変わってしまった。(アポシル)


何で貴方があの少年の近くにいるんです。

シルバー様。


幹部は全員俺の事を違う風に呼ぶ。
ランスは坊っちゃん
ラムダはシルバー。
そして、今俺の事を呼んだのは最高幹部、アポロだ。

ランスは俺をからかったりする時には呼称が無意識なんだろうが変わっていたな。
ラムダは俺からすれば、気の良い近所のおっさんに思えて一番好きだったかも知れない。
幹部にはもう一人いるらしいが、俺は顔を見たことがない。証言をしたランスは口を滑らしたらしくキャタピーを噛み潰したような顔をしていた。問い質そうとすれば俺と口すらきかなくなり、ラムダに聞けば「パイプ役でな、世界中飛び回ってるからな」といっていたが、よくよく考えればスレ違いすらしなかったのはおかしな話だ。
まあ、今となってはそんな奴等どうでも良いんだが。
問題はコイツだ。
目の前に居るくすんだ水色をした髪の持ち主、アポロだ。
何故か物凄い鬼の形相で問い詰められ、背中が壁に当たったと思った次の瞬間には、顔の横に両手をつかれ逃げられないようにされた。
冷静に考えれば彼はロケット団幹部、俺はボスの一人息子。何も下手に出ることは無いじゃないか。
前のように普通にすればいいんだ。だが、気掛かりなのはこの質問内容。
どういう事だ。あの少年?誰を指している。俺が誰と近いって?
………………アイツか。
答えはすぐにでた。一人旅してて何度か関わった少年なんて金色の瞳が印象的なアイツだけだ。
「アイツが俺の行く先に居ただけだ。」
解ったならさっさと解放しろ。視線で訴えると彼は長い沈黙を作った。
とても可哀想な、ものを哀れむような表情で。
「私達に啖呵を切って出ていかれたときは嬉しかったんですけどね。変わってしまったんですね。あの少年のせいで変わってしまった。」
さっきから鬱陶しい。ハッキリ言ったらどうなんだ。その目を止めろ。
また暫くの沈黙が生まれる。ただし今回は哀れむ目vsにらみつけるという無言の戦いの為だ。
「知らないとお思いですか。貴方は、チャンピオンの誘いをわざわざ断り、あの少年と組んでジムリーダーとチャンピオンを相手にした。」
重いため息と一緒に吐き出すかのようにアポロが喋り出す。
コチラは気を緩めてしまったが、伏せた目をあげたアポロの顔は、瞳はギラギラとしていた。
思わず息を飲む。
今までだって凄い形相で怒られることはあった。だが、重いため息の後はいつも笑って「心配したんですよ。」と言ってくれていたから。
変わってしまった。
視線を逸らしながら「お前等が嫌いだろうが、俺まで嫌いになる義理はない。」
確かに親父を呼び戻すのは彼が邪魔したからだ。だが、もし彼がしなくても俺がしたし、三年前壊滅させたやつが来たかもしれない。ロケット団の復活なんて誰も望んでないから。
そう、誰も望んでなんか…。
「お前等が勝てば良かっただろ!!そしたら解散前みたいになれたかもしれない!だから、だから弱い奴は嫌いなんだ!!」
コレは八つ当たりだ。頭の中で冷静な自分がツッコミを入れてくる。
アポロはショックだったのか口を開けてポカンとしていた。
言い過ぎた。
荒くなった息を整えてから「言い過ぎた。」とだけ伝える。
顔を背けて謝ったからまた黙ったアポロの表情が気になった。
「ふふふ、…はははははっ」
俺にさす影が増えている。
いきなりアポロは笑い出すし、なんなんだよ!
顔をアポロに向き直すと同時にアポロの発する言葉が言い終えられる。
聞き取ったのは

ゴルバット、毒々の牙。

その二言。
視界には、青いもの。首には刺されたような刺激。
喰らったのは俺か。
なんで毒を喰らったのに俺は冷静なんだ。
ゴルバットが俺から離れると同時に目眩が起きる。それと吐き気も催してきた。
グラグラするなかそれでも目の前の人物が涙を流しながら笑っているのは見えた。
三年前迄は涙すらみせなかったのに。ましてや、声を出して笑うとこなんか見たことなかった。

「シルバー!!」
嗄れ声が懐かしい。気の良い近所のおっさんが、血相を変えて飛んできた。
アポロがラムダに突き飛ばされる。
あ、駄目だ。何処が地面か解らなくなってきた。壁を頼りに重力に身を任せる。横に倒れることはラムダが肩を押さえてくれたからなかった。
「いたんですか、ラムダ」アポロが笑いながら喋っている。
二人の後ろには俺の視界に見える前髪に似た色の髪の毛をした人物が遠くで座っている。
目の前のラムダの顔が青ざめる。絶望したような顔。
途端に顔に怒りで皺を寄せる。
「アポロお前ッ…!」
モンスターボールをラムダが構えた。駄目だ、
仲間間でそんなの、悪党がソレを破ったら駄目だ。
震える手でラムダの服の裾を掴む。
できる限り笑顔で首を横に降った。
力強く振ったつもりだが、きっと少ししか振れてないだろうけど。
お前まで変わっちゃ駄目だ。
アポロは悪くない。
ただ、
「変わっちゃったんだな…」

変わってしまっただけなんだ。
そういうとラムダは悲しそうな表情を浮かべ、俺を抱き締めた後に
「なかないでくれ。報復はしなきゃいけない。」
と伝えるとボールから遂にポケモンを出してしまった。
もう、何が出されたか識別は俺には無理だけど。
俺自身が涙を流していたなんて知れなくなっていたけど
それでも、アポロを責めちゃ駄目だと頭の中で訴えた。

薄れる意識の中で大切な人をココまで狂わせてしまったゴールドを俺は恨んでいたのかもしれない。



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