋った内容にはもれなく安心するようなこの街にも似た雰囲気を醸し出す口調と本心と訴える瞳がついてきた。

改めて顔を窺い見れば、やっぱり深いクマが白い肌の中、目の下で存在を誇張していた。
ただ、笑顔は優しさを十分に含んでいる。

握られたままの腕からは温かさが伝わってきた。



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -